Chapter6

第1話

気づいたら、僕はいつもの街の、交番の中で眠っていた。

上半身を起こすと、そこには年寄りの警官が、やっぱり窓の外を見ながら、ぼーっとしていた。


「目が覚めたか?ナウム。」

「えっ……」

そう言うと年寄りの警官は、嬉しそうに禿げた自分の頭を撫でた。

「そろそろ、見周りの時間じゃな。ナウム。」

「は、はいっ!」

僕は慌てて、立ち上がって外へ向かった。

「気をつけてな。」

「はい。」

帽子を直すと、なぜか夢から覚めた気分になった。


「あの…」

「なんだ?ナウム。」

「…僕、どのくらい寝てました?」

「さあな…」


僕は一瞬不思議に思って、ゆっくりと振り返った。

「なにせ、長いこと寝とったようだからのぉ。」

「…そうでしたか。」

「気にすることはないさ、ナウム。」

「はい。」

そう言って、外に出た僕だけど、一つだけ今までと違う部分に気づいた。


年寄りの警官

あんなに物覚え、よかったっけ?


だけど僕は、そのまま自転車を走らせた。

街を走ると、相変わらずみんなが僕に声を掛けてくれた。

「ナウム!」

「やあ、サーシャ。今日もパンは売り切れたかい?」

「うん。」

変わらない、サーシャの無邪気な笑顔。


「当たり前だよ。誰が焼いてるパンだと思っているのさ!」

「オリガおばさん!」

「さっ、今日も美味しい昼食を用意してあるよ。ナウム、サーシャ。一休みしな。」

相変わらずのオリガおばさんの、パンの味と優しさ。

でもオリガおばさんは、なぜか表情が以前よりも、明るくなった気がした。


昼食を摂ると、今度はもっと遠くまで、自転車を走らせた。

「ナウム!」

「イリヤ…」

キィーッと彼の傍に、自転車を止めた。

「今日はどこへ?」

「丘の向こうまでだよ。」

「丘の向こう!?」

「ああ。」

戦争で片足を失くしてから、無茶なんてしなかったイリヤが……

「頑張って、イリヤ。」

「ああ、ナウム。君もな。」

そう言ってイリヤは、同じように高く上へ伸ばした手を、大きく振った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る