第3話

「…何の為に?」

「平和の為だよ、ナウム。」

「平和?」

そしてボリスは、川の方へとスタスタ歩いて行く。


「さあ!出発だ!!」

僕もボリスの後を追うと、いつの間にか、川には大きな船が停泊していた。

「こんな国とも、おさらばだ!!」

ボリスの一声で、街の人が途端に、船に乗り始める。


「やめろ!皆をどこへ連れて行く気だ!!」

僕はボリスを、力ずくで振り向かせた。

「平和な国に行くんだよ。」

「何だよ、それ!!」

「ナウム。残念ながら、僕たちの生まれ育った街は、暴力と破壊に満ち溢れている!僕はそんな街から、みんなを助けたいんだ!」


ボリスは、昔から人想いだった。

それは大人になってからも、ちっとも変わることはなかった。


「だからと言ったって、他の街に移り住んでも、結果は同じだ!ボリス!!」

「違う!」

ボリスは、僕を強い力で押し倒した。


「ボリス!街の掟を、忘れたわけじゃないだろう!!」

「ああ、あの”この街を出るな”というものか?そんなものは、当の昔に忘れたさ!!」

あの冷静なボリスが、感情的になるなんて……

意外だった。


「そんなものに囚われているからこそ、あんな悲しい戦争が起こるんだ!ナウム!君だってその掟の、犠牲者だろう!!」

「犠牲者!?」


親しい友人の父親を失った。

実の母親を失った。

知ってる人、次々に戦場へ散っていった。

そして、誰一人として、戦場から帰ってこなかった。



みんな、

この”出て行くな”と教え込まれた、

この街の為に!!


「…ない…行きたくない。」

船に向かう街のみんなから、聞こえるうごめくような声。

「戦争には行きたくない……戦争は…もう、嫌だ…」

虚ろな目で、たくさんの人が船に向かっていく。


エレナも、オリガおばさんも、イリヤも!

踊り子達も!!


僕は、みんなに向かって走った。

「戦争は、無くならない!!!!」

船に向かう街の人の目つきが、鋭くなる。

「なぜなら戦争は、人間が起こすモノだから!!」


ハァハァと、息が切れる。

僕の目には、いつの間にか涙が溜まっていた。


「だからこそ、僕たちの手で!!この街を平和な、戦争のない街にしていかなきゃいけないんだ!!!!!!」


ありったけの声で叫んで、僕はその場に、大の字に倒れ込んだ。

遠くから、僕の声を呼ぶ声がした。

あの声はエレナ?

ああ、正気に戻ったのかな。

なんだか、街の人の声まで聞こえてくる。


みんな戻ったのかな。

元のみんなに戻ったのかな。

戻ったんだったら、みんなでまた……


僕たちの 街へ 帰ろうよ

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