Chapter4

第1話

――――………

僕が警察官になって、一年たった頃だろうか。

ふと、ある事に気づいた。

それは、街の見回りをしている時だった。


「見回り行ってきます。」

「ああ、若い者…」

「ナウムです。」

「ああ、ナウム。気をつけてなぁ。」

いつもの通り、昼休みが終わった頃。

僕は自転車に乗って、街を巡回していたんだ。


急に、違和感を感じた。

いるべき人がいない。

そんな気がした。

まさか、そんな事はない。

どこかに引っ越すのなら、必ず誰かに言う筈だ。

でも、角にある花屋も、大通りにある鍛冶屋にも、昨日までいた店の人が、いなかった。


そんな時、進行方向によく見る顔を見つけた。

「サーシャ!」

だけどサーシャは、僕の顔を見て、ひどく怯えた様子だった。

「ナウム…」

よく見れば、いつも売り物のパンを入れている籠は、空っぽだった。

「サーシャ。今日のパンは…」

いつもよりも、早く売り切れたねと言おうとしたのに、サーシャの顔色は、だんだん悪くなっていった。

僕は、嫌な予感がした。


「サーシャ……一つ、聞いてもいいかな。」

「なに?」

震える声で答えたサーシャ。

「オリガおばさんは?最近見ないけれど、どうした?」

「…わからない。」

「サーシャ?」

「わからないの……ある日、突然いなくなってしまって…」

僕は、目を大きく見開いた。


いなくなった?

ある日突然?


「オリガおばさん、本当に何にも言わずに、いなくなったのか?」

「うん…」

あの子供好きの、一番サーシャを可愛がっていた、オリガおばさんが?

何も言わずに、ある日突然、姿を消した?


「……サーシャ。売り物のパンはどうしているの?」

「おばさんのパンを、見よう見真似で作っているの。でも、あまり上手く作れなくて……」

サーシャの籠が空なのは、決して売りてる訳じゃなくて、売り物になるパン自体が、少ないからだったんだ。

僕は、サーシャが可哀そうになった。


だけどサーシャだって、家に帰ればエレナが待っている。

「エレナは?エレナは、家にいるんだろう?」

「…いない。」

「えっ?」

「姉さんもいないの。何も言わずに、いなくなって…」


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