第2話

しばらくしてこの街も、日常を取り戻しつつあった。

その証拠に、街角には仕事が溢れていた。


ある日、戦争から帰って来て、何もすることがない僕は、街角で【警察官募集】そんな張り紙を見つけた。

『ナウム。この街を頼むぞ。』

その時の僕は、父さんの言葉をやけに思い出して、その貼り紙を勢いよく奪い取った。


応募者がいないせいか、僕はすぐに制服を渡され、街の中心にある交番の入口に、立たされた。

交番の中には歳を取った老人の警官がいて、老眼のせいか、書類を離したり近づけたりしていた。

「なぁ…そこの若い者…」

「ナウムです。」

「あーっ、そうじゃった、ナウム。そろそろ疲れないか?」

「いいえ、大丈夫です。」

僕はちらっとだけ、老警官を見ると、また道の方を向いた。


「そうか。若い者は体力があって、いいのぉ。」

まだお昼前だと言うのに、老警官はパタパタと団扇を煽ぎ始めた。

「まさかこの歳になっても、働くとは思っていなかったなぁ…」

そう呟いて、少し高い場所にある窓から、外を眺めている。


無理もない。

この街には、老人と女達、子供達、そして僕たちのような戦争帰りの青年たちだけ。

大人の姿は、どこにもないのだから。


周りの人達が、昼食を取る為に、一旦家へ戻ると、僕たちにもお昼の時間が訪れた。

決まって僕は、老警官に、何を食べるかを聞いた。

「今日は何を食べますか?」

「んー。柔らかい物がいいなぁ。」

「はい。」

そして僕はいつものように、向かいのパン屋から、一番柔らかいパンと、温かいスープを買ってきた。

「若い者には、物足りないか?」

「いえ、大丈夫です。」

「そうか……今の若い者は小食だなぁ。」

「はい。」

戦争前の僕だったら、無論足りないと、愚痴を言っていたに違いない。


でも今は、それで充分だった。

お腹いっぱいに食べたい。

そんな気持ちも、薄れていたからかな。


お昼が過ぎると、街にもまた人が集まる。

「僕、見周り行ってきます。」

「あーっ…ああ……」

食事を摂って眠いせいか、半分寝ぼけながら返事をする老警官。

そんな彼を置いて、僕は自転車に乗り、街を端から端まで、見周りに行く。


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