Chapter3

第1話

身体にも心にも傷を負いながら、街へ帰ってきた僕ら。


「ナウム!」

一番に駆け寄ってきたのは、エレナだった。

「ナウム!ボリスはどこ!?いないの!どこを探してもいないの!!」

「エレナ……」

普段大人しいエレナが、人が変わったかのように、騒ぎ立てた。

「エレナ、聞いてほしい。」

僕はエレナの両肩を、グッと掴んだ。

「ナウム?」

「ボリスは…ボリスは…………死んだんだ。」

「嘘!!!!」

エレナは僕を、突き飛ばした。


「嘘じゃない!本当だ!」

「嘘よ!嘘!嘘!嘘!!」

そう叫んで、エレナは泣き崩れた。

「どうして…どうして…」

どうして……

その答えを、僕は知っていた。


「…撃たれたんだ。」

「撃たれた?敵に?」

「うん。僕と、ユーリイをかばって……」

その瞬間、バチンッッッ!!!と、周りに響き渡る程の平手打ちを、エレナは僕に浴びせた。

「ひどい…」

「エレナ…」


それでも僕は、彼女に手を差し伸べた。

「……れば、よかったのに。」

「えっ?」

僕は、エレナに少し体を近づけた。

「ボリスの代わりに、ナウムが死ねばよかったのに!!」

ボリスの体を、弾が打ち抜いたように、エレナの言葉が僕の心を、打ち抜いた。

「返して…ボリスを返して…」

そしてエレナは、よろめきながら立ち上がると、弱い足取りで、どこかへ行ってしまった。

「…っ」


エレナが、僕を待っていてくれるなんて、微塵も思っていなかった。

でも彼女の気持ちに、少しでも答えたかった。

それだけなのに、エレナは……


「うっ、うわあああ!!!!」

僕は、その場で顔を押さえながら、ありったけの声で叫んだ。

エレナを好きだった。

でもエレナの心の中に、僕は一欠けらも、存在していなかったんだ。

そんなひどい目に遭ったというのに、僕はエレナの気持ちが、痛い程わかっていた。

エレナとサーシャのお父さんや、もちろんボリスも。

戦場で死んでいった者の遺体は、誰一人として、この街には戻ってはこなかった。


『ナウム、泣くんじゃない。ただこの街の土に還るだけだ。』


そう言って、死んでいったボリス。

他の人達だってそうだ。

皆、この街の為に、戦って死んでいったというのに。

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