Chapter2

第1話

しばらくして、この街にも戦争の火種が飛んできた。

ここは、元は貿易で栄えた街だ。

その収益を狙って、攻めてくる国は大勢いた。


だけど、この街をこの島を攻めた国には、なんらかの天罰が下る。

みんなそう信じて、疑わなかった。

その中で火種が飛んで来たのは、ひとえに。

世界中が、そんな時代だった。

そう言わざるを得なかった。


しばらくは兵隊で持ちこたえていたこの島も、それだけでは人が足らなくなって、志願兵を集め始めた。

エレナやサーシャのお父さんも、この街を守る為に、志願兵になった。


「じゃあ、行ってくる。」

「気を付けて。必ず戻って来て。」

エレナとサーシャのお父さんは、お母さんと熱い抱擁を交わした後、二人の娘もきつく抱きしめた。

僕のお父さんが亡くなった後、父親の代わりになってくれた人。

エレナとサーシャのお父さんは、別れ際に僕にも一言くれた。

「ナウム、エレナとサーシャを頼む。」

それが、父親代わりになってくれた人の、最後の言葉だった。


日に日に戦争は激化し、ほとんどの大人は、戦争に参加しなければならない状況になった。

僕のお母さんも、エレナとサーシャのお母さんも、兵隊の世話という項目で、戦争に駆り出された。


「ナウム。お母さんが帰るまで、いい子にしてるのよ。」

「はい。」

母さんは寂しそうに笑うと、振り返らずに真っ直ぐ、戦場へと歩いて行った。


今思えば、怖くなかったのか。

どうして戦場に行く事を、母さんは断らなかったのか。

この時は、不思議で不思議で仕方がなかった。


その答えは、すぐに僕も身をもって知る事になった。

志願兵でも足りなくなった戦場は、20歳前後の若者も、戦争に駆り出す事になった。

「自分の生まれ育った街を守る為だ。当然参加するな。」

志願兵を募ったこの国のお偉いさんが、この街にやってきて、僕達一人一人を睨みながら、そう声を掛けて行った。


”はい”としか言えないこの状況が、母さんや、エレナとサーシャのお父さんにも、同じように起こったのかと思うと、僕の心は居たたまれなかった。

だってそうだ。

母さんも、エレナとサーシャのお父さんだって、子供を置いて戦場になんて、本当は行きたくなかったはずだ。


だけど、それも確かめる手段は無くなってしまった。

母さんが流れ弾に当たって、命を落としたと聞いたのは、僕が戦争に行く、3日前の事だった。

僕は、母さんの遺体と入れ違いで、戦場へと向かった。

戦場は、思ったよりも過酷なものだった。

当たり前のように飛び交う銃弾。


腹が減っていては満足に戦えない、という名目で渡された食料は、いつも同じ。

乾燥させたパン、一切れだった。

それでも毎日毎日、何百人という人間を、この手で殺した。

”生まれ育ったあの島を守る”

その為だけに。


その日もやってきた異国の兵隊に、僕達は一生懸命、銃弾を浴びせた。

それでも怯まない相手。

「こうなったら、体当たりだ!」

僕達のボスは、興奮してそう言い放った。

「全員、前に進め!」

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