第3話

そうだ、言い忘れていた。

僕にはいわゆる、幼なじみって言う存在の奴らがいて、一人っ子の僕にとっては、友達であり仲間であり、兄弟みたいなものだった。


2軒隣に住む、ボリスとユーリイ兄弟。

反対側の斜め向かいに住む、エレナとサーシャ姉妹。

特にこの4人とは、仲がよかった。


この街は、綺麗な街並みが多くあったけれど、空き地が少なかった。

それでも5人で街の中を走り回っては、空き地を見つけて、いつもいつも遊びまくっていたんだ。


僕の歳も13の頃になり、遊びまくっていた空き地は、5人が集う、指定の場所になっていた。

2歳年上のボリス、僕と同じ歳のエレナとユーリイ、5歳年下のサーシャ。

成長したとは言え、僕達のまとめ役は相変わらずボリスで、一番の愛されキャラは、サーシャだった。

そんな中、僕はと言うと…

同じ歳のエレナに、恋をし始めていた。


エレナの髪は、街の中でも評判になるくらいに綺麗で、手櫛でその髪を梳いては、異国から入ってくるチョコレートみたいに、とろけて肩に落ちた。

「エレナの髪、甘い匂いがする。」

僕がそう言うと、「エレナは、アーモンドのオイルを髪に塗っているんだよね。」ボリスがさらう様に、話に混ざってくる。


「え、ええ…そうなの。」

そんなボリスに、エレナは頬を赤らめた。

そうさ。

エレナはボリスに、恋をしていたんだ。

普通だったら、ボリスを嫌いになるところなんだろうけど、僕はそうはならなかった。


「ナウムは、大人になったら何になりたいんだ?」

「僕?なんだろうな…よくわからないけれど、死んだ父さんが『この街を頼むぞ。』って言ってたから、この街に尽くすような人になりたいな。」

「そうか…」

ボリスは、僕よりも大きな手で、肩をポンと叩いた。

「ナウムだったらできるさ。」

「うん…」

ボリスは僕にとって、兄であり、死んだ父さんの代わりのような人だったから。


そんなボリスを尊敬していたのは、僕だけじゃなかった。

「はい、ボリス。お花。」

「ありがとう、サーシャ。」

「僕からはこれ!」

「ありがとう、ユーリイ。」

ボリスの誕生日になると、みんなでお祝いに集まるくらいに、彼は皆に慕われていた。

「ボリス、はい。」

中でもエレナは、自分が作った洋服をプレゼントしていた。

「ありがとう、エレナ。」

ボリスはずっと、エレナには優しく接していた。

もしかしたら、エレナの気持ちを知っていたのかもしれない。


それでもボリスとエレナは、恋人同士になる気配はなかった。

エレナはそうなりたがっていたようだけど、ボリスが、敢えてそうならなかった。

だけどボリスは、エレナを粗末に扱ったりはしなかった。


そんな二人を見て、僕はエレナに近づくでもなく、ボリスに言い迫るわけもなく、あくまで傍から、二人を見守っていた。

それでよかったんだ。

だって他でもない、エレナが幸せそうな顔をしていたから。

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