第2話

まずは、僕が住んでいるこの街について、話しておこう。

そうだな。

この街は、いわゆる貿易で栄えた場所で、東西南北、至るところの文化が、引っ切り無しに出たり入ったりする場所だった。

小高い丘の斜面に造られた街並みは、どこかノスタルジックで。

綺麗に磨かれている石畳、道を行き交う人の声で、常に活気づいていて、子供達の笑い声も絶えない。

僕はそんなこの街が、大好きだった。


だけどね。

そんな平和で活気ある街にも、一つだけ守らなければいけない、決まり事があった。

それは、

―何があっても、この街を離れてはいけない―

親から子供へ、子供から孫へ、代々語り継がれているタブー。

僕も小さい時に、それを両親から口酸っぱく言われ続けた。

でも、子供だからどこか他人事のように思っていた。

そんな時、このタブーの事を、僕は身を以て体験する事になった。


それは僕がまだ、5歳の頃の話だ。

貿易の利益を求めて、たくさんの街の人々が、タブーを忘れ街の外に行ってしまった。

案の定、しばらくしても、その人達は帰って来ない。

そんな時、僕の父さんは、この街の外へ旅に出た。

「この街の外で何が起こっているのか、俺が直接見てくる。」

父さんは、正義感の強くて周りに流されない人だったって、母さんが言っていた。

そんな父さんに、母さんは反対した。

「いいじゃない!そんな事は!知ってどうしようとするおつもりなんですか!」

泣きながら引き留める母さんを残して、父さんは行ってしまった。

母さんは逆に、しきたりや決め事を守る律儀な人だった。


一年後、父さんは帰って来た。

「父さん!」

やっぱり、父さんは帰って来てくれたんだ!

嬉しくなって、母さんと一緒に迎えに行った僕は、父さんを見て愕然とした。

体中に切り傷があって、瀕死の重傷を負っていたからだ。

そして、この街に着いてほっとしたのか、その日のうちに、父さんは息を引き取った。


【ナウム。この街を頼むぞ。】


ただ、そう一言だけ僕に残して。

街の人達は、挙って僕の父さんを哀れんだ。

「だから、街の外に出るなと、あれ程言ったのに。」と。


最初は悲しくて泣いていた僕も、1ヶ月も経てば、父さんのいない生活にも慣れた。

父さんが旅に出ていた一年の間に、心の準備ができていたのか、それとも、幼いせいか父さんとの思い出も、あまりなかったせいなのか。


はたまた、街の子供は、街の大人全員で育てる。

そんな街の気質に、守られていたからなのか。

実際に僕は、父さんがいなくても、寂しくはなかったんだ。




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