第4話 決着

「えーそれでは最終ステージのための投票を行いますので、十分以内に書いて提出してください」

 司会者が何か言っているようだが、彼女には届いていなかった。先程のトイレでの出来事が尾を引いていたからだ。

 失敗した。いくら悪魔との取引があったからと言って、股間ばっかりに集中していたら、そら誰だって引くに決まっている。

 それによくよく考えたら、何よマスターベーション魔法って。もっと悪魔なら悪魔らしくそれっぽい感じの相手の好感度が分かる魔法くらい用意しときなさいよね。

 ああ、自分が馬鹿だった。このまま私は一人で寂しく死んだあと、悪魔に魂を取られてしまうのか。

「あの、もしもし」

「……はい、何でしょうか」

 投票用紙を書いた後の発表だったが、正直、どうでも良かった。だって、どうせ自分のことを選んでくれる人はいないと思っていたから白紙で出したのだ。

「三番さん。ご指名が入りましたよ」

「……え、えーーーーー!?」


 彼女を指名した男性はいたって普通のやせ型だった。

「よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」

 どういうことだ。この人のことは正直覚えていなかったが、そんなに反応はしなかったはずだ。

 オマケに自分よりも五歳も年下。未来ある若者がどうしてこんな三十路前の私なんかを選んだんだ? 

「あの、すみません。どうして私を選んでくれたんですか」

 すると男性は顔を少し赤らめながらこう言った。

「お恥ずかしい話になるのですが、あなた、時折僕の股間を見ていたでしょ」

「え、あの、その、これには、その」

「いいんですよ。正直に言うと嬉しかったんです」

「どうしてですか」

「実は僕、包茎とEDを患ってまして。今まで何回かお付き合いした女性はいることにはいるんですが、僕のこれを知ると、皆ドン引きして去ってしまいました」

「あ、あ~そうなんですか」

「でも、あなたは違った。僕の秘密を聞いても、関心を失うどころか、しっかりと僕の股間を見据えてくれていました。ああ、僕を一人の雄として見てくれているのだと感動したんです」

 そう言えば、一回目のアピールタイムの時にそんな話があったような。でも、こちとら股間に集中していたから、話半分にしか聞けていなかったのだ。

「あの、年下の若造が何を言っているんだと思うかもしれませんが、自分のありのままを見てくれた人はあなたが始めてです。どうかお付き合いしてもらえないでしょうか。勿論、あなたが望むのなら手術を受けて、包茎だけは直したいと思っています」

 端から聞いてみると、中々変態じみたプロポーズだ、と彼女は思った。

 しかし、マスターベーション魔法が思わない所で作用してくれたからこそ、今の状況があるのだとしたら、あの悪魔にも感謝せねばなるまいと思った。

 それに、なりふり構っていられない、と言われればそれまでだが、中々可愛らしい顔立ちをしている。これからの生活を通して自分好みの男性に育て上げていけば良いと思った。そう思ったからこそ彼女は。

「分かりました。お付き合いしてください」

「本当ですか? ありがとうございます! 」

 二人は握手を交わした。

 だが、ここでまた強烈な尿意が襲ってきた。

「す、すみません。少し席を外します」

「分かりました。待ってます」

 女は急いでトイレへ行った。

 すると、男性は一人呟いた。

「いや~それにしてもあの悪魔はすごいな。自分と相性の良い相手ほど、尿意を高める魔法。最初はふざけていると思ったけど、あそこまで効果がテキメンだったとは。まぁ、それはなくとも、僕のコンプレックスを受け止めてくれた女性と偶然出会えるなんて、あの悪魔には感謝しないとな」

 そして、男は、コーヒーを口に含んだ。

 

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魔法と婚活 花本真一 @8be

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