第5話 義眼堂を訪れた者の人生は大きく変わる。どう変わるかは本人次第。

 義眼堂で千瞳が内山から摘出した眼球をガラスの容器に入れ、透明な液体を注ぐ。眼球は液体の中を泳ぐように揺れ、あたかも意思を持ってなにかを見ているかのように黒目をあちこちに向ける。


「さあ、君はどんな風景を見せてくれるのかな?」

 千瞳はうっとりと目を細める。紅蓮は横でその様子をながめて、腕を組む。


「先生、教えてくださいよ。あたしの出番はあるんですか? わかってるんでしょ?」

 紅蓮が訊ねるが、千瞳は眼球に夢中だ。

「さあ、どうだろうね。私はこの眼球と心を通わせているんだ。邪魔しないでくれたまえ」

 千瞳の返事に紅蓮は、「はいはい」と答えて祠を出て行く。

 千瞳が客から奪った眼球は、そのまま生き続け、本来持ち主が観るべきだった世界が見ている。千瞳は眼球と交信することでその光景を見ることができる。正確に言うと、摘出された眼球は未来を含めて持ち主が見るはずの映像を全て記録している。

 千瞳はそれを自由に再生できる。早送りもできるし、特定の時間を指定して見ることもできる。眼球は持ち主の視界のタイムマシンなのだ。より多くの眼球と更新することで千瞳は世界に起きるあらゆることがわかるようになる。なにしろ未来のことまでわかるのだから。

 紅蓮が「わかってるんでしょ?」と言ったのはそのためだ。千瞳が交信している眼球の中に未来の内山の姿を見たのがあるかもしれない。あるい自殺や事件を起こしたならニュースを見たかもしれない。


 紅蓮は自分の世界の半分を奪われた人間の魂を餌にしている。さきほどの客が絶望して死ぬとか、誰かに殺されるなら、魂を食いに行かねばならない。だからいつどこで死ぬのか千瞳に教えて欲しいのだが、気まぐれにしか教えてくれない。困ったものだ。

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