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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑩′′》
ピンクガーデンこと桃園がピラフをゆったりと食べ終えた後、俺たちは少し急ぎ気味に『双響(そうきょう)の渓谷(けいこく)』がある住所の近くへと来ていた。
「もうじきだな」
ジャスティスこと白井はスマホの画面と辺りを見比べながら、先頭を歩いていると、それらしき建物が見えた。それはガラス張りの5階建のビルだった。
「すっげぇ・・・。これ本当に宗教団体の建物なんすかね?」
俺はそのビルを見上げながら、誰に問うわけでもなく呟いた。するとピンクガーデンこと桃園は、道中買ったコンビニのコロッケを食べながらそれに答えた。
「もぐ・・・、外観だけじゃ、もぐもぐ、分からないケースってもぐもぐ、結構ある、もぐもぐ、ものよ?もぐもぐ」
「・・・桃園さん、一回全部飲み込んでから話してもらって良いですか?」
しかしよく食べる人だなぁ。この細身のどこに入っていくのやら・・・。
そして彼女はゴックンとコロッケを食べ終えると、買った時に貰ったウェットティッシュで口を拭いた。
「意外とフロントは普通の企業で、内部的にそういった活動をしているところもあるのよ」
「特にヤ○ザがそういうのが多いな」
・・・て、ことは赤川もそれ絡みの可能性もあるのか?
俺はアゴに指を這わせて考えた。ジャスティスこと白井はそんな俺の姿を見て、軽く肩を叩いた。
「お前の想像通りじゃなければ良いがな。まずは、行ってみないと」
と、彼らはガラス張りの自動ドアへと進んでいった。俺もその後ろをついて行く。
中は至ってシンプルで、入って最初に目に入ってくるのは受付カウンターだ。そこには女性が2人おり、2人ともアナウンサーにいそうな顔立ちで、状況が状況なら見惚れてしまいそうだった。
「こんにちは」
ジャスティスこと白井は早速、得意の王子様スマイルで受付に近付いた。それに気付いた2人の受付嬢は顔を上げて対応した。
「はい、こんにちは!本日はどのようなご用件で?」
「いやね、目の前を通ろうとしたら美しい人が見えたからついお話してみたいと思いまして」
と、ウインクを1つ。2人の受付嬢の顔が少し赤らみ、パァァァと、客人と対応する顔とは明らかに違う顔になっていた。そしてそれを確認すると、ピンクガーデンこと桃園は俺の手を引いた。
(行くわよ)
(え、良いんですか、置いてっちゃって?)
ピンクガーデンこと桃園は指でちょいちょい、とジャスティスこと白井のとある部分を指差した。それは彼の腰あたりにあった左手だ。人差し指と中指を立ててヒラヒラと動かしている。
(あれは?)
(行ってこい、って意味よ)
俺は未だに掴まれている手の温もりを感じながら、気配を消してピンクガーデンこと桃園と共に中へと向かおうとした。少し進んだ所で手を離されて悲しくなったが、俺は興味深い物を見つけた。
「・・・これは」
俺が見つけたのはパネルにしてある写真の数々だった。海岸、川、森の清掃活動、ホームレスへの炊き出し、海外なのか、干ばつ地域で井戸を引こうとしている写真。
「色んな活動をしてるのね。これだけ見ると、藤堂警部たちが赤川さんの何を調べてるのか分からなくなってくるわね」
何だろう、この不自然さは・・・。
俺が感じたのは、ちょっとした事だったのだろうが、それが何なのかが思い出せなかった。
「資金源、ね・・・」
「資金源?」
「そう。このガラス張りのビルもそうだけど、この海外遠征の費用とかは、大規模なもの。これを専門に扱っている会社ならまだしも、他の大規模なボランティア活動にも手を出している。この巨額の資金はただの会社だけじゃ足りないはず・・・。一体どこから出ているのかしらね?」
そうか・・・!
俺が感じていた不自然さはそこだった。ボランティアを中心に活動している団体の主な資金源、これがヤ○ザと関係しているのではないかという事だ。
「それで合点が行きました。赤川はやはり、この団体に関わってます」
居酒屋でブラックサンダーこと黒柳と会った時に聞いた内容を思い出した。
『あ、あの、写真の赤川が手に持ってるこの紙袋の中身って・・・?』
『大麻(たいま)だそうだ』
『なっ!?』
『他にも麻薬や覚醒剤もこうやって誰かの手に渡しているらしい』
・・・マジかよ・・・。
一回頭を整理したい。と壁に寄り掛かろうとした瞬間、再びピンクガーデンこと桃園が俺の手を引っ張った。
(隠れて!)
小声でそう言うと、俺たちはすぐ近くにあった扉の中に入った。中は電気が点いていなくて暗く、少し埃っぽい。息を潜めて扉の方へ耳を傾けていると、ぞろぞろと何人かが歩いている足音が前を通り過ぎていこうとしていた。が、1人の足音が、俺たちの隠れている部屋の扉の前で止まった。
え?
刹那、鍵が刺さったのかガチャガチャと音を立て始めた。
マズい・・・!
俺たちは部屋の奥へと急いで、且つ足音を立てないように移動した。そしてその扉は程なく開き、外からの光を受け入れた。逆光でどんな人が入ってきたのかは分からないが、こちらには気付いていないようで、入り口付近で何かを探している様子だった。俺たちは更に息を潜め、呼吸すらをも止める勢いで入ってきた人物が去るのをただ待っていた。
「何だよ、鍵掛かってないじゃんか。えーと・・・。ん、あったあった」
と何かを見つけた様子で、その男の声の主はバサッと書類を畳むと部屋から出て行き、鍵をガチャッと掛けてどこかへ行ってしまった。足音が遠退いたのを確信すると、俺はぷふぁ〜、と止めていた呼吸を再開させた。
「いや〜、危なかったですね・・・、ってあれ、桃園さん?」
ピンクガーデンこと桃園は、とある戸棚の一点を見つめていた。俺もその棚に目をやると、そこには何十冊にも及ぶファイルがあった。すると彼女はポケットから鑑識の方々が使うような白い手袋を取り出し、指紋が付かないようにそのファイルの一冊を手に取った。
「・・・これは・・・」
一体何ですか?と覗き見た瞬間だった。再び俺たちがいる部屋の鍵が開き、誰かが入ってきた。
「お目当ての物は見つかったかな?」
!!!
何者かの声にハッとした俺たちは、体を硬直させながらゆっくりとそちらの方へ振り返った。
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑪′′》へ続く。
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