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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑨′′》
「まさか、赤川の親御さんが事故で亡くなってたなんて、知らなかったです・・・」
病院を後にした俺たちは一度作戦会議と称して、鯱ヶ丘2丁目にある老舗の喫茶店【スターゲート】へ来ていた。俺はアイスコーヒーを飲み、隣に座っているピンクガーデンこと桃園がレモネードを、テーブルを挟んでジャスティスこと白井もアイスコーヒーを飲みながら、今後の捜査方針について話していた。
「幼馴染としては、知らされなかったのは少し悲しいな。・・・にしても、相手が宗教団体となると、少し厄介だな・・・」
普段女性ばかり気にしているジャスティスこと白井は腕を組んで低く唸った。
「どうしてですか?」
「・・・お前が気にしてる奴は、その宗教に心酔してるんだろ?」
「まぁ、そうなるんですかね・・・?」
「じゃあ俺がお前に、今から1+1=3だって言ってらどういう気持ちだ?」
どういう気持ちって・・・。
「え、そんなのありえないですよ」
「そうだ、その娘にとって他の考えはありえないんだ。仮にお前が助け出そうとしたところで、1+1が2って教えられている場所からは抜け出しにくいんだ」
な、なるほど・・・。
ジャスティスこと白井の説明に、妙に納得してしまった。そんな中、ピンクガーデンこと桃園は、スマホをいじりながらレモネードを飲み干し、2杯目を注文していた。今度はコーラフロートだった。
いつになく真剣なジャスティスこと白井は、腕を組むだけじゃなく、足も組み、ソファの背もたれに体重を預けているあたり、今回の件はだいぶ難儀なようだ。そして彼はまた1つ唸ると、溜め息を吐きながら口を開いた。
「とりあえず、その双響のナンタラとやらに行ってみるか」
しかし手掛かりは団体名だけだ。今更赤川に『ちょっと双響(そうきょう)の渓谷(けいこく)について聞きたいんだけど』と連絡をしたところで怪しまれそうだ。ここは、外からの接触が好ましい。
「そうですね。調べてみましょう」
と俺は立ち上がるが、ピンクガーデンこと桃園に袖をクイッと引っ張られた。そして振り向くと、丸メガネ越しに見える可愛らしい目は俺の目を見つめており、ドキッとしながらも袖を引っ張っていない方の手に持たれているスマホの画面が目に入った。そこには『双響の渓谷』のホームページが開いてあった。
「あ・・・。そういえばさっき藤堂警部に聞いた時、その宗教はホームレスへの炊き出しやボランティアを中心に活動してるって・・・」
大きすぎるネットという広告塔に張り出されたホームページはきらびやかに装飾されていた。見ただけだとそれが宗教団体だとは分からないくらいだ。俺はピンクガーデンこと桃園のスマホを受け取り、上から順番に開けるところをタップしていく。団体の概要、活動履歴、主要メンバー、今後の予定、などなど。しかしどこを見ても、赤川 千尋(あかがわ ちひろ)の名前が見当たらなかった。
何だ?藤堂警部は、赤川が重要なポジションにいるって言っていたのに、ホームページには名前1つ載ってないぞ・・・?
俺は何度もそのホームページを見回す。しかし赤川の名前はどこにもない。俺はスマホを持ち主に返した。
「どういう事だ・・・?」
「どうしたの?」
ピンクガーデンこと桃園は俺からスマホを受け取るとキョトン、と首を傾げた。いちいち可愛い仕草に心奪われそうになるが、今はスルーしておこう。
「赤川の名前がありません」
「ふむ・・・。そうすると、答えは2つの内どちらかだな」
2つ・・・?
「偽名を使っている、か、『双響の渓谷』の正規メンバーじゃないか、だ」
「いやでも、藤堂警部は赤川が重要なポジションにいるって・・・
「青山君、私たちは探偵よ?1つでも疑問があるなら他人を信じずに自分の目で真実を見据える。いくら信用してる人物が言ったことだって、もしかしたら間違ってたって事もあるかもしれないの。・・・君には、まだ私たちが付いていないと少し危ないわね」
可愛らしい目がキリッと俺を見つめる。言われている意味が分からないわけではないが、説得力がある。
これは反省もんだな。
「・・・すいません」
「あぁ、ごめんなさい!そんな謝ることじゃないのよ。私たちも藤堂警部の事は誰よりも信頼してるし、信用もある。けど、青山君が不信な事があるならとことん調査すべき、って言いたかったのよ」
少しシュンとした俺に慰めの言葉を掛けてくるあたり、やはりピンクガーデンこと桃園は優しさに満ち溢れている。
うん、和(なご)んだ。
ホッコリしたのも束の間。今度はジャスティスこと白井が口を開いた。
「そのホームページに本拠地は載ってるんだろ?なら、乗り込んでみるか」
体を前のめりにし、組んでいた足を解いてヒザを立てた。今日の彼はやる気が凄い。
「じゃあ、少し怖いですが行ってみますか」
そうだな、とジャスティスこと白井も立ち上がろうとした瞬間、ピンクガーデンこと桃園が俺たちを止めた。
「待ってください!!」
俺たちは、彼女のあまりの剣幕にビクッと体を硬直させた。
な、何だ・・・?
恐る恐る振り向くと、ピンクガーデンこと桃園は唇を噛み締めてこちらを睨んでいた。
「まだ、注文したピラフを食べてません!」
「・・・は?」
俺は拍子抜けしてしまい、ソファに力なく座り込んだ。ドサッと、ホコリが立ちそうな程の勢いだったが、ここはやはり掃除が行き届いており、ホコリ1つ立たなかった。
「・・・それ食べたら、行きましょうか」
「はいっ!」
彼女は屈託の無い笑顔でピラフを待ち続けた。
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑩′′》へ続く。
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