④′′
《ちゅうに探偵 赤名メイ④′′》
「こ、これは・・・!」
俺は、ブラックサンダーこと黒柳が見せてきた写真に、言葉を飲んだ。
「赤川・・・?」
公園のような背景に映った幼馴染は、人物としては知っているが、知らない顔をしていた。今日と同じ整えられたショートボブの髪型、薄目の化粧にパンツスーツ姿。ただ今日と違うのは、手に持っている物と、表情だ。
「赤川 千尋(あかがわ ちひろ)は今俺が追っている、とある組織の1人だ」
俺は、今度はブラックサンダーこと黒柳の言葉に耳を疑った。今のところ、彼が馴染みの店に突然現れてからサプライズしか報告されていない。
え・・・?赤川が?何で?
頭はパニックを起こしていた。言葉にならない言葉を発しようと、俺の口はパクパクと陸に打ち上がった魚のように苦しそうに動いた。それを見て、ブラックサンダーこと黒柳は溜め息混じりに慰めてくれた。
「お前さんと赤川か知り合いだとは知らなかった。しかしなんだなぁ・・・こんな可愛い顔してやってる事は・・・、うん、許されない事ばかりだ」
慰めになってねぇよ・・・!!
「あ、あの、写真の赤川が手に持ってるこの紙袋の中身って・・・?」
「大麻(たいま)だそうだ」
「なっ!?」
「他にも麻薬や覚醒剤もこうやって誰かの手に渡しているらしい。俺も全てを知ってるわけではない。藤堂警部から調査依頼が来ていてな・・・。まぁ、俺とここで話した事は内緒な。赤川に勘付かれたりしたら全てがオジャンだ。あ〜そうだ、探偵やってるって知られるなよ?それじゃあな」
納得が行かないまま、ブラックサンダーこと黒柳はトイレから出て行った。その背中を見送ると、俺の頭はパニックを超えて逆に冷静になっていた。
赤川がとある組織の一員・・・?一体どこの・・・?
俺も、あまりに遅くなっては猪瀬たちに心配を掛けると思い、手を洗ってトイレを後にした。扉を閉めると、そこに広がる景色は先程気持ち良く呑んでいた【場所】に変わりはなかったのだが、ブラックサンダーこと黒柳との少しの会話でガラリと【姿】を変えてしまった。酔いも覚めた。ガヤガヤと騒(ざわ)めく他の席の人の後ろをすり抜けて自分の席に戻った。
「おー、遅かったな。吐いてた?」
「・・・んなわけねぇだろ」
俺が戻ってくるや否や猪瀬が冗談混じりに突っ込んで来たが、俺は笑う事ができなかった。
「お前がトイレに行ってる間、こっちは職業当てクイズをやってたんだぞ?」
え?職業当てクイズ?
「何だよそれ?」
「それぞれの就職先知らないだろ?当てたらその人が当てた人に飲み物か食べ物一品奢り。もちろん一発勝負だ!凌はトイレ行ってて聞いてないと思うから、1人で4人分当ててみろ!」
俺は無意識に赤川の方を向いてしまっていた。
これって、あの写真の手掛かりを少し掴めるんじゃ・・・?
目が合い、これまた無意識にフィッと目線を外した。当の赤川は不思議な顔をしていた。
「面白い、受けて立とうじゃねぇか」
俺は必死に頭を巡らせた。どう聞けば核心に迫れるのか。いや、本当はブラックサンダーこと黒柳の言葉が嘘だと思いたい。何かの間違いであってほしいという願いを込めて、アゴに指を這わせた。
いかんいかん、まずは赤川以外を当てなければ・・・。
何となくだが、猪瀬、鹿島と蝶野は想像が付く。猪瀬は大学時代から常に、何か自分の店を開きたいと言っていた。鹿島と蝶野に至っては、見た目は真逆でも中身は似たりよっている。俺が知る2人は、とことん堅実で現実的な安定した職業だろう。
「猪瀬は、髪を黒く染め直している事から、今は人と会うのが多いんだろう。しかし服装を見ると、大学時代からあまり変貌がない事から、当時からやりたかったデザイン系の仕事がやれているんじゃないか?その時の服装ができるのは、今でもその目標に向かっているか、叶った時かのどちらか・・・。まぁその格好が好きでっていうなら話は別だが猪瀬はそういう奴じゃない。明確な目標が出来た上でその格好をしてきた。故に猪瀬は、デザイン事務所を経営してる、ってところか?」
4人からは感嘆の声が漏れているのが聞こえた。
「鹿島と蝶野は一緒の職場だっていう事は知っている。工場勤務だ。鹿島のポケットから社員証が見えてる」
俺がトイレに行っている間に届いた2杯目のビールに口を付けて次々に言い当てる。反応を見れば、俺の推理が当たっているか外れているかなんてすぐに分かった。
「すげぇな凌!そこまで当てるなんて!」
正直悪い気はしなかった。むしろ推理している時は気持ちいいぐらいだ。ポンポンっと3人を言い当てると、俺の顔付きは真剣になった。
次は赤川・・・。
正直、俺の中ではこの職業当てクイズのメインとなっていた。先程トイレで聞いたブラックサンダーこと黒柳の話。にわかに信じがたいが、ここで白黒ハッキリさせてやろうと、俺も推理に力が入った。
「赤川はパンツスーツだから、動き回り、尚且つ人と接する仕事かな?人を不快にさせない薄目の化粧と、整えられた髪型・・・。何かの訪問販売の営業っていうところだろうか」
俺は赤川の顔を恐る恐る見た。彼女は目が髪で隠れる程俯き、口元はニヤッと笑っていた。
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑤′′》へ続く。
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