③′′

《ちゅうに探偵 赤名メイ③′′》


先程飲み物を注文して今か今かと待っていると、5人分の飲み物を慎重に運んできた女性の店員さんが俺たちの近くまでやってきた。


『お待たせしました、生中のお客様〜!』


「お、来た来た!」


俺と猪瀬、鹿島が手を挙げる。


『カシスオレンジのお客様』


「はい」


赤川が手を挙げる。


あれ、蝶野が注文したのって何だっけ?


『カルアミルクのお客様』


蝶野が手を挙げた。


「いや女子会の中盤かよ」


俺が呆れながらツッコミを入れると、4人は笑い、グラスを片手に軽くぶつけ合った。


「そんじゃ、お疲れぃ!乾杯!」


『かんぱ〜い!』


俺はジョッキを傾け、久し振りのビールを喉を鳴らしながら味わった。勢い余って2/3を飲み、お通しの枝豆を2、3粒口に放り込んだ。塩気がちょうど良く、ビールに良く会う。


「すいませーん、生中おかわりー!」


早くも猪瀬がジョッキを空けていた。こいつが酒を飲むスピードは、飲みに行く度に舌を巻いていた。しかし長くは飲めないので、飲み会の最後の方は酔い潰れて寝るか、ソフトドリンクをたらふく飲んでいるかのどっちかだ。酔い潰れて寝た時は俺が家まで送って行った事が何度かある。


「序盤はほどほどにしとけよー?お前毎回後半グダグダじゃねぇかよ」


「うるせぃ、昔馴染みが揃ったんだ、飲ませろ飲ませろ」


と、猪瀬はお通しの枝豆を口に運んだ。

そしてそうこうしているうちに、料理も運ばれてきた。ちゃぶ台には【たこわさ】、【トマトのサラダ】、本日のオススメの【だし巻き卵】、そして名物の【豚の角煮】が並んだ。どれもこれも大将が直に見に行って食材を仕入れているらしい。こだわりがあるのは良い事だし、俺たち客の舌まで満足させてもらえるのはありがたいが、これだけ手間暇掛けているのに料金がリーズナブルなのは少し心配になる。値上げしろ、とまではいかないが、もう少し高く設定しても良いんじゃないか?とは常々思う。しかしそれをしないのは、ここまで長い事店を続けている大将の腕が良すぎるのと、人柄がそうさせているのは間違いなかった。


「やっぱここの角煮は別格だよな〜・・・」


鹿島が一切れ口に頬張り、トロける脂を感じながら言葉を漏らした。


「そういえば聞いたかよ?同じクラスだった月方(つきかた)さんと酒本(さかもと)、結婚したってよ」


「マジかよ!」


「うん、花田(はなだ)さんも当時、酒本の事を好きだって言ってたよね」


「あいつモテモテじゃねぇかよ〜。よりにもよって月方さんと花田さん両方から好意があったとは・・・」


俺は蝶野からの情報で食欲が増した。だし巻き卵を一切れ口に入れ、モテていたかつてのクラスメイトの事を妬(ねた)んだ。そしてグビグビッと残っていたジョッキの中のビールを空け、ちょうど良く猪瀬が注文したビールを持ってきた店員さんに、本日2杯目を注文した。2杯目も、もちろんビールだ。


「赤川はそんな話ないのか?」


2杯目のビールを受け取りながら猪瀬が赤川に振る。聞きに徹していた彼女は、意表を突かれ、傾けていたグラスが傾いたままになっていた。気にならないと言えば嘘になる、が、幼馴染の恋愛話は何か複雑な気分になりそうだ。


「ん〜、彼氏もいないし、当分結婚はないかな?」


俺はその言葉に何故か心の中で安心していた。


「だとさ、凌?」


「何で俺に振るんだよ!」


俺は危うく口の中に入っていた角煮を吹き出しそうになった。それを飲み込み立ち上がった。


「どこ行くんだよ?」


猪瀬は笑いながら俺に問いかけた。


「トイレだよ、トイレ!」


「そうか、気を付けろよ〜」


猪瀬の声は、更に笑っているように聞こえた。

トイレは1階と2階両方にある。俺は先程予約席になっていた席に人が座っているのを避け、その先にあるトイレ入っていった。


「・・・まったく、猪瀬の野郎、変な事言いやがって・・・」


「ほぅ、それは気になるな、一体どんな変な事だったんだ?」


「いやね、赤川っていう幼馴染がいるんですけど、そいつに彼氏がいない事を確かめると俺に話を振ってきたんですよ・・・ってアレ?」


俺は不自然な事に気付いた。用を足しながら、横にいる男の方を恐る恐る向く。


「よう」


そこには角刈りサングラスの、アロハシャツとハーフパンツを着こなした大男が用を足していた。


「ブ、ブラックサンダー!?一体ここで何してんですか!」


俺が驚くと彼は何事も無かったかのように答えた。


「仕事だよ、仕事。俺らは今とある人物を調査している」


と、彼は1枚の写真を取り出す。俺は、そこに写っている人物に驚愕した。


《ちゅうに探偵 赤名メイ④′′》へ続く。

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