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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑩′》
激昂(げきこう)した中林は赤名探偵に掴みかかろうとした。
「赤名探偵!!」
俺が声を上げた時には、既に遅かった。中林の手は赤名探偵の細い首を掴み、今にも締め上げそうな程に力を込めているのが分かった。
「お前も殺す・・・!!!」
その瞬間、全身の毛が逆立ったような寒気と同時に、俺の体は自然と動いていた。
「・・・やめろ」
俺の言葉は、何故か中林の動きを止めた。それどころか、中林は少し震え、怯えているようにも感じ取れた。
「これ以上罪を重ねるのか、お前は・・・!?」
俺が中林の腕を掴む力を入れどんどん強くしていったからか、中林が赤名探偵の首を掴む力は弱くなっていった。まるで、肉食獣に睨まれた草食獣のように、静かに赤名探偵から離れた。そしてジャスティスこと白井は、キザにフッと笑った。
「・・・何故中林が自分も被害者を装ったのか、だが」
赤名探偵は、何事もなかったかのように話を戻した。軽く首をさすっていたが、問題はなさそうだ。
「まぁ、ありきたりだが、自分を容疑者から外させる事が目的だろう。過去に繋がりがあった人間を襲うんだ。被害者を恨んでいたのであれば、まず疑われない事に越したことはない」
もう、中林はこの空間では誰も襲う事はないだろう。赤名探偵程の勘ではないが、そう思う。
「そして、小宮山さんとの関係性。これは、全くの無関係だ。駅でたまたま見かけた小宮山さんを落ちてたレンガで側頭部を殴打したんだ。関係のない人が被害者に加われば、捜査は撹乱できるからな。そして小宮山さんが聞いた『チャリ、チャリ』という音は、走り去る時になってしまった、ウォレットチェーンだ」
そういえば、中林さんの部屋の隅にシルバーのアクセサリーがあったな・・・。
俺は中林の部屋に行った時を思い出していた。やけに片付いた部屋の片隅に隠すようにコンビニのビニール袋に入ったシルバーのアクセサリーの数々。本人は隠していたつもりなのだろうが、数人が歩いた床の振動で、わずかに金属が擦れて出る独特の音を、俺の耳は聞いていた。
「だが、これは証拠にならないだろうな。シルバーのウォレットチェーンを持っている人全員を容疑者として挙げるのは、あまりにもナンセンスだ。まぁ、こうして自白しに来てくれたんだ。彼の言葉でも聞こうじゃないか」
と、俺たちの視線は中林に集まった。中林は黙ったまま俯いていた。唾をゴクリと呑み込み、あくまで強要せず、自供してくれそうな雰囲気を感じ取りながら、俺たちは待った。すると程なく、中林は口を開いた。
「・・・すいませんでした・・・。一連の通り魔事件は、俺がやりました・・・」
先程までの威勢の良さから一転し、元気が無くなった中林。俺たちからも安堵の溜息が漏れる。膝から崩れ落ちそうになった中林を藤堂警部が支え、自白の言葉が聞けたことで、藤堂警部は俺たちに感謝の言葉を述べ、連行しようと扉に向かった。そして完全に閉まった事を確認すると、俺は口を開いた。
「何とか自白してくれて良かったですね」
「まぁ、自白が無くてもどの道、藤堂警部の羽交い締めを振りほどいて私の首を絞めた時点で、公務執行妨害と傷害を目の前で行ったんだ。現行犯は免れなかっただろう」
「だけど、何か腑に落ちないんですよね・・・」
俺は、今までの中林の威勢の良さから落胆するまでのスピードが余りにも早すぎた事に違和感を覚えた。まさかな、と考えた瞬間、ドアの向こうから、藤堂警部の叫び声が聞こえた。
『ぐっ!!!待てッ・・・中林ぃッ!!!』
明らかな異変に、俺たちは部屋を飛び出した。
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑪′》へ続く。
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