⑨′

《ちゅうに探偵 赤名メイ⑨′》


赤名探偵の声!?一体どこから・・・?


犯人がこの部屋に入ってきた事よりも驚きはそっちに取られていた。何故なら、俺とジャスティスこと白井が入室してから誰も出入りしていないからだ。


「大人しくお縄につきなさい」


と、赤名探偵は俺が潜んでいたベッドの下からニョキッと顔を出した。


そこかよっ!


俺は雰囲気を壊さないよう、心の中でツッコミを入れた。そして赤名探偵はベッドの下から抜け出し、服に寄ったシワを叩いて伸ばした。


「やはり、アナタだったんですね」


扉から入った逆光で姿が見えなかったが、後から藤堂警部が入室して扉を閉めたことにより、犯人の顔がハッキリと見えるようになった。


「中林 丈(なかばやし じょう)さん。今回の連続通り魔事件の犯人は、アナタだ!」


中林は手に持った金槌を振り上げたまま硬直していた。もう、言い逃れはできない。顔は引きつっており、昼間見た小うるさい青年はおらず、言葉を失い、息をするのも忘れていそうだった。藤堂警部が後ろから羽交い締めにすると、ようやく事態を飲み込んだのか、中林の手から金槌が抜け落ちた。


「どうして大島さんたちを狙った?」


「・・・・・・」


藤堂警部の問い掛けに、中林は黙ったままだった。


「それは私が説明しよう」


赤名探偵は人差し指を立てた。


「まずは動機から話しましょうか」


赤名探偵はベッドに腰掛けた。ギシッとベッドの床面と脚を繋ぐ金具が音を立て、深く腰を掛けた事により、赤名探偵の足がわずかに床から少し浮いていた。


「動機はズバリ、大島さんによるパワハラだ」


え・・・?


俺は自分の耳を疑った。


「って事は、以前2人は同じ職場だった、という事か?」


「そうだ。大島さんが今も働いている会社に、中林さんはいたんだ」


「ちょ、ちょっと待て!大島さんや中林さんや小宮山さんの働き先の事は警察で調べたが、名前は挙がらなかったぞ!?」


興奮したせいか、藤堂警部の羽交い締めに力が入る。捕まっている中林は苦しそうだ。


一体どういう事だ・・・?


俺の中にも疑問が生まれた。


「当たり前だ。中林さんの苗字は変わっているのだからな。前働いていた時の苗字は『特原(とくはら)』だ」


「何だと!?通りで関係性が見えなかったわけだ」


「でも、動機がパワハラって、一体?」


俺は追い付いた頭を回転させた。大島さんの娘の様子だと、パワハラをするような人物には見えなかったからだ。


「それは中林さんが『勝手に』思っていた事だ。蓋を開けてみると、それは全くの誤解であり、普段の口調、髪色、身だしなみを注意され続けた結果、それをパワハラだと訴えたが相手にされず、会社を辞め、いつか復讐するために苗字を変え、今の工場に入社した、というわけだ」


それは中林さんが悪いんじゃ・・・。


「そう、この事件は中林さんの被害妄想が起こしてしまったんだ」


心を読んだかのように、赤名探偵は俺を見た。その間、当の中林本人はグッタリとしていた。


「自分の都合が悪い展開になるとすぐ人のせいにして自分を守ろうとする。やれやれ、こんな働き盛りが人生の先輩にいると、この国の先は思いやられるな」


再び視線を羽交い締めにされている中林に向ける。すると彼はフルフルと震えていた。悲しいのか、怒っているのか。


「そして次に、何故自分も被害者を装ったのか、だが・・・」


赤名探偵が次の説明をしようとするや否や、グッタリとフルフル震えていた中林が声を荒げた。


「・・・お前たちに、一体俺の何が分かる・・・!?」


あまりの豹変振りに、思わず俺たちの視線が集まった。


ヤバい、何かする気か!?


「・・・ぉ俺は悪くない!!悪いのは全部、俺を否定した会社だぁぁぁ!!!」


俺の思いは的中し、中林は藤堂警部の羽交い締めを解いて赤名探偵に掴みかかろうと勢いよく手を伸ばした。


《ちゅうに探偵 赤名メイ⑩′》へ続く。

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