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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑧′》
「何で俺がこんな役回りをしなきゃならないんすかぁ〜・・・」
俺は病院のベッドに横になっていた。不満タラタラの小声は、ドア付近にひっそりと立つジャスティスこと白井にも聞こえていた。
今は夜。赤名探偵、藤堂警部、ジャスティスこと白井、俺が病院の中で昼飯を食べながら立てた作戦を一通り確認していた。
「まぁまぁ、大役じゃないか」
ジャスティスこと白井はまるっきり他人事だった。俺は仰向けになり、天井を見つめた。藤堂警部は付近の見回りをし、赤名探偵はどこかへ行ってしまった。犯人が姿を見せたらジャスティスこと白井に連絡が来るようになっている。
「・・・本当に来るんですかね・・・?」
「さぁね。僕らには分からないさ」
ジャスティスこと白井は肩越しに扉の外を眺めた。女性の看護師を見ているのか、はたまた真面目に役目を果たしているのかは分からないが、彼の目は出入り口付近のナースステーション辺りを向いていた。
「今日もずっと考えてたんですけど・・・」
「ん?」
俺の言葉に、ジャスティスこと白井はこちらに耳を傾けた。
「僕らはそれぞれ、五感が鋭すぎるじゃないですか」
「うん」
「赤名探偵って、一体何が凄いんですか?」
やべ、言い方間違えたかな・・・。
俺は一瞬ジャスティスこと白井から放たれた不穏な空気に身が凍りついた。しかし彼もバカじゃない。俺が何を言いたいのかは瞬時に理解したようで、腕を組み直した。
「赤名探偵の凄いところ、か・・・」
ゴクリ、と俺は唾を飲んだ。
「本人曰く、『第六感』。それは霊感とも言えるし、直感とも言える。何にせよ、赤名探偵の『勘』は、僕らの領域を遥かに超えている事は事実だ」
なるほど、だから藤堂警部は『お前さんの勘なら信じる』と言っていたのか。
「そうだったんですね」
「だから、犯人が今夜ここに来るっていうのが赤名探偵の勘なら、的中する、というわけさ」
「余程の信頼度なんですね」
「それでも本人はずっと言ってるよ。私の勘など的中率は50%程だ、その確率を100%にするためにお前たちが必要なんだ。ってね。ブルーマウンテン、君ももちろん、その内の1人だよ」
俺は、何とも言えない顔になっていたと思う。嬉しいような、照れるような。自分がこんなに必要とされる場所は他には思い当たらず、ただにやけて寝返りを打ってジャスティスこと白井に背中を向けた。と、その瞬間、ジャスティスこと白井のスマホが振動した。俺たちの間に緊張が走り、俺は再び唾を飲んだ。
「・・・はい。分かりました」
ジャスティスこと白井が電話を切ると、先程までナースステーションの方に向けていた目を俺に戻した。
「犯人が姿を現した。間も無くこの部屋に入って来るだろう。そうしたら・・・、分かるね?」
作戦としては、俺がただ、第1の被害者である大島さんになりすまし、そのベッドに入ってやってきた犯人の犯行を全員で押さえるという、至ってシンプルなモノだった。そしてジャスティスこと白井は、扉の裏側の物陰に姿を隠し、俺は布団を頭から被った。
その状態がどれくらい続いただろう。モノの2、3分のはずが、1時間にも感じる程に長かった。俺が痺れを切らして布団から顔を出そうとした瞬間、俺たちがいる病室の扉が静かに光を入れた。俺は急いで布団を戻し、捲られるのを待った。
静かな足音が近づいて来ているのがハッキリと分かる。それぐらい神経は研ぎ澄まされ、緊張していた。
息をするのも忘れてしまう程に集中していたソレは、犯人が布団を一気に布団を剥いだ事で解き放たれた。そして俺が叫ぼうと息を吸ったが、どこからともなく聞こえた声に取られてしまった。
「そこまでだ!!!」
その声の主は、紛れもなく赤名探偵のものだった。
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑨′》へ続く。
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