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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑦′》
清潔を保たれた白い壁。俺は場違いな空気を感じながら辺りを見回した。カチャカチャと食器を扱う音や、人の往来。店内BGMは流行りの曲ではなくクラシックが流れており、ある条件を満たす人々が優雅に過ごすにはもってこいの憩いの場所だ。俺たちは奥のテーブルに案内され、注文をして料理を待っているところだった。
「いや・・・、藤堂警部のオススメの飯屋って期待してたら・・・」
俺はハッキリ言って呆れ返っていた。
「何を言っている。立派な飯屋だろう」
赤名探偵は豆腐ハンバーグ定食を今か今かと待っている。
「僕は文句は言わないよ?一度来ているところだし」
ジャスティスこと白井は運ばれたホットコーヒーを一口飲んだ。彼が注文したのはサンドイッチプレートだ。
「まぁ、『飯屋』としては俺は好きだぞ?あまりメインの用事では厄介になりたくないがな」
藤堂警部はパスタを注文していた。俺もメニューから日替わりランチを注文したのだが、カロリーや脂質、糖質が計算されたものなので、正直言ってあまり期待はしていない。何故そんなに色々計算されているのか、それには理由があった。
「病院ですもんね、ここ」
そう、ここは大きな病院の中にある食堂だ。
「でも、何でこの病院なんですか?」
俺の質問に、ジャスティスこと白井が答えた。
「第1の被害者、大島さんが入院してるんだよ。僕は最初の現場でこの病院の壊れたボールペンが落ちている事に気付いてね。ここの看護師さんに尋ねたら大島さんが入院してた、ってわけ」
そうか、最初に何か持って行ったと思ったら、病院に来てたのか。それでさっき『一度来ている』って言ったのか。
俺は納得してしまった。ジャスティスこと白井は事あるごとに自分の前から姿を消すが、そこそこ重要なモノを見付けていた事に素直に驚いた。そして程なくして、俺たちが注文した品々が運ばれてきた。一口食べたが、味はやはり、薄味だった。俺が無理やり水で胃に流し込んでいると、赤名探偵が口を開いた。
「私が小宮山さんの自宅前や、中林さんの自宅前で言った『勘』についてなんだが・・・」
あ、そういえばそんなこと言っていたな。結局なんだったんだ?
「私は、犯人はその2人のどちらか、だと思っている」
「え・・・、マジっすか・・・!?」
「ほう、そりゃどういう事だ?」
一番体を前のめりにしたのは藤堂警部だった。
「細い細いもんだが、大島さんに対する繋がりが、2人にはあるからだ」
「何ぃ!?」
藤堂警部は面食らい、タバコを取り出したが禁煙場所だった事を思い出してそれをしまった。
しかし警察がいくら調べても見つからなかったモノをこの人たちはいとも簡単に見つけるな、と俺は感心した。
「じゃあ、もう犯人は分かってるんですか?」
ジャスティスこと白井の問い掛けに、赤名探偵はスマホの画面を見ながらフフン、と鼻を鳴らした。今までの経験からすると、恐らく誰かからの調査報告。誰のかは分からない。
「私が種を蒔いておいた。後は犯人がやってくるのを待つだけだ」
「一体どこで・・・?」
赤名探偵は水を一口飲んで答えた。
「何のためにここに来たと思ってるんだ。犯人は必ず大島さんを再び襲いにくる、今晩な」
断言する姿には、もはや中学2年生の女子はおらず、そこには頼れる敏腕探偵がいた。
今晩、か・・・。
「よし、部下に連絡して警備を強化しよう」
「まぁ待ってくださいよ、藤堂警部。そうすれば犯人に警戒されて、今晩捕まえられられなくなりますよ?」
赤名探偵はいやらしくニタァッと笑った。
あ、これは何か嫌な予感がする。
と、赤名探偵は俺たちを引き寄せて小声で作戦を説明した。聞き終えた藤堂警部たちの顔は、自信に満ち溢れていた。
「確かにこれなら現行犯で捕まえられるな」
「僕は賛成です」
2人の言葉とは裏腹に、俺は少し納得がいかなかった。そしてその作戦が決行となった数時間後、俺は自分が任された仕事に文句を言いながら現場に向かった。
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑧′》へ続く。
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