⑤′
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑤′》
次の日の朝。俺たちは何故か第1の被害者ではなく、第3の被害者である『小宮山 美香(こみやま みか)』さんの自宅アパートへとやってきていた。閑静(かんせい)な住宅地の中にある、今時のクリーム色の外観の二階建てのアパートの1階に、小宮山は住んでいた。昨夜藤堂警部がアポを取ったのだが、最初は『話す事は話した』と言っていた彼女が、思い出した事がある、と今朝向こうから電話があったのだ。
朝ということもあり、辺りは歩いて登校している小学生の集団や自転車に乗っている中学生がちらほら見られた。そんな中、俺、ジャスティスこと白井、赤名探偵、藤堂警部の異色の4人は周りの住人に迷惑が掛からないように、呼び鈴を鳴らした。
『はーい』
「朝早くからすいません、警視庁の藤堂です」
藤堂警部が名乗ると、程なく扉が開いた。顔を覗かせたのは、明るい茶髪の女性だった。化粧をしていないのか顔を半分程覆う大きなマスクをしており、傷を負ったであろう右の側頭部には今も痛々しく包帯が巻かれていた。
「小宮山さんですね?お話を伺いたいのですが・・・」
「あ、はい。立ち話もなんですから、中へ・・・って、そちらの方々は?」
小宮山は俺たちの方に視線を向けた。
まぁ、そうなるよな。白い歯を見せるイケメンに訳ありそうな謎の女子中学生、そして俺。そりゃ気になるよ。
「こちらは私共が信頼している探偵の方々です。何か今回の件で力になれば、と思い連れてきました」
「探偵・・・?この人たちが・・・?」
藤堂警部の言葉に、小宮山は不信感丸出しで俺たちを睨みつけた。化粧前の一重のまぶたがより一層細くなっていた。
そりゃそうなるよ・・・。
疑いの目を掛けられながら、俺たちは誘われた部屋の中へ入っていった。
小宮山の部屋の中は、彼女の性格が滲み出ていようだった。玄関を入ると左手に3畳程のキッチンがあった。シンクには洗い物が溜まっており、掃除が行き届いてないのかコンロの周りには飛んだ油汚れが付いたままだった。玄関から右手には浴室がある。流石に見るのは失礼なので赤名探偵だけが横目に見た程度だった。そしてキッチンと浴室の間にある廊下を抜けると8畳の部屋があり、その中の真ん中には丸いガラステーブルが置かれていた。が、テーブルの上には化粧品が乱雑に置かれていたがメーカー毎になっており、ベッドの上には服が散らばっていた。床には何とか人数分座れるスペースが作られ、俺たちが座っていると人数分の冷たい麦茶を淹れた小宮山が姿を現した。
「ありがとうございます。それで、小宮山さん、思い出した事というのは、どういった内容ですか?」
麦茶を受け取り一口飲むと、藤堂警部は切り出した。小宮山はおずおずど口を開いた。
「・・・もう既に警察の方には話してある事ですが、あの日の夜は酔っているのもあって、事件直後の事はあまり覚えていません。けど、私を何かで殴って逃げる犯人が立ち去る時、ある音が聞こえたんです」
ある音・・・?
「その、ある音、とは?」
藤堂警部は手帳を開いてメモを取る準備をした。
「金属音です。チャリ、チャリ、って規則的なリズムで聞こえたんです」
規則的なリズムで聞こえる金属音・・・、か。
俺は頭を捻った。考えられるのは足音だが、足音で金属音がするとは思えない。何か靴の裏に挟まっていたなら別だが、そんなのは犯人のが気付いてすぐ取ってしまうだろう。決定的なモノにはなりそうになかった。
「そうですか、また、何か思い出した事があったら連絡ください」
藤堂警部も収穫なし、と判断して立ち上がろうとした瞬間、今まで黙って見ていた赤名探偵が口を開いた。
「小宮山さん、私からも聞きたい事があるのですが、良いですか?」
「え・・・?ど、どうぞ」
大人びた口調の中学生に圧されながらも小宮山は答えた。
「病気は、もう良いんですか?」
「え、病気・・・?」
「いえ、何でもありません。私の勘違いです」
え、何だったんだ、今の。
「さぁ、帰りましょう。小宮山さん、貴重なお時間をありがとうございました」
と、赤名探偵は一礼すると立ち上がって玄関へ向かった。その行動に意表を突かれた俺たちは慌てて立ち上がって小宮山に一礼し、部屋を後にしてドアを静かに閉めた。
「一体何だったんですか、最後の質問?」
「ふふふ、あれだけ聞ければ満足だ」
ジャスティスこと白井の質問に、赤名探偵は満足気に答えた。
「本当に満足したのか?」
藤堂警部はタバコに火を点け、赤名探偵は胸の前で腕を組んだ。意味深な問い掛けに赤名探偵は言葉に詰まったが、一言だけ答えた。
「・・・私の勘だがな」
勘って・・・。
と俺が呆れていると、ジャスティスこと白井と藤堂警部は何故か納得していた。
「お前さんの勘なら信じるよ」
「第1の被害者の大島さんは入院しているんだっけ?じゃあ次は、第2の被害者の中林さんの家に行こう」
赤名探偵は自慢気に鼻を鳴らした。ドア近くで話すのを止め、俺たちは藤堂警部の手配したパトカーへと乗り込んでいった。
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑥′》へ続く。
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