③′
《ちゅうに探偵 赤名メイ③′》
俺たちが着いた先は、そこそこ人通りのある通りだった。工場の目の前にあるところで、50m程離れたところにはコンビニが見える。犯行が起きたのは工場を囲うように建てられた街灯の影。凶器も見つかって警察に保管されており、それに使われなかったコンクリートブロックが今もいくつか現場周辺に落ちていた。
こんなところでも通り魔が・・・?
俺がそんな事を思って現場を眺めていると、後ろから藤堂警部が話しかけてきた。
「不思議だろ。昼間は結構人通りがあって賑やかな場所なのに、何故通り魔がここを選んだのか・・・。夜もそこまで極端に人通りが少なくなるわけでもないんだよな、これが」
藤堂警部はタバコに火を点けていた。が、最後の一本だったようで、箱をクシャッと手で潰し、ポケットに入れた。そして煙を肺に入れ、気持ちよさそうにそれを吐いていた。
「ここにも証拠らしい証拠はありそうにないですね・・・」
「ま、鑑識が入ってるからな。奴らが見逃したモノを見付けるのは、至難の技だな。それこそ、あの白井の独壇場だろう」
あの人、警察にだいぶ貢献してるんだなぁ。
「あのコンビニの店員には話は聞いたんですか?」
「もちろん。事件発生時であろう時間にシフトに入っていた人にな」
当たり前か。そんなの、警察が真っ先にやってるよな・・・。
「何か変わった事は言ってなかったんですか?」
「あぁ。争う声も、逃げたであろう犯人も見ていないとの事だ」
なるほど・・・。こりゃ難儀だな。
「それじゃあ、三件目の犯行現場にもお願いします」
「はいよ」
と再びパトカーに乗ろうとした時、俺は自分に向けられている視線に気が付いた。思わず振り返った。
「ん、女の子・・・?」
「どうした?」
「いや、何でもありません。次の犯行現場へお願いします」
俺はその小学生ぐらいの女の子を気にしながらも、次の犯行現場へと向かった。
最後の現場は、最初の犯行現場と先程いた犯行現場を足して2で割った様な場所だった。大通りとまではいかないが、割と大きな駅の裏手にある路地。コンビニはないが人通りも多い。今は陽も傾きかけ、学生や買い物帰りの主婦であろう方々が行き交っている。
「ちょっと聞きたいんですけど、良いですか?」
「何だ?」
「3件の通り魔事件、それぞれの被害者の名前と犯行時刻を教えて欲しいんですけど」
藤堂警部は、そんなことか、と手書きの捜査資料を再び開いた。
「えーと、最初の事件の被害者は『大島 英治(おおしま えいじ)』42歳、会社員だ。被害に遭った時刻は午後9時頃、後頭部をレンガで殴打されている」
そう言って藤堂警部は自分の後頭部をさすった。
「2人目は、『中林 丈(なかばやし じょう)』26歳、第2の犯行現場の近くにあった工場に勤務している。被害時刻は午後8時頃。こちらは前頭部を殴打されている」
と、藤堂警部は今度は額の辺りをさすっていた。
「3人目の被害者は『小宮山 美香(こみやま みか)』22歳、OLだ。被害時刻は午後22時頃。側頭部を殴打され、その一発以外の他に怪我はないそうだ』
時間もバラバラか・・・。
「犯人の目的って、何なんですかね?」
「さぁな・・・。ここまで被害者に共通点が無いとなると、大方憂さ晴らしだろう。そんなんで被害にあったんじゃ溜まったもんじゃないがな」
正直、全く分からなかった。犯人像、動機、そして犯行現場に選んだ理由。本当にただの憂さ晴らし?何かが引っかかってしょうがなかった。
「余りにもバラバラ過ぎる・・・」
独り言のつもりだったが思わず声に出ており、藤堂警部に聞かれていた。
「そうなんだよ、何の繋がりも今のところないんだよなぁ〜・・・」
俺と藤堂警部は同時に溜め息を吐いた。恐らく、考えている事は同じだ。
『一旦引き上げますかぁ〜・・・』
ハモってしまい、顔を見合わせた。
一回帰って、頭を整理しよう。
俺たちは、三度パトカーに乗り込んだところで、ポケットに入れていたスマホに着信が入った。振動しながら電話お得意の電子音が流れるスマホの画面を見ると、『赤名探偵』の文字が。俺はすぐさまそれを取り、耳に当てた。
「もしもし」
『貴様、今どこにいる?』
「藤堂警部と通り魔事件の現場に・・・」
『鯱ヶ丘(しゃちがおか)2丁目の喫茶店【スターゲート】に来い。会わせたい人がいる』
とだけ言い残し、電話は切られてしまった。
会わせたい人?一体誰だ・・・?
俺は行き先を藤堂警部に告げ、パトカーへと乗り込んだ。
《ちゅうに探偵 赤名メイ④′》へ続く。
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