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《ちゅうに探偵 赤名メイ①′》


俺が初めて経験した殺人事件から数日が経った。探偵事務所には個人で受け持つ案件に出払っている桃園、小学校に行っている藍沢以外のメンバーがそれぞれ仕事をしている午前中。赤名探偵事務所に新しく導入されたテレビには、連日連夜『銀将院 麟華(ぎんしょういん りんか)、雇っていたメイドに殺害される』とニュースが流れており、俺もこの事件の書類を纏めている手をしばしば止めながら観ていた。


これ、俺たちが解決したんだよな・・・。


まだ実感がなく、まるでテレビドラマでも観ていたんじゃないかと思うほどのストーリーがあった今回の事件。俺はあの日の帰りに焼肉店で赤名探偵に言われた事を思い出していた。


『お前、虎谷に最初から目を付けられていたぞ』


『え、どういう事ですか?』


『初めて屋敷に行った時、紅茶を出されただろう。その時に、虎谷は自分が殺人を犯した時、自分を容疑者から外してくれるであろう人物を探していた。好意を寄せてもらえるように愛想振りまいて、な。そしてそのターゲットに選ばれたのはお前だったってわけだ』


『でもそれでしたらアーサーとか、ジャスティスでも良かったんじゃないですか?』


『アホ、あの時一番視線を泳がせて挙動不審だったのはお前だけだ。虎谷は、アイツが一番こういう現場に慣れていない、と見抜いたんだ。・・・事件を起こす人間全員がそんな観察眼を持っているとは限らないが、仕事の時であれ、日常であれ、あんまりキョロキョロしてると変な奴に目をつけられるから、今後は気を付けろ』


『・・・はい』


『後、仕事で出先以外の時はコードネームで呼ぶ必要はない。お前の好きなように呼べ。青山』


あの時の焼肉は不思議な味がしたな。


あいも変わらず自分のデスクである組み立てられた段ボールの前に正座しながら、ボーッとしてると、黒柳がヒョイ、と顔を覗かせた。


「できたかい?」


「あ、いや、その・・・!」


自宅にも、自分のデスクにもパソコンは無い。フォーマットもないネットカフェで昨夜作った報告書を取り上げた黒柳は、一通り順番に並び替えると、ふんふん、と黙読していた。そして読み終えるとそれを赤名探偵の所に提出していた。


「ちょ、黒柳さん、何してるんですか!」


「初めての報告書にしては良く書けていると思ってな。思わず提出してしまった」


てへっ、と可愛くもない仕草をしてみせた黒柳を押し退けると、もう既に赤名探偵が俺の報告書を読んでいた。


「ふむ・・・、まぁ、初めてにしては良くできているな。だが、報告書としては及第点だ。これじゃ論文だ。情景、場の雰囲気まで感じ取れるような物を期待している」


場の雰囲気て・・・俺は小説家じゃないんだから・・・。


と心の中で呟いていると、事務所の電話が鳴った。赤名探偵がそれを取ると、数回頷いていた。


「そうか、分かった。こちらから出せる奴を行かせよう」


とチラリと俺の方を向いていた。そして電話を降ろすと、デスクの上で手を組み、某国の重要施設の司令官の様に口を開いた。


「青山、たった今電話で藤堂警部からの『頼み事』が入った。急いで藤堂警部の元へ行き、指示を仰げ」


「・・・はい!」


『頼み事』とは、恐らく事件の事だ。まだあの事件から数日しか経ってないのに・・・。物騒な世の中だな。


「白井。聞いていたな、準備してすぐに迎え」


「わっかりました。赤名さん」


と呼ばれた白井は、すぐに支度を始めた。


「いいか、どんな現場に立ち会おうと、行き詰まったら犯人の気持ちになって考えてみろ。そうしたら、固まっていた結び目はきっとほぐれるだろう」


赤名探偵からの助言を受け取り、俺たちは藤堂警部の元へと急いだ。


《ちゅうに探偵 赤名メイ②′》へ続く。

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