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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑱》
「えーと・・・、何というか、そのー・・・」
俺の言葉の詰まりに、赤名探偵はあからさまにイライラしていた。
「あーもう、何だそんなかしこまって!聞きたいことがあるなら早くしろ」
一喝された俺は背筋を伸ばしたが、すぐに張った肩を元に戻した。
「すごい失礼な言い方になってしまうのは、すみません。・・・何か、みんな少しおかしい様な・・・」
違う、こんな表現じゃない。もっと、根本的に何かが一般人のソレじゃない感じ。
「あぁ?」
やっぱりそうなるよね。
周りが赤名探偵をなだめているから被害は無かったが、誰も居なかったら殴られかねない程の勢いだった。
「いやその、藍沢・・・いや、アーサーは鼻が犬並みに凄いし、ジャスティスは地面に落ちているコンタクトレンズを見つけられる程の目の良さを持ってる。今思い出しましたけど、出会った初日に事務所のお茶を選んで買ってきたピンクガーデンには赤名探偵が『お前に任せておけば間違いない』みたいな事言ってたし・・・」
赤名探偵始め、メンバーはそれぞれ聞き入っていた。
あれ、俺そんなにおかしな事言ってる・・・?
無言のまま、数十秒が経過した。沈黙を破ったのは赤名探偵だった。
「お前の言ってる事は正しい」
え・・・?
「正確に言うと、我々は、いや、私以外は五感が鋭すぎるんだ」
は?
「ピンクガーデンは味覚、アーサーは嗅覚、ジャスティスは視覚、そしてブラックサンダーは触覚」
・・・やっぱり、思った通りだ。
「お前も、これが理由でここに入ったようなもんだろう」
「へ?」
思わずアホみたいな声を出してしまった。しかし、周りがそういう理由で集まっているのであれば、自分にも少し心当たりがある。
「お前は聴覚が鋭すぎるんだよな?」
やっぱり、そうだよな。
「・・・はい。俺は、小さい頃から、周りのコソコソした話とかがハッキリ聞こえたり、絶対音感を持っていたり、足音だけで誰が来たか判別出来るほどの聴覚を持ってます」
俺の告白に、殊の外驚かなかった探偵事務所のメンバーたち。むしろ、何を今更、と言わんばかりの表情ばかりだった。
「お前はここに入る運命だったんだよ。遅かれ早かれ、お前は私たちと仕事する人生のレールの上にいたんだ」
運命、か・・・。うん、悪くない。
俺は、自分が置かれている状況を頭の中で整理し、俯いた顔を上げた。顔を見渡すと、それぞれ違った表情をしていた。アーサーは真顔で、ジャスティスは白い歯を煌めかせ、ピンクガーデンはニコッと微笑み、ブラックサンダーは鼻を鳴らして腕を組んでいた。
あぁ、俺は見付けたのかもしれない。自分の居場所を。
感慨に耽(ふけ)っていると、赤名探偵が歩み寄り、俺の左胸に自らの拳を突き立てた。
「頼むぞ。これで鋭すぎる五感が全て揃い、私たちに解決できない事件はなくなりそうだ」
小さくも、たくましく、どこか安心感のあるその中学二年生の女子の拳は、俺の想いと心を掴んで離しそうにはなかった。
これも縁だよな。よし、とことんやってやろうじゃないか。
そう心に誓い、俺は左胸に突き立てられた赤名探偵の拳を手のひらで包み返した。と同時に、赤名探偵の右拳が頭に飛んできた。
「気安く触るな、どアホが」
あ、あれ・・・、こんな雰囲気じゃないの・・・?
などと頭をさすると、周りからは笑いが。殴られはしたが、心地よい空気に、俺も次第に笑顔になっていた。
「さぁ、少し早いが晩飯でも食べていくか」
「私、焼肉の『じゅうじゅう苑(えん)』が良いです!」
赤名探偵の提案に、ピンクガーデンこと桃園は率先して手を挙げた。もちろん口の端からはヨダレが垂れそうになっていた。『じゅうじゅう苑(えん)』とは芸能人御用達の高級焼肉店の事だ。
「あそこは美味いが、お前がバクバク食うから金がいくらあっても足りん。今日は焼肉は焼肉でも『くい〜ん』なら文句はあるまい」
『焼肉くい〜ん』は食べ放題専門の焼肉店で、肉のランクは『じゅうじゅう苑』には劣るが、その分焼肉以外の一品物のクオリティが中の上なので十分楽しめるのだ。そして『食い』と、創業者が女性であることから『クイーン』の言葉が掛かっている。
「後、お前は私たちの昼飯のサンドイッチを全部食べたから30分待ってから食べ放題スタートだ」
とピンクガーデンこと桃園を指差す赤名探偵。その言葉を聞き、彼女はとても悲しそうな表情をしていたが、俺以外のメンバーは笑っていた。
この人たちにとって、これは日常の事なのか。
と和やかな雰囲気に気持ちが落ち着き、俺たちは少し早い晩飯へと向かった。
今回の事件、上手く解決へ導けたから良かったものの、これから探偵としてうやっていけるのだろうか。など思い、足が止まっていると、ピンクガーデンこと桃園が俺を呼んでいた。
「何やってるんですかー?行きますよー!」
「あ、はい、行きます!」
とりあえず、今の所心配なさそうだ。何故なら、ここのメンバーとなら、どんな事件も解決できそうだと直感で思ってしまったからだ。しかし第2、第3の事件は、俺を待ってはくれなかった。
あれ、俺たちの五感がそれぞれ鋭すぎるって事は、赤名探偵は一体・・・?
などと考えながら、俺は輪の中へと戻って行った。
《ちゅうに探偵 赤名メイ①′》へ続く。
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