《ちゅうに探偵 赤名メイ⑰》


「まだしらばっくれる気か!!!」


「私にはアリバイがあります。それに決定的な証拠もない・・・。私を犯人呼ばわりするにはまだ早いんじゃないですか?」


赤名探偵は黙った。そして俯くと、クククと笑い、顔をあげた。


「証拠がないだと!?何言ってるんだ、アンタは現場にちゃんと残してくれたじゃないか、決定的な証拠を!!」


その言葉に、虎谷は明らかな動揺を見せた。


「な、何をデタラメな・・・!」


「おい、ブルーマウンテン、ピンクガーデン、お前たちが鑑識から聞いたのは確かな事なんだよな?」


赤名探偵の言葉に、俺たちは頷いた。


「藤堂警部も確かに聞いてるな?」


「あぁ、鑑識から聞いたのは、あの部屋には凶器を始め、全ての物に指紋が1つも無かった事と・・・


「ほら見なさい、証拠なんてありはしないのよ!」


藤堂警部の言葉を遮って虎谷は喜んで見せたが、赤名探偵は違った。顔色を伺い、今まさに勝ち誇っている顔の虎谷がどの様に崩れるか楽しみにしている顔だった。


「おいおい、まだ俺が喋ってる途中でしょうが」


一瞬、虎谷の時間が止まったのが分かった。


「指紋が無かったのは現場にあった全ての物と、犯行があった時間にお前さんがいたという厨房だ」


え・・・?


「だ、だから何なのよ、厨房に指紋が無いからって!!」


「アホかお前は。調理器具に一切指紋を付けないで料理が出来るものか」


「そんなの、私はこの手袋をしているのよ!指紋が付かなくて当たり前じゃない!」


「そうかそうか、なら、あの時お前が何を作っていたものをここで発表できるな?」


「当たり前じゃない、私が厨房で作っていたのはBLTサン・・・ド・・・」


ハッ・・・そうか・・・。


「BLTサンドはベーコン、レタス、トマトの頭文字を取ったサンドイッチだ。水気の多いトマトを、そんな手袋を付けたままで扱えるものか。ましてや、奥様や、仮にも客人の私たちに出す食事を、散々屋敷内を触った手袋を付けたまま調理するのも考えられん。つまり、現場と厨房、双方に指紋が一切付いていない事に共通して言えるのは、犯人だけ、というわけだ」


虎谷は言葉を失い、そのまま立ち尽くした。


「さぁ、話してもらおうか、犯行のあった時間、アンタがどこにいたのかを。それとも、まだしらばっくれるか?」


今度は赤名探偵が勝ち誇ったような顔をしていた。虎谷は唾を飲み込み、肩の力を抜いた。


「あーあ、逃げれなかったか・・・」


「それじゃあ・・・!」


「ええ、犯行を認めるわ」


虎谷は心なしか穏やかな表情をしていた。ゆっくり窓の外を眺め、そしてゆっくりと視線を奥様が死んだベッドへと向けた。


「・・・旦那様、龍野さん・・・」


振り返った虎谷の目からは、一筋の涙が頬を伝っていた。


「申し訳ありませんでした・・・」


そして深々と頭を下げると、水本が立ち上がった。そして側まで歩み寄り、何やら声を掛けていた。俺には聞こえていたが、聞こえないふりをし、後は藤堂警部たちに任せて、俺たちは帰ることにした。

その道中、俺はいくつかの質問をした。


「あの、何故屋敷に来た時、みんな元気無さげな顔して入ったんですか?」


「あぁ?お前アホか、どこの誰が浮気調査の報告をハツラツとした顔をした奴から聞きたいんだ?」


あ、そういう事か・・・。


納得してしまった。そうか、そうだよな。ハツラツとした顔をから『残念ながら』なんて聞きたくない。そして俺は、もう一つ、ずっと気になっている事を質問した。


「後、もう一個良いですか?」


「何だ」


それは、この赤名探偵事務所に入ってから、ずっと気になっていた事だった。


《ちゅうに探偵 赤名メイ⑱》へ続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る