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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑯》
虎谷は赤名探偵を睨み返した。
「私が隠し事?何の事でしょうか?」
一歩も引かず、先程大広間でサンドイッチを持ってきた人物とは明らかに纏っていた雰囲気は違っていた。
「回りくどく言ってもしらばっくれるだけだな。・・・じゃあ単刀直入に言いましょう。アンタ、ここの養女だろ」
「どうしてそれを・・・!!!」
え、どういう事だ・・・?
『養女』という言葉に反応した虎谷は、明らかに動揺していた。
「ただ、養女になったのは最近の事だ。ここの夫婦仲がさほど良くない事に漬け込み、銀将院 麟華さんの生命保険の受取人となった。動機はそう、彼女の多額の保険金だ」
何かドラマみたいだな。いくらぐらい保険掛かってるんだろ?
「知り合いに保険会社に勤めている奴がいてな、掛けれる保険金の限度額を聞いてきた。・・・最大で年収の20倍だ。そこから計算すると、最低でも100億は虎谷に入る」
「ひゃ、100億!!!???」
俺たちが金額に驚いている最中も、虎谷は唇を噛み締めていた。赤名探偵は続けた。
「そしてその保険金が必要な理由は、奥様を殺した後海外逃亡、そして身籠っている子供を産むことだ」
妊娠してたの!?えー・・・。
俺に襲いかかった謎の失恋感は置いてけぼりを喰らったが、気になる事が増えた。
でも、誰との子共だ・・・?彼氏でも・・・ハッ!?
俺の頭には、とある事がフラッシュバックしていた。それは、水本 麒一郎の浮気調査で初めて尾行した夜、キャバクラから出てきた水本氏が女性とホテル街へと姿を消した時の事だった。
「・・・そうか、そうだったのか・・・!」
引っかかっていた事が全て無くなった。
「何か分かったのかい?」
ジャスティスこと白井は、頭を抱える俺に目配せをした。
「水本さんの浮気相手は、虎谷さんだったんだ・・・!」
そう、俺があの時既視感を覚えたのは慌てて小走りになった際の歩幅と後ろ姿だった。俺の発言に驚いた人は多数いた。藤堂警部たち、ピンクガーデンこと桃園、ブラックサンダーこと黒柳、アーサーこと藍沢、執事の龍野 伸二、そして、当事者の水本 麒一郎。
「何と・・・」
あれ、この人知らなかったのか・・・?
「女は化粧と服装、髪型を変えれば別人になる。これはお前たちも覚えておけ」
赤名探偵の言葉に、探偵事務所の男性陣は背筋を正した。
「わ、私が旦那様と浮気だなんて・・・!証拠よ、証拠を出しなさいよ!」
虎谷は声を荒げた。
「これは、証拠になるんじゃないかい?」
ジャスティスこと白井が取り出したのは、とても小さな物だった。
「これは・・・コンタクトレンズ、ですか・・・?」
既に渇いていてパリパリのそれは、いわゆるカラーコンタクトレンズだった。明るい茶色をしており、少しでも力を入れてしまうと割れてしまいそうだった。
「これをどこで?」
「ブルーマウンテンに見せてもらった写真があっただろう?その写真でメイド長の虎谷さんが視線を外していたポイントを重点的に探していったらあったってわけさ」
キザに見せた白い歯はキラリと光った。
などと証拠品に注目していると、メイド長の虎谷は更に苛立った様子でこちらを見ていた。
「たかだかカラコン1つで証拠になるとでも・・・?そんなものDNAでも付着していない限り証拠として扱うのは難しいんじゃないのですか!?」
「それはジャスティスが個人で見付けた証拠品だ。私もちゃんと見付けてある。これは恐らく、店側から支給された物だよな?」
と、赤名探偵が取り出したのはスマホだった。それを見た虎谷はハッとした。
「どうして、それを・・・」
「時に、水本さん。あなたは何故、犯行時刻の11時45分頃、屋敷の近辺にいたんですか?」
赤名探偵の問いに、今まで黙っていた水本 麒一郎は観念したように口を開いた。
「とある人に呼び出されたんだ」
「そのとある人とは、行きつけのキャバクラの女の子ですね?」
「・・・あぁ、そうだ。屋敷の近くに来ていて、今から会えないか、とメールがあった。その娘を探していたのだ。屋敷のメイドたちに知られるのはバツが悪かったからな」
水本 麒一郎はスマホを、メールを開いた状態で赤名探偵に渡した。内容を確認するとニヤッと笑い、2つのスマホの画面を皆に見えるように向けた。
「全く同じ内容だ。これでは言い逃れできないだろう」
虎谷は冷や汗の様なモノをかいており、渇いた唇からは、肯定の言葉が漏れ出た。
「・・・確かに、旦那様は気付いてなかったわ・・・。でも、旦那様の浮気相手が私だと言う事が分かっただけ!まだ奥様を殺したという事にはならないわ!」
その言葉を聞いた瞬間、赤名探偵の眼光は更に鋭くなった。
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑰》へ続く。
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