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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑮》
指を差されたのは、執事の龍野 伸二だった。彼の顔からは、怪訝(けげん)な雰囲気が受け取れた。それもそうだろう、誰しも疑われたのであれば心地いいはずがないのだから。が、しかし、喚き倒すでもなく、執事の龍野は静かに口を開いた。
「ほぉ・・・、どうして私だと?」
「根拠は2つある」
龍野は黙った。
「まず1つ、アンタは奥様に対して明らかな恨みを持っていたということ。そしてもう一つは、ブルーマウンテン、お前の証言だ」
「俺の、ですか?」
一体何だ・・・?
「お前が張り込みをし、この屋敷の朝の習慣について話してくれた時があったな?」
そういえばそんな事話したな。でも、それが何の関係が・・・?
「お前は言ってくれた。大量のゴミを捨てに行ったのは執事だと。ここに送られてきたのは『新聞の切り抜きで作られた脅迫文』。そして私たちは封筒を見ていない」
あっ・・・。
「その中に新聞ももちろんあるはずだ。会社の長(おさ)である水本氏は新聞を読んで情勢を把握せんといかんからな。そして、恐らく部屋を探せばあるはずだ。切り抜かれた元の新聞紙が。こういう時、証拠品は捨てづらいもんだ。それとも本当に送られてきたのであれば、封筒をこの場に持ってきてはもらえませんか?」
・・・どうなんだ!?
執事の龍野は黙ったままだった。その様子に、メイド長の虎谷も、屋敷の主人の水本も注目していた。そして龍野は、口を開いた。
「・・・そうです。私は数年前の腰痛から、奥様に恨みの念を抱いておりました。警察の方には、もう知れている事でしょう。しかし、私は殺すつもりなんてなかった!あの脅迫文で、言動が大人しくなれば、ぐらいに思っておっただけです!」
「詳しくは署の方でお聞きします」
と藤堂警部が促し、浅井さんと梅原さんが両脇を抱えて部屋を後にしようとするが、龍野は抵抗した。
「ち、違う、私は奥様を殺してなんかいない!!」
先程は認めたのに、何か、しっくり来ない。何故だ・・・?
「何を早とちりしてる?私はただ、『脅迫文を送り付けた人物』を言っただけだ」
赤名探偵は不服そうに腕を組んでいた。右足でパタパタと地面を叩いてイライラをアピールし、全員が注目すると、再び口を開いた。
「今回の事件、犯人の誤算は、紛れもなくコイツだ」
と指を差された俺。何が何だか分からなかった。
俺が何かしたのか?
「私たちが奥様の無事を確かめる為に部屋に行き、窓ガラスが割れて中に入った時、実は犯人はまだ中にいたんだ」
何だと!?
「い、一体どこに・・・!?」
「扉の、裏ですかい?」
ブラックサンダーこと黒柳は、そちらの方へ目を向けた。
「そして私たちが現場に来てしまった事により、犯人は焦った。そして考えた末の答えは『窓を割り、そちらに目を向ける』ことだった。作戦は上手くいき、私たちの目は遺体や割れた窓ガラスへと向いた。が、ここで誤算の登場だ」
赤名探偵は再び俺に目をやった。
「コイツが気付いてしまったんだよ。後ろを走り去る何かに」
そう、あの時俺は違和感を感じた。現場から遠ざかる足音に。
「見事欺いたつもりだったが、詰めが甘かったな。そこで焦らずゆっくり歩いて行けばバレなかったかもしれんのになぁ・・・。そうだろ?奥様を殺した・・・虎谷 京子さん」
一同の視線がメイド長の虎谷の方へ集まった。当の本人は一瞬、唇を噛み締めた様に見えた以外微動だにしなかった。
「・・・私、ですか・・・?」
「あぁ、アンタだ」
赤名探偵は断言した。
「私が奥様を殺す理由などありません」
それに反論する虎谷。しかし、赤名探偵は更に追い立てた。
「それがあるんだよ。アンタは私たちに隠している事があるはずだ!」
珍しく声を荒げた赤名探偵の目は、何事も見透かすような、鋭い眼光を放っていた。
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑯》へ続く。
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