《ちゅうに探偵 赤名メイ⑭》


俺は、ピンクガーデンこと桃園と一緒に、鑑識の人がまだ仕事をしている部屋へとやってきた。おなじみの青い制服にマスク。塵1つ見逃しそうにないその鋭い眼差しは、迂闊(うかつ)には話しかけれないオーラがあるにも関わらず、ピンクガーデンこと桃園はお構い無しに話しかけていった。


「すいませーん!」


「・・・赤名のところの小娘と小僧じゃないか。どうした?」


小娘と小僧って・・・。


俺はその言葉に引っかかったが、当の本人は悪気は無さそうだ。見るからにベテランそうで、自分たちの仕事に誇りを持っていそうな人だった。


「うちの赤名より、ある事を聞いてこい、との指令があったので」


「ん〜、どれどれ・・・?」


とピンクガーデンこと桃園から紙を受け取った鑑識官、そこに書かれた『指紋の有無』の文字に眉をひそませた。そしてニヤッと笑うと、その紙をピンクガーデンこと桃園に返した。


「そんなもん犯行現場にも1つもありゃせんかったよ。ったく、随分用心深い犯人だわい」


「そうですか、ありがとうございました!」


とペコリとお辞儀をするピンクガーデンこと桃園。その部屋を後にしてドアを閉めるや否や、先程までニコニコしていたはずの顔は一変し、鋭く、普段の彼女からは想像出来ないほど真剣な顔付きになっていた。


「これで、犯人は絞れるわ」


「え・・・?そうなんですか?」


「とりあえず、この事を赤名さんに報告しましょ。恐らく同じ反応になると思うわよ」


マジか、たったこれだけで予想ついちゃうのかよ。


俺たちは即刻立ち戻った。

先程、赤名探偵と別れた部屋に戻ると、ちょうど赤名探偵も、誰かとの電話が終わったところだった。


「そうか分かった。ありがとう」


「どなたと電話していたんですか?」


「いやちょっとな。・・・で、どうだった?」


赤名探偵は話をはぐらかしたようにも見えた。が、今はそんな事よりも報告が先決だった。


「鑑識の人が言うには、犯行現場にも、赤名さんが言っていた場所にも、指紋は1つも出てこなかったそうです」


ピンクガーデンこと桃園からの報告を受けると、赤名探偵はニヤリと笑った。まるでパズルのピースが全てハマった時の様に。


「容疑者3人と藤堂警部たち、そしてうちのメンバーをすぐに犯行があった部屋へ集めろ」


!!!


「ということは!」


「あぁ、犯人が分かった」


俺たちが聞いてきた情報で分かったということは、これは決定的な証拠・・・!


「行くぞ。現世に降り立った堕天使を我が断罪の剣で葬ってくれる(犯人を刑務所へ送ってやる)」


なぁんか毎回言葉のチョイスが・・・。これって何て言うんだっけか・・・。


俺がそんな事を考えている内に、現場には赤名探偵以外の人が集まってきていた。容疑者、執事の龍野 伸二(たつの しんじ)、メイド長の虎谷 京子(こたに きょうこ)、この屋敷の主人の水本 麒一郎(みずもと きいちろう)の3人、藤堂警部始め警察の人間、浅井さん、西嶋さん、梅原さん、そして赤名探偵事務所のメンバー。それぞれが緊張した面持ちでそこにいた。そして程なく、赤名探偵が入ってきた。


「おっ、ちゅうに探偵のお出ましか?」


ん、ちゅうに探偵・・・?


藤堂警部の言葉に、俺は疑問を抱いた。


「みなさんに集まっていただいたのは他でもありません」


(あ、あの・・・藤堂警部?)


(何だ?)


(ちゅうに探偵って一体・・・)


(お前さんは赤名が事件を解くのを見るのは初めてだったか。あいつは普段から大人っぽい口調の端々に癖のある喋り方をするだろ?)


(えぇ)


(その口調が厨二病っぽいところと、実際あいつが中学二年生というところをとって、知ってる奴らは『ちゅうに探偵』と呼んでるんだ)


厨二病って・・・、半分悪口じゃないのか?


と赤名探偵の顔を見るが、心なしか呼ばれて嬉しそうだった。


まぁ、本人が良いならそれで良いか。それにしても『厨二病』って・・・。


俺の中で赤名探偵に引っかかっていた事は、ようやく解消された。そうか、この言葉だったか、と。何故この言葉が出てこなかったのかと不思議に思うくらい、この単語は赤名探偵の姿にしっくりきていた。


「みなを呼び出したという事は、分かったんですね?」


執事の龍野 伸二は、静かに口を開いた。


「・・・・・・」


メイド長の虎谷 京子はキョロキョロと眼球だけで周りを見ていた。屋敷の主人の水本 麒一郎は、口を真一文字に結び、腕を組んで椅子に腰掛けていた。黙っていても、何でこんな事をしなくちゃならんのだ、と言っていそうなのが分かるほど、態度は悪かった。


「この度の銀将院 麟華さんの殺人事件の全容が、私なりに明らかになりました」


辺りを緊張の糸が張り詰めた。少しでも動けばその糸が切れてしまうのではないかと言うほど、誰も動けなかった。


「私たち『赤名探偵事務所』が居るにも関わらず、殺人を犯した人物は紛れもなく、この中にいます」


やっぱりか・・・!!


俺ばかりではなく、恐らく数人が固唾を飲んだであろう瞬間だった。そして赤名探偵はゆっくりと腕を振り上げ、人差し指を立てた。


「1つ1つハッキリさせましょう。この屋敷に脅迫文を送り付けていた人物は・・・」


・・・来る!


「貴様だ!!」


赤名探偵は勢い良く1人の人間を指差した。


《ちゅうに探偵 赤名メイ⑮》へ続く。

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