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《ちゅうに探偵 赤名メイ⑬》
「・・・なるほどな、背後にあった違和感か」
俺は赤名探偵に全てを話した。遺体発見時の背後で感じた違和感、そして今は手元にないが、あの日撮った一枚の写真の事を。すると、赤名探偵は、先程遺体のあった奥様の自室と同じようにアゴに指を這わせた。
「そうか・・・。これなら・・・」
とブツブツ呟く赤名探偵に、俺は期待していた。俺が分からなかった違和感を、解いてくれるような気がしてならなかった。
「あの〜・・・、ちょっと良いですか?」
顔をひょっこりと俺の視界に入れたピンクガーデンこと桃園は何か言いたげに手を挙げた。
「どうした?」
「私お腹空いちゃったんですけど・・・」
顔を赤らめるピンクガーデンこと桃園のお腹は、恥ずかしそうにクゥ〜、と鳴いた。
そういえば、まだ昼飯を食べてなかったな。
「メイド長の虎谷さんが確か軽食を用意してくれていたはずだ。それでも食べてこい」
大広間の扉を開けて中に入ると、事情聴取が終わったからか誰もおらず、先程まで大人数がいた気配が充満していた。
ショックはしばらく続くだろうな・・・。
屋敷の奥様を亡くした悲しみは、そこで働く者としては計り知れないだろう。そう考えながら、俺は手前にあったイスに腰掛けた。するとタイミング良くメイド長の虎谷さんが、両手持ちの銀トレーを持って現れた。
「あら、みなさん。ちょうど今から軽食のサンドイッチを持っていこうと思っていたところです」
銀トレーの上に綺麗に盛られた彩り鮮やかなサンドイッチを見たピンクガーデンこと桃園の空腹度は、この瞬間MAXになった。1つ、また1つと彼女の胃袋に入っていくサンドイッチたちは、心なしか嬉しそうだった。
「このトマト美味しいですね〜」
具材はベーコン、レタス、トマトのオーソドックスなBLTサンド。軽食と言いながらもガッツリお腹に溜まるし、ヘルシーなそれは、次々とピンクガーデンこと桃園の胃袋に入り、俺や赤名探偵が手を伸ばす隙も与えずに無くなってしまった。
あぁ・・・、俺の昼飯・・・。
満足そうな顔をするピンクガーデンこと桃園。ひとまずお腹は満たされたようだった。
「あらあら、余程お腹が空いていたのですね」
「凄いおこがましいんですけど、もう無いんですか?その・・・食べる物って・・・」
「すいません、たまたま材料がこれで切れてしまって・・・」
そうですか、とうなだれると、赤名探偵は立ち上がった。
「ちょっと聞きたいんですが、良いですか?」
メイド長の虎谷は小首を傾げた。
「あなたは、いつからここで働いてるんですか?」
「10歳の頃から私はこのお屋敷に居ます。事故で両親を亡くし、身寄りの無かった私の親代わりとして、奥様も旦那様も迎え入れてくれました。本当の娘の様にお二方とも良くしてくださって、私もその恩を返そうと、メイド長として、このお屋敷に居るんです」
なるほどなぁ、随分辛そうな過去を持ってるんだな。
「それがどうしたんですか?」
「いえ、ありがとうございます。執事の方は、どれぐらいになるんです?」
「龍野さんは確か、40年ぐらいじゃなかったかしら?奥様の幼少期を知っていたので」
40年・・・。長っ。いやでも、物語とかの執事だったらもっと長い人もいるか・・・。
「40年もあれば、奥様に対して怒りぐらいありそうですよね?」
「そうですね・・・、私や他の歴が浅い人たちに比べたら、あるかもしれないですね・・・。もしかして犯人って・・・」
「いや、それはまだ調査中ですので」
赤名探偵は食い気味に言葉を遮った。そして続けた。
「じゃあ最後にこの屋敷の主人の水本氏についてなんですけど、何故名字が違うんです?」
「・・・お二人は、昔でいう政略結婚の様なものでご結婚されたようなんです。銀将院財閥の娘であった奥様、日ノ本商事の一人息子の旦那様。お二人がご結婚された時、双方の会社は未来永劫続くだろう、と話題になりました。しかし当時から夫婦仲はさほど良くなく、名字をそのままに、お子様を作らず今に至ります。旦那様の浮気癖も、つい最近の事ですね」
何だか掘れば掘るほど、この水本が怪しく感じられるな・・・。
俺もいつの間にか、赤名探偵と同じ様にアゴに指を這わせていた。それを見た赤名探偵は、私の真似をするな、と言わんばかりに俺の頭を小突いた。
「・・・すみません、片付けが残っておりますのでこれで・・・」
とメイド長の虎谷は銀トレーを持って立ち去ってしまった。
「ふむ・・・。ピンクガーデン、サンドイッチは美味かったか?」
「ええ、お腹に溜まって満足です!」
「それは良かった。・・・私はちょっと電話をしてくる。お前たちは鑑識に、ある事を聞いてきてほしい」
と、メモを俺に託した赤名探偵は、スマホを取り出してどこかに電話を掛け始めた。
「何聞けば良いんだろ?」
ピンクガーデンこと桃園と内容を確認すると、俺は目を疑った。
えっ、これって・・・。
そこに書いてあったのは、『指紋の有無』についてだった。
《ちゅうに探偵 赤名メイ⑭》へ続く。
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