③
《ちゅうに探偵 赤名メイ ③》
でっけぇ屋敷だなぁー・・・。
そこは、『超』が付くほどの豪邸だった。デカイ門を潜ってから、デカイ木々が生い茂る整備された森を抜け、これまたデカイ屋敷の前で一旦停止していた。何でもここの奥様からの依頼らしく、 少しここで待て、と黒いスーツを着たお爺さんが中に入って行ってから数分、外で待たされていた。今は4月、肌寒い時もあるがピクニックにはもってこいの季節だ。
「あ、出てきましたね」
丸メガネを右手で可愛らしく上げた桃園は指をさした。
げっ、何だあのババア。
俺は絶句した。そこにいたのは、全身派手な金ピカのドレスに身を包み、指には色とりどりのゴツい指輪を着け、髪もグルングルンに縦巻きをした巨漢のオバさん、もとい、オバ様が小さい犬を抱えていた。
犬が小せぇ・・・。
チワワなのかトイプードルなのか、犬の種類に詳しいわけではないが、ほとんどがその巨漢なオバ様に隠れて全容が見えなかった。
「依頼人の方ですね?」
赤名が先陣切って前に出た。そうだ、俺たちは探偵なんだ、どんな事件でも解決してみせる。と意気込んで鼻高らかにしていると、その巨漢なオバ様からの依頼は、俺の想像を遥かに下回った。
「はいぃ・・・。夫の浮気を調査してほしくて・・・」
え、浮気調査・・・?
俺は呆気に取られた。なんだ、浮気調査かよ、と落胆していると、甘いマスクのジャスティスこと白井が軽く肘で俺の脇を小突いた。
(あまりそう顔に出すもんじゃないよ。これも立派な仕事だ)
そうですけどぉ〜・・・。
しかめっ面をしてみせたが、俺以外の5人の顔は凛々しかった。白井とそんなやり取りをしていると、赤名たちは屋敷に入っていった。遅れまいと俺も後を付いて行くと、外観から想像通りの絢爛豪華な玄関、長い廊下、その上に敷かれた赤い絨毯、壁に掛けられた価値が分からない絵画、何故か無造作に置かれた壺、etc...絵に描いたような金持ち特有の品物の数々に声がどこかへ行ってしまっていた。愕然、とはこういう時にこそふさわしい言葉だと実感した。ジーッと壺を見ていると、巨漢のオバ様が俺の顔を覗き込んでいる事に気が付いた。
「うわっ!?」
でっけぇ顔だな、まったく。
声には出てない部分が顔に出ていたらしい。桃園と白井にため息を吐かれてしまった。
「この壺、差し上げましょうか?少し安物で、買い換えようかと思っておりましたの」
「あ、あはーははは。いえ、ご婦人、そんなお気遣いなく・・・。ちなみにおいくらなんですか、この壺?」
恐る恐る手に取る。壺に興味はない、だが安物だろうが値段は気になる。
「大した額では・・・。200万程だったかしらねぇ?」
200万!!この壺が200万!!??
金額にハァハァしてると、赤名が間に入って俺の手から壺を取り上げた。
「そういうお話は依頼が済んでからでお願いします」
キッと睨む赤名に俺はたじろいだ。年下なのに鋭すぎる眼光に、思わず目を背けてしまった。現実に戻されて再度長い廊下をゾロゾロと歩き、着いた大広間の様な場所の真ん中にはこれまたドデカイテーブルに椅子が10脚。巨漢のオバ様が上座へ座ると、自然とその反対側へ赤名が座り、桃園と藍沢が両隣へ。黒柳と白井と俺は立ったままだった。
「・・・さて、ご依頼の方を詳しく聞かせていただく前に。良いのですか?お屋敷で働く方々に聞かれても?」
メイドに出された紅茶を一口飲むと、赤名は口を開いた。
「ええ、メイド長と執事以外は出払っておりますので、そこのところは大丈夫です」
巨漢のオバ様はニコリと笑った。相変わらず子犬は鼻先しか見えない。
おっ、この紅茶美味い。
あまり詳しくはないが、こんなに美味いものは初めてだ。やっぱり高い物は違うな、と感心してしまった。
「お口に合いますか?」
話しかけてきたのは先程オバ様から紹介のあったメイド長の方だった。年齢は俺に近いだろう、見た目も可愛い。俺の鼻呼吸は激しくなり、背筋も心なしかピンっと伸びた。
「えぇ、とても美味しいです。この紅茶は売ってる物ですか?」
「いえ、私共が屋敷内にて茶葉を育てておりまして・・・」
「オリジナルなんですね!凄いなぁ」
「ありがとうございます。それでは私は失礼します」
と、そのメイド長はトットットッと聞こえるか聞こえないかという程の小さな足音をさせてどこかへ行ってしまった。その背中に見惚れていると、いつのまにか赤名たちの話は終わっていたようで、探偵事務所の面々の視線は俺に集まっていた。
「あー、えと、その・・・」
「帰るぞ」
はい・・・。
俺は声にならない程、肩を落とした。
《ちゅうに探偵赤名メイ④》へ続く。
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