《ちゅうに探偵 赤名メイ ②》


こ、この娘が、赤名探偵・・・?


俺はその女の子を舐めるように見回した。Tシャツにジーパンの一見普通の女の子だ。セミロングの黒髪にはっきりした口元や鼻、そしてキリッとした目。どこにでもいそうな雰囲気のその娘は怪訝な顔をして俺を睨み返してきた。


「誰だそいつは?」


赤名と呼ばれた女の子は、まるでやり手の企業の部長の様な足取りで自分のデスクへ向かい、持っていたカバンをドサっとデスクに投げ置いた。


「今日からここで働く方だそうです」


「そうか、それは良かった。何せ人手不足でな、助かる。貴様、名を名乗れ」


貴様・・・!?


赤名のデスクにお茶を出す桃園に目を奪われながらも、聞きなれない単語に思わず心の中で突っ込んでしまった。


「あ、えと、私は青山 凌と申します!よろしくお願いします、赤名探偵!」


先程桃園たちに向けた深々としたお辞儀を再び彼女にも見せたが、赤名は無反応だった。それより、ジーッとこちらを睨んでいた。


「青山 凌、か・・・」


「また例のやつですかい?」


赤名の帰社により自分のデスクに戻った黒柳たち、先程とは打って変わって真面目に仕事をしているかの様にパソコンを叩いていた。


「ん?あぁ。コードネームは大事だからな」


コードネーム?


「おい、ピンクガーデン」


ピンクガーデン・・・???


「はい、何でしょう?」


返事をしたのは桃園だ。


「お茶を買い換えたか?美味いな」


「ありがとうございます。少し高い物に変えたんですよ〜。私が試飲をしました」


「やはり味に関してはお前に任せておけば間違いないな」


和気あいあいと和んでいるが、俺の頭の中はピンクガーデン(桃の園)でいっぱいだった。まさか、と首をギギギと擬音がしそうな程機械的に赤名の方へ向ける。彼女はお茶をすすりながら俺のコードネームを考えていた。


「ふむ、お前のコードネームは・・・、青山 凌・・・、そうだな・・・」


おい、やめろ。


「青山・・・」


頼む、それは勘弁してくれ。


「ブルーマウンテンはどうだ?」


やっぱりーーー!!


問答無用でコーヒーの種類みたいになった俺のコードネームは、意外にも他のメンバーには高評価だった。


「良いんじゃないでしょうか?」


「おぉ、そう思うか、ブラックサンダー」


ブラックサンダー!?


頭の上にハテナマークがポンポンポンと出たのが見えたのか、ピンクガーデンこと桃園は補足説明をしてきた。


「あぁ、黒柳さんの本名が黒柳 雷蔵なので、苗字と名前を一文字ずつ英語にしたんですよ」


何十円かで売ってるチョコ菓子みたいなネーミングだけど良いのか・・・?


と腑に落ちないが、ブラックサンダーこと黒柳はヒドく気に入っている様子だった。


「ちなみに、白井さんと藍ちゃんのコードネームは、ジャスティスとアーサーです」


なんかもう分からん。


考える事を放棄した方が楽な程、コードネームの付け方には法則性が無く、赤名本人が気まぐれで付けたような名前だった。ただし礼儀もあるので、一応聞いておく。


「ど、どうしてジャスティスとアーサーなんですか?」


本当はどうでも良い・・・。何かこれから先不安になってきた。


とゲンナリしていると、ジャスティスこと白井は胸に手を当てて、高らかに話し出した。


「そんなに聞きたいかぁい?そうだね、答えてあげよう!」


早くしてくれぇ。


「僕の名前は正義(まさよし)。読み方を変えれば『せいぎ』。よって英語の『ジャスティス』が僕のコードネームになったのさっ!」


チャームポイントだと思われる八重歯をキラッと光らせた白井はどこから取り出したのか、赤い一輪のバラを桃園に渡していた。


「アーサー・コナン・ドイルのアーサーだよ」


「藍ちゃんのフルネームは藍沢 ドイル。有名ミステリー作家からいただいたコードネームなのよね?」


あまり多くを語らないアーサーこと藍沢ドイル。白井から受け取ったバラをへし折りながら、桃園は補足した。先程はぱっと見しかしていなかったから気付かなかったが、恐らくどこかの外国のハーフだ。四角い縁のメガネの奥の目が青く、肌の色が白かった。


「というわけで、よろしくな、ブルーマウンテン」


と赤名が手を差し出し、納得しないままそれに応えようと俺も右手を差し出した瞬間。探偵事務所の電話がそれを遮った。それを桃園が取ると、数回頷き、パァッと笑顔になっていった。


「赤名さん、依頼です!」


事務所内には緊張感が走った。


《厨二探偵 赤名メイ ③》へ続く。

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