ちゅうに探偵 赤名メイ

神有月ニヤ

《ちゅうに探偵 赤名メイ ①》


ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・。

朝の通勤ラッシュの時間に電車に乗るのは、やはり誰でも憂鬱だ。しかし、俺、青山 凌(あおやま りょう)は違う。何故なら、今日から新しい職場で働けるからだ。

小脇に書類を挟み、青地のスーツに身を包み、カラフルなネクタイをキュッと締め直した。


『まもなく、鯱ヶ丘(しゃちがおか)〜、鯱ヶ丘に停まります。左の扉が開きます、ご注意下さい』


お?


ガヤガヤした電車内にアナウンスが鮮明に聴こえる。


確かここで降りるんだったな。


意気揚々と改札をくぐり、駅から徒歩数分の『赤名探偵事務所(あかなたんていじむしょ)』へと向かった。



地図を片手に着いたのは、『探偵事務所』とはお世辞にも言えないオンボロの掘っ建て小屋。しかも大きな公園の片隅にあるそれは、行き交う人々の視線に映らないのか、はたまた視線に映さないようにしているのか分からないが、素通りをする人々がほとんどだった。


「・・・ここだよな・・・ん?」


よく見ると『赤名探偵事務所』の文字が。


やっぱりここか。


と、入るのを戸惑っていると、後ろから可愛らしい女性に声を掛けられた。


「あら?あなたもしかして・・・」


買い物袋を提げた彼女はピンクのカーディガンにロングスカートをヒラヒラさせ、丸メガネを掛けたおさげ髪の、清楚という言葉を体現したような人だった。


かわいい・・・。


俺の鼓動は心なしか速くなった。


「は、はいっ!今日からここで・・・

「依頼者さんですかっ!?」


・・・はい?依頼者・・・?


ポカンとした俺の手を強く握った彼女はその華奢な体つきからは想像出来ない程、手をブンブン振り、掴んだまま掘っ建て小屋の中に入って行った。


うん、悪くない。


女性の柔らかい手の感触を記憶に残しふと顔を現実に向けると、室内には向かい合った机と、椅子が合計4セット。その奥に一際目立つ机が。ネームプレートには『赤名メイ』の文字。そこには誰も座っていなかったが、他の3つの席には男性が座っていた。


「カモが来ましたよ〜」


「え、カモ!?カモって言った、この人!?」


繋いでいた手を離された事よりもカモと呼ばれた事に疑問が移動した瞬間、目の前に壁が出現した。


あれ、暗い。


その壁をペタペタと触り、思わず見上げるとサングラスを掛け、角刈りの、派手な黒いハーフパンツに素肌にアロハシャツを着こなす大男が立っていた。


「・・・金は出せるのか?」


はい・・・?


「お前は金が出せるのか、と聞いている」


凄味を利かせて、サングラスの奥からでも睨んでいるのがハッキリ分かる鋭く眼を光らせた大男は、この場にいる誰よりも歳を取っていた。見た感じだと50代ぐらいだろうか?

ポカンとして黙っていると、また別の男性がそれを遮った。


「黒柳(くろやなぎ)さん、ダメですよ、そんな言い方では。依頼者さんが困っているでしょう・・・」


甘い声にキラキラとしたオーラ。おまけに端整な顔立ちにホストの様な髪型。白のスーツの上着のポケットからハンカチがちょろっと顔を出していた。


あぁ、イケメンってこの人の事を言うんだな。


と和んでいると、その男はツカツカと歩み寄ってきた。助けてくれるのかと待っていると俺をスルーした。


・・・あれ?


「そんな事より桃園(ももぞの)ちゃん、この後食事でもどう?」


「ははは、殺しますよ、白井(しろい)さん?」


最低だ、この人達・・・。


笑顔で殺す発言をしている桃園と白井と呼ばれた男のやり取りに顔をしかめていると、椅子に座っていたもう1人の男性、いや、男の子と言った方がしっくりくる年齢の子が立ち上がった。四角いフチのメガネを掛け、坊ちゃん刈りで、いかにも真面目そうなその子は、メガネをクイックイッといやらしく上げながら近寄ってきた。


「・・・・・・」


「・・・な、何?」


ジーッと見つめられ、スンスン、と匂いを嗅いだ。そして彼は無言のまま、再び席に戻っていった。


「どうしたの、藍(あい)ちゃん?」


「この人、新品のスーツっぽい。依頼者じゃないと思うよ」


ようやくまともな人に出会えたぁ〜!


と普通の事なのに何故か感激できてしまう程の事が、この少ない時間で起きてしまっている。濃ゆい、の一言で全て片付けられそうな雰囲気は嫌いではないが、慣れるのには時間が掛かりそうだった。


「じゃあ、お前は一体何者なんだぁ?」


凄みを利かせた黒柳が再び顔を覗き込む。名乗る事にこんなに時間が掛かるとは思ってもいなかった。


「俺・・・、いえ、私は、今日からここ【赤名探偵事務所】で働かせていただく青山 凌と申します!よろしくお願いします!」


深々と頭を下げる。と同時に、背にしていたドアがバンッ!と音を立てて勢い良く開いた。チラッと目線をやると、そこには中学生ぐらいの女の子が立っていた。


だ、誰だ、この子?


「あ、おかえりなさい、赤名さん」


桃園の言葉に、俺は耳を疑った。


うぇーーーーー!?


《厨二探偵 赤名メイ ②》へ続く。

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