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疲労感の内に充足感も同時に覚えられた。嘗ての同僚に頼まれし一件は漸く成った。
自分の培った技業の体系化のみならず、簡便化、後進達が更なる後進達を育てられる仕組みの敷設まで行った。自分の養生してきた技術とは容貌を変じることとなったが、何かしらを残す、という本意は達せられたかと嘉和は考えた。依頼者は、「想像以上の成果だ」と大いに喜び、幾許か報酬を割り増して呉れたくらいである。
まだ日が傾きだしたくらいの時刻である。居間にて畳の上へ身を放り、嘉和は一人、呆んやりしていた。
やがて外から一組の男女の談笑するらしき声が聞こえた。間もなく玄関の戸の開く音がした。日和と生哉の二人に相違なかった。この家に彼を引き取って一度も耳にしなかった甥の笑う声に、日和の身にあった嬉しいことの正体が察せられるようである。
「ただいま」
二人の声が玄関の戸の閉じられる音と重なって聞こえた。
「おかえり」
と返事をするなり二人の足音はこちらへ向かった。
「この時間に家に居るなんて久し振りじゃない」
額に滲む汗を白の手巾で拭いつつ不思議がるように、喜ぶように日和が尋ねる。娘の後ろから、生哉が「ただいま帰りました」と汗も拭わず頭を下げた。表情は体操和らいでいるように感ぜられた。
「大きな仕事が漸く成ったのでね」
「大きな仕事――ですか」
どうやら気にかかるらしく、生哉が尋ねる。
「うん。そう。報酬にもちょっと色がついたのでね、なんとか生哉君の学費も確保できた具合だ」
「そんな、学費だなんて――」
甥の眉は八の字になって些か困ったようである。
「子供が遠慮するものではないよ。今まで頓着し忘れていたが県内なら受験までもう半年もないのだから、なんなら塾に通って呉れても構わない」
「そうよ、生哉君、大学行くなら二人分の学費だって頑張るし」
少々からかうように日和も言う。嘉和は二人の関係の発展が察せられて俄に頬が緩くなった。
生哉は「遠慮しているわけではなく――」と呟いたが、その先の言葉は出てこなかった。かと思うと不図気が付いたように、「大きな仕事って結局なんだったのでしょう」と再び尋ねた。
嘉和は一連のことを話して遣った。ある点に於いては生哉の存在が大変な助けになったこと、また日和の不断の支援に助けられたこととに改めて感謝した。
「そんな……」と言った二人の顔が晴れ晴れとしていなかったのは、未だこの一家の抱える問題が解決を見ていなかったためと覚えた。
「大丈夫、すべて良くなる。屹度なんとかなる」
二人を励ます一方で己を鼓舞すべく父は力強く言葉を口にした。
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