フラグと伏線:ドラマティックな構成と作品世界の中のつじつま

 これまで物語の中身とか意味とかは置いておいて、形式的にこうなっていればドラマティックに盛り上がるという話をしてきました。しかしもちろん、作品世界の中の因果関係や話のつじつまはきちんとしていないといけません。


 ドラマの構成上、ここらで話をアゲたい/サゲたいというだけの理由で、唐突に事件を起こしたり、動機に無理のある行動をキャラクターに取らせたりすると、当たり前ですが観客はシラけます。このタイミングでアゲたりサゲたりすると盛り上がるぞというのは作品世界の外側の、作り手の都合にすぎないからですね。作品世界の中で起きる出来事は、あくまで作品世界の中での必然性に基づいて起こっているように見せなければ、ご都合主義と言われてしまいます。


 逆に、作品世界の自律性を重視しすぎて、話の展開に無理はないけれどドラマティックな盛り上がりに欠けていて地味な作品というのもあります。こういうタイプの話は生真面目な人が作っていそうな感じで、個人的にはそれほど嫌いじゃないんですが、残念なことになかなか注目が集まらないことが多いようです。


 ドラマを生むために求められる構成と、作品世界の中の必然性。この二つは別もの。その上で、本来は無関係である両者をうまくシンクロさせるのが作劇というわけです。


 ところで、ちょっと脱線気味になりますが、フラグとか伏線とか言われるものについて、以上の話にからめて考えてみます。


 フラグというのは俗語として色々な意味で使われていますが、例えば「死亡フラグ」いうのは、死亡するキャラクターがその直前にスポットライトを浴びて描写されるパターンなどを言うようです。これは「持ち上げてから落とす」構成が観客にバレていて、先読みされているわけですね。

 ここでは、「持ち上げてから落とす」「落としてから持ち上げる」構成が先読みされたものを「フラグ」と呼ぶことにします。演出意図がわかっていても感動するのはよくあることですが、「フラグ」としてあまりにも見えすいているのはやはりマズいでしょうね。


 それに対して、ある出来事が起こる前にその前兆をさりげなく表現しておくのをここでは「伏線」と呼ぶことにします。例えば、悪天候が原因で事故が起こる前に、天候悪化の天気予報の描写を目立たないかたちで入れておくようなことです。伏線を張っておくことで、作品の中の出来事が唐突に起きているのではなく、作品世界の中の因果関係に基づいて発生しているという印象を与えることができます。

 簡単に先が読めてしまう伏線はあまりよくないですが、かといって伏線があったのに最後まで気づかれないほど目立たないのも意味がありません。「フラグ」は勝手に先読みされてしまっているだけですが、伏線は気づいてもらうために張っているわけですから。


 ついでに、「フラグ」でも「伏線」でもないものとして「暗示」というのも挙げておきます。

 「フラグ」というのは作品世界の外の論理を使った先読みですから、原則として作中の登場人物には認識できません(メタなネタでなければ)。一方、登場人物が「伏線」に気づいたり、それから未来を予測したりすることは(実際にはともかく)理論的に可能です。

 それに対し、よくない出来事が起こる前に不吉な感じのするBGMを流したり、暗雲がたれこめる描写を入れるようなことを、ここでは「暗示」と呼ぶことにします。

 これは先の展開を観客に対して意図的に仄めかしているので、上で説明した「フラグ」とは違うものです。また、BGMは作中の人物には聞こえない「作品世界の外」のものですし、「暗雲」とその後に起きる出来事に「因果関係」はありません。作中の人物には原理的に認識や予測が不可能という点で「伏線」とも区別ができます。


 フラグとか伏線という言葉は人によって違う意味で使われていますが、上のように、作品世界の内側の論理と外側の論理という観点で整理してみました。


 さて、作品世界の内側の必然性とドラマティックな構成は、車の両輪のようなもので、どちらが欠けていてもうまくいかないのですが、現実にはなかなか両方が完璧というわけにはいきません。程度にもよりますが、商業的な成功という面では「ドラマティックな構成」の方が威力が大きいようです。細かいところでつじつまが合ってなくても、ドラマが盛り上がれば感動してしまうのが人間の心理なのかもしれません。


 では、次の事例として前シーズンに好評だったアニメ『ゾンビランドサガ』を取り上げます。この作品も実は、『ガルパン』によく似た王道パターンの構成でできています。

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