『ガールズ&パンツァー』の分析 (2)
主人公が決意をして行動を開始することで物語の第一幕は終わり、第二幕が始まります。『ガルパン』で言えば、西住みほが戦車道をすることを決意することが第二幕への転換点です。
前にTVアニメの構成は映画とは違うと述べましたが、尺が長くなった分、第二幕の前半が長くなります。
この第二幕前半は「落としてから持ち上げる」というドラマ構造の繰り返しで進みます。主人公たちの前に障害が立ちふさがる(サゲ↓)が、うまく解決する(アゲ↑)というエピソードを繰り返しながら、話を前に進めていきます。第二幕前半は前向きで明るい雰囲気を持ち、全体としてはアゲ基調です。
『ガルパン』では第2話から第二幕前半が始まります。
戦車道の試合や、日常場面でのさまざまな課題をクリアしていくことが、サゲ↓からアゲ↑への繰り返しとして進行します。また、サブキャラクターに焦点を当てたサブプロットもここで描かれます。第二幕前半では、話が進むにつれて試合にも勝ち進み、戦車と仲間も増えていって物語は順調です。
ここでのエピソードの重ね方として、"各話完結型"と"週またぎ型"があります。
"各話完結型"は、「問題が起こって(サゲ↓)、解決される(アゲ↑)」というパターンが一話におさまって毎週くり返されるので安定感があります。一方、"週またぎ型"は問題の解決を翌週に回す、いわゆる「クリフハンガー」の手法を使うことで、観客の関心を惹きつけておくことができます。『ガルパン』は"週またぎ型"ですね。
いずれにしろ観客を退屈させないために、「上げて落とす」「落として上げる」手法は各エピソードの中でも細かく使っていく必要があります。
第7話で主人公みほの過去が語られ、彼女が戦車道を嫌がってきた理由が明かされます。みほは以前、試合中に水中に落ちた仲間を助けることを優先して大会での優勝を逃しています。ここでも「勝利よりも仲間が優先」という主人公の主張が現れていますが、あくまで勝利を求める母親と対立し、戦車道をやめることになりました。
こうして過去が語られた後、みほは大洗女子学園で仲間たちと一緒に戦車道を楽しんでいることを自覚しますが、これは第二幕後半に訪れる危機との落差を生むための前振りです。
『ガルパン』の第二幕後半は第8話(Bパート)から始まります。映画とは違ってTVアニメでは、作品全体の中間点ではなく後ろ寄りになります。
そして一週間はさんで次の回に第二幕後半は終わります。前半と比べるとずっと短いですが、なぜかというと第二幕後半は主人公が苦しむ、暗くて重いパートだからです。
映画なら30分ほど待てば第二幕後半は終わり、主人公が再び活躍する第三幕が始まります。しかしTVアニメで主人公の苦境を何話も引きずれば、観客に与えるストレスが大きくなりすぎます。「鬱展開」が何週間も続くのは観客にとっては苦痛なのです。映画では30分であることを考えれば、アニメでの一週間は充分な時間と言えます。
対プラウダ高校の試合で、みほは仲間たちの意見に押されて、内心危ないと感じながらも軽率な作戦を採用します。ここでの失敗は「勝利より仲間が優先」という主人公の価値観が裏目に出ています。この時点で、みほはまだ絶対に負けてはいけない理由があることを知りません。一度は捨てた戦車道を再び始めたのも仲間のためなので、リスクがあってもチームメイトが楽しめる作戦を採用するというのは主人公の心理としては一貫性があります。
しかし結果として、主人公たちはみすみすプラウダ校の罠に嵌って苦境に陥ります。さらに、大洗女子学園はこの大会で優勝できなければ廃校になるという事実が、生徒会長の口から明かされます。
「裏主人公」と勝手に呼んでいるキャラクターのタイプがあります。
主人公以上に物語の状況について把握していて、事態をかなりの程度コントロールしているが、それがあまり表立って描写されないキャラクターです。『ガルパン』で言えば、生徒会の角谷杏がそうですね。実は生徒会は、母校を廃校から救うために主人公に働きかけ、戦車道大会での優勝を目指していたことが明らかになります。
「裏主人公」のプロットは、第二幕の終わり、すなわち第二ターニングポイントの付近で回収され、物語の流れを裏で支えていた人物に焦点が合わせられます。それによって観客は今まで見えなかった事態の全体像を把握して、第三幕の結末に進むことができます。
この「裏主人公」の存在はドラマの構成上、別に必須というわけではありませんが、意外と多くの(オリジナル)アニメで効果的に使われています。(今後の事例でも取り上げるつもりです。)
その翌週の第9話(Aパート)に第二ターニングポイントが来ます。
ここで主人公の決意と行動により事態は打開されます。みほは仲間との学園生活を守るため、積極的に戦車道での勝利を目指します。これまで主人公を捕らえていた「仲間か勝利か」という偽りの二者択一が消えて、「仲間を守りたい」という主張に光が当たります。
ここで覚醒したみほがするのがなぜか「あんこう踊り」なんですが、とにかく重く暗い第二幕後半の空気を吹き飛ばして第三幕が始まります。
第三幕で描く内容は、新たに決意を固めた主人公が試練に挑む「クライマックス」と、試練に打ち勝った後の締めくくりである「エンディング」です。『ガルパン』の第三幕は第9話後半から第12話までと長めですが、黒森峰女学園との派手な戦車戦をたっぷり見せるためにクライマックスのパートが長くなっているのがその理由です。大洗の勝利の後、サブキャラクターたちを勢揃いさせて迎えるエンディングのパートはさほど長くはありません。
一般に、第三幕は最後の1話くらいで済ませる作品の方が多いようです。
実は、1クールのアニメ(特に原作のないオリジナル作品)では、ジャンルに関係なく『ガルパン』と似たタイプの三幕構成になっている作品が多くあり、王道の構成として成り立っています。
クール構成の時間配分をまとめると、第一幕の導入部は第1話で済ませてさっさと話を転がし、第二幕前半を長めに。第二幕後半の長さは週をまたいで2話までにします。第三幕の長さは作品の狙いによって変わりますが、1話あれば収まるようです。
もちろん、これだけが唯一の正解というわけではありませんが、非常に効果的なテンプレートだと言うことはできます。
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