『ガールズ&パンツァー』の分析 (1)

【以下で、アニメ『ガールズ&パンツァー』(テレビシリーズ)のストーリーに言及するのでご注意下さい。あらかじめ視聴されておくことをお勧めします。】



 アニメの導入部は、面白くないと思われたら視聴継続してもらえないですから、やはり大切です。

 第一幕でなすべきことは、どんな世界で、どんな主人公が、何をする話なのか、観客に伝えることです。それがわからないと観客は感情移入がしにくいため、冷めた目でフラットに作品を眺めることになります。これは作り手からすれば恐ろしいことです。

 淡々とフラットな視線で観ている視聴者には、はっきり言えば作品の「穴」が目に付きやすいのです。話の本筋に引き込まれている観客は、本筋以外の部分の欠陥にはあまり意識が向きません。しかしまだ感情移入できていなかったり、そもそも何が本筋なのかわからない状態だったりすると、観客にとっては「本筋」も「枝葉」も同等なものとして現れ、それを冷淡で批評的な意識で評価することになります。まだ主人公に肩入れする気分になっていない観客は、主人公のちょっとした欠点を不快に感じることもあるでしょう。


 文学的、芸術的な作品なら、あえて観客の感情移入を拒み、冷めた意識で作品を鑑賞させる手法もあるかもしれませんが、エンタメではリスクが大きすぎます。

 実際、クールの初期でここがおかしい、そこがおかしいというクレームが多く付いているアニメは、導入が上手くいっていない可能性が高いと思います。


 もちろん作品に「穴」はないに越したことはないのですが、ぶっちゃけ穴だらけでも人気のある作品はあります。作品に入り込めれば小さな穴は気にならないけれど、入り込めなければ穴の方に注意が向かってしまうというのが人間の心理のようです。

 変な話、ネタアニメとして楽しむとか、独特の世界観や雰囲気が感じられればいいとか、キャラクターが可愛ければいいとか、とにかくそのアニメの「見かた」が定まれば、評価が安定したりします。(ただ、主人公に注目してドラマに感情移入するのがやはり王道だと思いますので、その線に沿って話を進めます。)


 そんなわけで導入はできるだけ早く済ませてしまう方がよく、第1話で第一ターニングポイントまで描いて第一幕を終わらせてしまうのが良策だろうと思います。そういえば、ロボットアニメでは、初回で主人公をロボットに乗せるところまで進まなければならないという制作上のセオリーがあると聞きます。

 30分枠のアニメなら、一話分の尺は正味20分ちょっとで全体の尺から言うと短いようですが、多くの映画は30分以下で第一幕を済ませています。TVアニメは映画より全体の尺が長いからといって、第一幕で伝える情報量を多くする必要はないと思います。第一幕で世界観を伝えるといっても、大まかなイメージを伝えることが優先で、細かい設定は第二幕で話を進めながら説明した方がいいですし、最初に手の内をすべて明かす必要もありません。


 では、具体的に「ガルパン」の第1話を見ていきましょう。

 冒頭、時系列を先取りして聖グロリアーナ戦から始めて、「可愛い女の子たちが派手な戦車戦をするアニメですよ」というある意味で一番重要(?)な情報を視聴者に示します。


 続いてが本当の導入で、主人公の西住みほが新しい街、新しい学校に来たばかりであることがわかります。主要登場人物と、戦車道という奇妙な設定を持つ世界観が紹介され、みほは生徒会から戦車道を行うよう迫られます。みほは過去の経緯から戦車道を避けているようですが、新しくできた友人を庇うために生徒会の要求を呑みます。ここが最初のターニングポイントです。

 タイトな構成で、第一幕ですべきことをひと通り第1話でやり切っているのがわかります。


 第一ターニングポイントで主人公の決意を行動で示すことが、三幕構成のドラマでの鉄則になっていますが、それによって物語が本格的に動き出したという印象を観客に与え、主人公の主人公らしさを示すことができます。

 そして西住みほの主人公としての決意の背景には、「仲間を守りたい」という主張(目標)があります。ただし第一幕の時点で、まだ主人公はその決意を最後まで貫きとおせる強さを持ちません。

 主人公の物語上のゴールはシンプルに言い表わせるようなものがいいという作劇上の経験則がありますが、これは主人公の性格付けとか個性とは別の水準の話です。登場人物は奥行きを持った複雑な人格を持っていてもいいのですが、それと同時に物語には明快な一本の軸が通っていないとエンタメとしては入り込みにくいということです。

 なお、みほは戦車道を嫌がっている設定ですが、物語の始まりで主人公は"嫌なことをせざるを得ない状況"に置かれるか、逆に"やりたいことをさせてもらえない状況"に置かれるのがパターンですね。


 第1話の締めくくりでバカでかい学園艦の全貌を見せて、作品の世界観、リアリティの水準を提示しています。これで現実味よりも娯楽としての楽しさを優先していることを視聴者に伝えているわけですね。こういうことも導入部でやっておくことです。

 それから、導入部を1話で済ませるのに尺が不足気味になるからでしょうが、エンディング・アニメーションは省かれ、オープニング・アニメーションが最後に回されています。アニメの第1話ではよくあることですね。ちなみにオープニング・アニメーションは、その作品のノリや、世界設定、主要登場人物などが何となくわかるように作られているので、導入の役割を果たす第1話とある意味で内容がカブっています。そのせいで後ろに回されているというのもあるのでしょう。


 TVアニメの構成でも第一幕でやるべきことは映画と変わらず、第1話で済ませる方がいいというのがここでの結論です。第1話を1時間枠で放送することもありますが、ほとんどは原作付きの作品で、原作の構成の都合上やむなくやっているように見受けられます。

 さて、TVアニメでは第二幕以降の配分が映画とは違ってくるのですが、引き続いて『ガルパン』を例にあげながら説明していきます。

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