"ドラマティック"の作り方
物語を作るときに、ただ何か出来事が起こるだけではドラマとは言えません。出来事を
ドラマの最小単位は、「落としておいてから持ち上げる」と「持ち上げておいてから落とす」の二つだと思います。つまり「登場人物を不幸に突き落としておいてから幸せに導く」、あるいは「登場人物が幸せな状態を作っておいてから不幸に突き落とす」という落差によって印象を強める作劇技術です。
エンタメ作品は普通、主人公がいろいろ苦労した結果ハッピーエンドに至る、つまり「落としてから上げる」タイプのドラマです。
逆タイプの「上げてから落とす」ものだと、『オイディプス王』の物語のように「良い事」を行なってきたはずが最終的に破滅につながる悲劇や、「良い事」があって浮かれている人物が最後に痛い目に遭って笑いを生むような話になります。
さて、エンタメ映画の三幕構成をいま述べたドラマの仕組みで捉えなおしてみましょう。
第三幕のハッピーエンド、つまり「アゲ」で感動させることが最終的な目標になります。すると、第二幕後半の主人公の苦境(「サゲ」)はそれを盛り上げるための前ふりだったことになります。そして第二幕前半で物語が順調に進む(「アゲ」)のは、次に来る苦境を強調するためものなのです。
第一幕では、幸せな(あるいは平凡な)生活を送っていた主人公が問題に直面するか、ジリ貧の主人公がいよいよ追い詰められるかして、物語の中に飛び込んでいきます。これは「サゲ」ですね。
第一幕サゲ↓ 第二幕前半アゲ↑ 第二幕後半サゲ↓ 第三幕アゲ↑と、上げ下げを繰り返しながらその振幅を大きくしていって、最後のアゲを最大に持っていく仕組みになっているのです。単純に一回下げて一回上げるだけの話よりもこの方が大きなインパクトを与えることができます。
では、上げ下げをたくさん繰り返せばいいのかというと、たぶん違います。上げ下げを繰り返しているうちに観客が飽きてしまったり、感情の振幅をだんだん大きくしていかなければいけないのに途中で失速してしまったりする危険があるからです。それに人が集中して映画を観ていられる時間は2時間くらいですし、興行的な理由からも上映時間は制限されるので、尺に合わせた構成にしなければなりません。
いわゆる三幕構成の配分は、経験則によって映画に最適化された結果だと思います。
したがって、映画の三幕構成の時間配分をそのまま1クール12話のアニメに当て嵌めて、第一幕=1〜3話、第二幕前半=4〜6話、第二幕後半=7〜9話、第三幕=10〜12話としてもまず上手くいきません。映画は導入から結末まで2時間程度で一気に観ることを前提としているのに対し、TVアニメはより長い尺で数ヶ月かけて観るものですから、どうしたって同じにはならないのです。
ちなみに原作付きアニメの場合は、オリジナルアニメのように自由に構成ができません。そして原作の漫画や小説などで上手くいっていた構成が、TVアニメでも上手く機能するとは限りません。表現する媒体によって最適な構成が変わってくるからです。原作に手を入れすぎると視聴者に嫌われますが、TVという媒体と尺に合わせてある程度の調整は必要でしょう。
原作が完結しておらず、アニメは話の途中までしかできないこともよくありますが、最終話の少し前に大きめの危機(サゲ↓ )を配置し、最終話でその解決(アゲ↑)を描いてとりあえずの結末とするのが普通ですね。
次は、1クールのオリジナルアニメのドラマ構成のよい例として『ガールズ&パンツァー』を三幕構成の考え方で分析してみます。『ガルパン』の構成は、1クールアニメの王道になっていると思います。
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