第12話
人混みをかき分けて解体場の前に来るまでに2度か3度転んでいた。
後ろのほうでドラゴンが盗まれたと聞いたとき、どきっとした。あんな空飛ぶトカゲ野郎の死体よりも近くにいただろうレインの無事が気になった。いくらドラゴンを倒した力があるとしても、万が一はある。
レインの姿が見えたときには、無事に立っていてまず安堵した。なぜかガラの悪い男が3人レインの前に向かい合っている。1人は土下座し、1人は地面に倒れており、1人が顔面蒼白で直立している。
なんだこの状況。
そう思うもそれらを一旦見なかったことにした。先に僕の方を向いてだらしなく笑っているレインに「大丈夫か?ケガはない?」と声を掛けた。
レインは僕に抱きついてきて、いつも通り大丈夫と伝えてきた。
それでほっと一安心して、放っておいた3人を見ながらレインに聞く。
「この体調の悪そうな方々は?あんたら、どしたの?」
「俺たちが、そちらの方に間違って……ドラゴンを盗んだと言ってしまって……謝らせてもらってます」
「とんでもねえ謝罪だな。どんだけ反省してんだよ1人意識失ってんぞ。やらかしマンの僕でもここまでの謝罪見せたこと無いぞ」
土下座したまま荒い息をする男と地面大好きと言うように倒れている男を見る。
「ドラゴン盗まれた疑惑かけられたレインは大丈夫?気分悪くしてない?」
「ちょっとびっくりした!けど、ダイジョーブ」
「なら良いか。謝罪は受け取ったからはやく帰りなよ。帰ってボスに2度とちょっかいかけんなって言っておいて。あ、2度は言わないから」
そう言うと目の前の男は血色の悪い顔色をさらに悪くし、土下座している男は呼吸を止めた。
僕の鑑定の目に映る二人の名前の前に【町はずれの盗賊団】とついていた。
お仕事なのか、あわよくばと思いふっかけてきたのか、はたまたドラゴン狩ってて本当に間違えたのかはわからんが、とりあえず実害はないしこれで良いかな。
盗賊三人は脱兎のごとく逃げて行った。
僕にぴったり抱き着いたままレインが僕を見て言った。
「ご主人!汚れてる!どうしたの?」
「ここまで来るのに人混みをかき分けきれずに転んだ」
そういって膝や肘についている砂を手で払った。
レインはなにも言わずにぎゅっと腕に力をこめて来た。
「ご主人はあたしが守るからね」
感慨深そうにそう言われる。
「頼りにしてる」
抱きしめられる腕に手を重ねて応えた。
なんだか胸があったかくなった。
「んっ、んー………あー、こほん。いいかしら?」
「どうした遅いぞドラゴン娘。だから馬車ごとさらわれるんだ」
「だれがドラゴン娘よ?あと馬車が持ってかれたのは決して遅いからではないわよ!そんなことよりもあんた達、公共の場所でなに抱き合ってるのよ!?」
「いちいち小言が多いんだよ」
「いちいち私に突っかかって来る男のせいじゃないかしら」
そう言ってレインと離れる。
僕の全身をじっと見てくるエクレアがつぶやいた。
「……あんた、全身泥だらけよ。お風呂に入るのをおすすめするわ」
2人にそう気遣われてしまったら、仕方がない。素直にお風呂いこう。
「公衆浴場あったよな。みんなで風呂いくか。……もっかいギルドに換金行ってくるわ」
エクレアと「あー」と言い合った。
お金が無いとなにも始まらない。
「ん~?即金欲しいの?かしたげよっか?」
「……いいの?」
そう言ってきたのは人当たりの良いピンク髪の受付嬢さんだった。
ギルドの制服を着たまま追いかけてきてくれたらしい。
ロレーヌと言う受付嬢はピンク色の袋をスカートのポケットから出してコインを何枚か手にとっていた。
僕は首からぶらさげた小さな革袋に腕を突っ込んでなんか渡せないかとゴソゴソ動かす。1つ1つが重くてデカくて、たまに何かに腕がささって扱い辛いったらありゃしない。指先に当たった小さな丸い円形の物を取り出す。
これなら、あげてもプレゼントって言えるんじゃないか?
「はいっ、銀貨5枚。貸してあげるから、倍にして返してねっ」
僕は銀貨5枚を受け取った。愛想のいいロレーヌは僕の手を握るように銀貨を渡してきて、ちょっとドキっとした。
「ふっかけられたな。わかった、倍返しな。それとは別にお礼させて欲しいんだけど。ありがとう手間が省けた」
そう言って取り出したドラゴンの宝物を1つ分ける。
出てきたのは指輪で、金の指輪だった。ピンク色の宝石がはまっている金の指輪だ。ピンク髪の受付嬢さんには似合うからちょうどいいかな。
そう言って指輪を指でつまみ差し出した。
「「えっ?」」
そんな声を上げたのはエクレアとロレーヌの両名だった。
ロレーヌのほうが放心したように目を開いている。
そんな2人をスルーして、ロレーヌに指輪をあげる。最初は手に握らせようと思ったが指輪だし、つけてあげればいいのか?適当な指を選んで指輪を差し込むと魔法にかけられていたように指輪がサイズを変えて、指にフィットした。
「えっ、すごい。指輪サイズ変わったぞ」
「なにに驚いてんのよ!?私はあんたの行動にビックリよ!?」
「なに驚いてんの?」
「なんで平然といられるの!?」
珍しく顔色を変えて怒ってくるエクレア。マジでわからん。そう耳元で囁いたら、急に頭を抱えて、ためらった後、僕に耳打ちしてきた。
「この、あんぽんたんっーー!!あんた何したかわかってるの!?ピンク色の金剛石の指輪を贈るってどういう意味かしらないの!?」
「今ちょっと予想付いたけど教えてくれ。やらかした気がする」
「言ってあげるわよ! 結婚を申し込むって意味よっ!!ロマンチックなおとぎ話があって、そのなかでそういうシーンがあるの!!女の子ならだれもが憧れるロマンチックなやつ。しかもピンク色の金剛石なんて、私もはじめてみたわよ。人気過ぎて貴族のボンボンでも手に入れられないっつーの!ちゃっかり左手の薬指につけちゃってるし本当に、もうっ!?どうすんのよ。ウソでしたじゃ済まないわよ」
「安心しろ。お前にプロポーズするときはドラゴンの丸焼きをロマンチックに贈ってやろう」
「たしかに今の私ならそっちのが良いかも……。じゃないわよ!はやくなんか言ってあげなさいよ!乙女のロマンチックは壊しちゃダメなの!!絶対壊すな、壊したら殺す!!」
作戦会議を終えた僕は、エクレアに詰め寄られる形でしどろもどろになっていたのを取り繕う。
あいつ本気で怒りやがって……。
ちらりと横目にレインが目に入った。使い魔という立場からか話からは一歩引いているが心底楽しそうに尻尾を振り振りしている。頼む代わってくれ。僕も横から見ていたい。
「あっ、うんっ、びっくりしちゃって。こ、これっ。……もらって、いいの?」
髪の色よりも赤い顔をしたロレーヌが、片手を顔の前で煽ぎながらそう言った。
恥ずかしさからか火照った体を冷ますように服をパタパタとさせている。もともとはだけている胸元がとてもセクシーに揺れ動いていた。
「いいよ。僕はこれから冒険者ギルドにちょくちょく出入りすると思う。だから、末永くお願いします。熱そうだね?もっと熱くしてやるから覚悟しとけよ」
熱くなってるのが僕のほうなので何て言ったかあんまり覚えてない。おまけに横でキャーという歓声が上がった気がする。
受付嬢さんは顔をぼんっと爆発させて逃げていく。
パタパタと足音をたてて何度か振り返りながら逃げ去っていく受付嬢さんを見送った。
あちゃー嫌われたかな。
「ご主人、やるぅ」
そう言って、振った尻尾で僕の脇腹をくすぐってくるレイン。
「ちょっと良いなって思ってしまったわ。情けない。泥だらけのマヌケ面からギャップが生まれて……でもこのマヌケだし……」
自分の感情と僕とのギャップで苦しむエクレア。
「これでギルドとのやりとりが円滑になればいいな」
そう楽観する僕だった。
とりあえずお風呂いこう。でもやっぱりドラゴンの解体現場も見たい。そうやって右往左往しながらふらふら歩き回る僕たち3人だった。
この後解体場に行った。そしたら解体場の一番偉いドワーフさんから握手を求めらたり、なんども感謝されたり挙句にはレインに「腕は確か」と褒められて男泣きしたりして困った。
ドラゴンのステーキを食べれるように肉を切り出して欲しいというお願いは、すんなり受け入れられた。
ドラゴンの食べられる部分の肉は全て切り出し、ギルドの食堂で提供する準備までしておくとのこと。
解体現場では筋骨隆々の兄ちゃんたちが、肉の塊を台車にのせ、氷で出来た箱につめてギルドに走っていくのを見た。
なんて頼もしい人たちなんだと感動しながら、僕は解体場を出て街にある公衆浴場に向かった。
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