第6話 いざ外へ


 僕が鳥になってから、どれくらい経っただろう。

 一ヶ月、もしかしたらもっと経ってるかもしれない。


 昼も夜もわからないこの洞窟の中じゃ、どれくらい時間が経ったのかわからない。


 ここは太陽が全く入ってきていないというのに、ずっと明るい。

 なんでかわからないけど、異世界にはこういう所はいっぱいあるのかも。


 僕はそこで飛ぶ練習をずっとしている。

 疲れない限り飛ぶ練習、というか身体の中の生命の源を操る練習。


 鳥になってから集中力が増した気がする。

 まあ前世の頃はこんなに集中して何かをしたことがないから、本当に増したのかはわからないけど。

 起きている間は本当にずっと練習をしているから、結構成長できたと思う。


 そういえば僕は、鳥になってから一度も食事をしていない。

 お腹が空かないんだ。なんでだろ?

 多分僕は普通の鳥じゃなくて、やっぱり魔物とか呼ばれる生物なんだろうな。

 炎を吹けて、何も食べなくても生きていけるからなぁ。

 こんな生物、地球にいないのは確かだと思う。


 だけど寝ることはできるんだよね。

 僕が多分生まれたであろう場所、白くてフワフワのところは安眠場所。

 すごい気持ちいい、疲れた身体が沈んでいってすぐに寝ちゃう。それで目が覚めたら元気いっぱいになる。


 あと親鳥がいないっていうのもおかしいよね。

 僕がここで生まれてから一度も見ていない、普通子供が生まれたら一回ぐらいは見に来るよね?

 異世界だとそれも普通なのかな? 魔物は勝手に生まれるもの?


 まあよくわからないけど、僕は普通に元気に生きている。


 そして今日……僕は、大きな一歩を踏み出す。


 そう、外に出るんだ。


 今まで飛ぶ練習をしていて、ようやく外へ出られるほどの力をつけられた。

 生命の源の力、なんか長いから生命力って呼ぼうかな。

 生命力を操るのは大変だったけど、なんとなくやり方を学べていけた。

 なんでわかったのかはわからないけど、人間の赤ちゃんも誰にも教えてもらわずにハイハイとか立ち上がって歩き始めるもんね。

 そんな本能が多分教えてくれたんだと思う。


 洞窟の天井に空いているあの穴。

 多分あそこから外に出られる。


 僕はあそこの穴の下……に行く前に、鳥の銅像の前に立つ。


 ずっとこの洞窟にいると、なんかこの銅像が僕を見守ってくれていた気がした。

 この鳥は僕と比べてみると、一回りくらい大きい。

 だからなんだか親みたいに思うところがある。

 体毛とかはこの銅像の素材が銀色に光っているからよくわからないけど、本当は僕と同じ赤かもしれない。


 じゃあね、銅像。

 僕はここから出るけど、いつかまた帰ってくるからね。

 ここは僕の家だから、また戻ってくるよ。


 心の中でそう言って、銅像に別れを告げる。


 そして外へと繋がっているであろう穴の下に行く。


 よし……行こう!


 僕は翼を羽ばたかせる、ことは全くせずに、ただ翼を広げるだけで浮き上がっていく。


 生命力を使ったら、翼なんていらないということがわかった。

 ……これって、鳥じゃなくても空を飛べるってことなのかな?

 い、いや、そうじゃないって信じたい。


 そして、一気に天井の穴へと飛んでいく。

 翼を広げると壁に当たってしまうので、翼はもう広げていない。

 それでも結構なスピードで上へと飛んでいく。


 上へ続く穴はとても長い。

 ということは僕がいた洞窟はとても深いところにあったのかな?


 数分間飛び続け、ようやく穴の終わりが見える。

 穴の終わり、というかあれは行き止まり!?


 えっ、嘘!? 本当に!?


 上をずっと見て上がっていたら、行き止まりが見えてしまった。


 と、思ったらいきなり横が広くなった。

 左を向くと、そちらに道が繋がっていた。

 左の道はとても大きく、僕がいた洞窟の大きさくらいの入り口でそのままの大きさで続いてるような道だ。


 良かった、行き止まりだったらどうしようかと思った……。


 そして鳥になって格段に上がった視力。

 それが捉えるのは、洞窟の出口だと思われるところ。


 あそこから、僕は外に出れる!


 僕はそっちの道に方向転換して飛ぶ。

 そして飛び始めてすぐに気づく。


 あれ、なんか風を感じる?

 今まであの洞窟の中じゃ全く感じなかった、風が来ていることがわかる。

 つまり外に繋がっているってことは確実になったけど、僕が一番気になるのはそこじゃない。


 これ、翼を広げたら生命力を使わなくても飛べるんじゃないか……?


 僕は恐る恐る翼を最大限まで広げ、生命力を使って飛ぶことをやめる。


 すぐに体勢が不安定になって落ちそうになる。

 けど、頑張ってそれを耐えて安定させるように翼を動かす。


 すると……飛ぶことに成功したのだ。

 今までも飛んでいたけど、それは生命力を使っていたから翼はほとんど使わなかった。


 だけど今は、翼を広げて風を受けながら飛んでいる!


「キョー! キョー!」


 嬉しくなって鳴き声を上げてしまう。

 それと同時に口から炎が出るが全く気にならない。


 やった! 初めて鳥として飛べた!


 そうか、鳥はこうやって空を飛ぶのか。

 風を翼で受けて、自分の身体を風で上げて前に進む感じか!


 だから洞窟の中じゃ飛ぶことができなかったんだ。

 鳥って風を受けて前に進むことで上に行ったり下に行ったりしてたんだ。


 そうだよね、そういえば鳥ってその場でずっと浮かんでるように翼を羽ばたかせる姿なんて見ないもんね。

 それにヘリコプターみたいに上昇もしないよね。

 僕はさっき穴の中を垂直に上昇したけど、あれは生命力があってできることで、普通の鳥ならできないんだ。


 そうか、こうやって飛ぶんだ……!


 すっごい、気持ちいい!

 このままずっと飛んでいたいくらい!


 上へ下へ、右へ左へ、翼を操って前に進みながら行く。


 うわー、うわー! もう言葉にできないくらい興奮してる!


 そのまま何分、何十分飛んでいただろうか。

 目の前に、眩しい光が見えてくる。


 懐かしいと感じる。だけど僕はあの光を鳥になってから見たことはない。


 前世で、部屋の中から、窓越しに何十回何百回と見た光。


 あれは、太陽の光だ!


 とうとう僕は、外に出ることができるんだ!

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