第4話 前世の後悔


 はあ、少し飛ぶ練習をし過ぎたから疲れちゃった。

 ちょっと休憩しよう。


 洞窟のど真ん中にある、白くフワフワしたところ。

 この素材はなんだろう。羽毛? っぽいけど違うかな? わからないなぁ。

 そこで一度寝転がる。


 はぁ、気持ちいいなぁ。このまま眠りたい気分。

 こんなに動いたのは生まれて初めてだ。


 だけど、こんなに動いても少ししか疲れてない。


 前世だったら数十分歩いただけで息切れをして倒れかけるのに。


 前世、か……。


 そういえば鳥になった喜びでちょっと忘れていたけど、僕は死んだんだよなぁ。


 死んだ時、いや、正確に言うと死ぬちょっと前の意識を失う前。

 父さんと母さんの顔は、本当に今思い出しても心が痛む。


 僕は父さんと母さんに、何もしてあげられなかった。


 僕の入院費や治療費を稼ぐために土日もほとんど仕事をしていた二人。

 大きい家も売り払って病院の近くのアパートを借りて、「これで何があってもすぐに駆けつけられるね」と言ってくれた。


 仕事で忙しいはずなのに、ほとんど毎日病室まで来てくれた。

 疲れてるはずなのに、僕の前だとずっと笑顔だった。


 父さんと母さんの笑顔に、どれだけ助けられたか。

 だから僕は、将来何かをしてあげたいと思った。

 病気が治って、退院できたら精一杯二人のために何か、恩返しをしたかった。


 だけど……僕は何も出来ずに、死んでしまった。


 あの時の顔を思い出して、僕が死んだわかった時の二人を思うと、もう言葉も出ない。

 本当に……僕は親不孝な息子だった。


 父さんと病院でやったいろんなスポーツ、楽しかったな。

 僕のために車椅子に乗ったままでもできるものを見つけたり、父さん自身が考えたスポーツ。

 いつか車椅子じゃなくて、立ち上がって二人でスポーツをしたかったな。


 母さんが作った料理、美味しかったな。

 時々、本当にたまに病院が許してくれて、それで母さんも料理を作る余裕があった時だけ食べた。

 病院の食事も別に不味いとは思わなかったけど、味気ないとは思ったことはある。

 母さんの料理は本当に美味しくて、温かかった。


 また、遊びたいなぁ。

 また、食べたいなぁ。

 だけど、もう無理なんだよなぁ。


 二人のことを想って、地面に敷いてある白いフワフワに顔を埋める。

 鳥になって初めて涙を流し、枕を濡らす。


 母さん、父さん、ごめんね……。



 何十分泣いたかはわからないが、涙はもう出なくなった。

 まだまだ悲しいことには変わりないが、いつまでもそうしてても何も変わらない。


 今僕がやることは、鳥として空を飛ぶことだ。


 それが僕の夢で、母さんと父さんにも話したこともある。


 僕の自己満足かもしれないけど、二人のためにも飛ばないといけない。

 父さんと母さんに話した夢を、叶えるんだ。


 それが僕ができる、最大限の親孝行だ。


 届かないかもしれない、いや、届くわけない。

 だけど、空に向かって叫ぶんだ。


 僕はここにいるよ。

 夢を叶えたよ。


 産んでくれて、ありがとうって。


 それをするためにも、僕は早く空を飛ばないといけないんだ。



 そういえば母さんの料理で思い出したけど、鳥になってから全くお腹空かないな。

 結構生まれてから時間経ってると思うけど、大丈夫なのかな?


 ていうか、僕生まれたばかりだよね?

 それなのに、僕って結構デカくない?


 もう少し詳しく身長とか測りたいなぁ。


 あの鳥の銅像の近くに行き、自分の身長を測ることにする。


 この銅像の台座の部分が目測、一メートルくらいかな。


 で、僕が横に立つと、身長が台座の半分を超える。

 つまり僕は五〇センチ以上、多分六〇センチくらいあるのかな?


 一度羽を思いっきり広げてみる。

 うーん、あまりわからないけどやっぱり大きい。一メートル以上は余裕であると思う。


 生まれたばかりの鳥にしては、デカすぎない?

 雛の時からこんなに大きい鳥っているのかな? あまり詳しくないからわからないや。


 そもそも、僕は本当に生まれたばかりなのかな?


 鳥って生まれる時は卵から孵るはず。

 だけど僕が鳥として目を覚ましてから周りを見たけど、卵の殻みたいなものは見つからなかった。


 足元にあるフワフワの白いところにいたけど、これが殻なわけないよね?


 あと羽の色、というか体毛の色。

 本当に見るからに真っ赤。すごい真っ赤。

 こんな鮮やかな赤はあるのかというくらい真っ赤。


 赤い鳥ってすごい珍しいよね。

 日本にはいなさそう。世界のどこを探せばいるんだろうか。


 あと親鳥もどこにいるんだろう。

 結構長いことこの洞窟の中にいるけど、親鳥を見てない。


 というか入り口があの天井の穴だけなのもよくわからない、どんなところを巣にしているのか。


 わからないことが多すぎるなぁ……どうやったら飛べるのかもわからないし。


 まあ、これだけ大きくて飛べないってことはないよね、生まれたばかりだけど多分飛べるでしょ。

 お腹空かないのももっと動けば……いや、ダメだ、ここって食べ物がない。


 さすがに岩は食えないし。


 こんなところにずっといたら、餓死しちゃうよ!


 餓死しないためにも、早く飛んでここから出ないといけない!


 だけどさっきどれだけ羽をバタつかせても飛べなかったからなぁ。


 どうやって飛ぶんだろ。


 はぁ、本当にどうすればいいんだろ。


「キョー……」


 ため息をつくと同時に変な鳴き声が出る。


 すると――目の前に炎が出た。


 ……えっ? 何今の?


 いや、出たんじゃなくて口から炎を、吹いた?


 も、もう一回やってみよう! 何かの間違いかもしれないから!


「キョー……」


 先程と同じ様にため息をついてみる。

 と、同時に炎が口から吹かれる。


 今回はハッキリと口から出るところを目で見た。


 な、なんで口から炎が出るの?

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