第3話 鳥になった


 ちょっと待って、数分待って、落ち着かせて。


 僕は、人間だった。それは確かだ。

 そして多分、死んだ。

 で、目が覚めたら鳥になってた。


 うん、意味わからないね。


 色々身体を動かすけど、鳥の身体が僕が動いた通りに動いてくる。

 つまり、完全に僕は鳥になってるってことだ。


 もしかしたら、と心当たりが少しある。


 転生、というものかもしれない。

 なんか昔教科書で読んだような気がする。

 詳しくは覚えてないけど、生まれ変わりみたいなものなのかな?


 人が死んだら人に生まれ変わるわけじゃない、とか書いてあった気がするけど、まさかずっと憧れていた鳥になるとは思わなかった。


 というか夢じゃないよね?


 僕は頰をつねる……ことはできないから、脚で頭を搔く。

 強く掻くと、しっかりと痛みが伝わってくる。


 うん、痛みがある。

 夢も痛みが感じるって聞いたことあるけど、これは本当に現実だ。


 つまり……!


 憧れていた、鳥になれたんだ!


 やっ、たーー!!


 あの、どこへでも行ける鳥に!

 ずっと病室の窓から眺めていた鳥に!


 ついに、ついになれたんだ!


「キョーー!!」


 声を上げて喜ぼうとしたら、なんか変な鳴き声が出たけど気にしない!


「キョー! キョー! キョー、キョー!!」


 よし、飛ぼう! すぐ飛ぼう!


 めいいっぱい羽を伸ばして、バタバタとさせる。


 バタバタバタバタ……――。


 数十分やったところで、やめた。


 無理だ、飛べない。

 そりゃ無理か、僕は生まれたばかり。

 生まれた瞬間に飛べるような鳥なんていない、と思う。


 頑張って飛べるようにならないといけない、これが僕の夢だったんだから。


 だけど、この洞窟の中じゃ飛んでもつまらない。


 この洞窟も結構広い。

 多分高さは十メートル以上あって、とても広く感じる。

 横とか縦とか言うのかな? 形的には正方形というより長方形に近いけど、短い方でも三十メートルくらいあるから本当に広い。


 ああ、なんかこの広さに既視感を感じると思ったら、昔父さんに車椅子を押してもらって行ったどこかの体育館の広さに似てるんだ。

 あそこも室内なのに結構広かったのを覚えているけど、ここもそのくらいの大きさだ。


 だけどこんな広い洞窟でももっと広い空。


 僕は青い空、あの果てのない空間を飛びたいんだ。


 ここを出る手段は……ん? あれはなんだ?


 よく見たら天井の一部が抜けているような、無いような感じだ。そこだけ穴が空いている。

 見渡す限り岩肌なので気づかなかった。


 その下まで行って上の穴を覗くように見る。


 穴はとても上の方まで続いていて、一番奥の方まで見えない。

 鳥って人間より視力が良いはずなのに、それでも見えないのはすごい遠くまで穴が続いていることなんだろう。


 もしかしたら、ここからならこの洞窟から出られるかもしれない。


 僕の夢を叶えるために、それに洞窟に出るためにも、絶対に飛ばないといけなくなった。


 飛ぶためには何をすればいいんだろう?

 筋トレ? だけど僕は前世では筋トレなんかしてこなかった。リハビリはしてきたけど、あれは最低限の筋肉を維持するような感じだった。


 だけど、知らないってだけで諦めるほど、僕は弱くないぞ。

 16年間もの間、いつ死んでもおかしくない病気と闘い続けたんだ。まあ死んじゃったけど。


 そんなことを比べれば、飛ぶことのためにやる努力なんて最高に楽しいに決まってる。


 僕の夢を叶えるための努力、最高にやる気が出る!


 よし、やってやるぞ!!


 ◇ ◇ ◇


 ダメでした。全然できない。


 僕が鳥になってからどのくらい時間が経ったかは全然わからない。こんな洞窟の中じゃ時間なんてわかるわけない。

 だけど体内時計的には何時間も飛ぶ練習をしてるんだけど、全然飛べない。


 多分人間よりジャンプ力が高いなー、くらい。まあ僕は人間の頃ジャンプなんてした覚えないけど。


 筋トレというものを前世、でいいのかな、人間のときのことを言う時は。

 前世で調べたことがあるんだけど、あれはやっぱり人間用だったね。


 鳥でやる筋トレの仕方が全然わからないよ……。


 とりあえず羽をバタバタさせたり、ジャンプしてからバタバタさせたりしてる。

 少しずつジャンプが高くなったりしてるけど、飛べる気配がしない。


 どうすればいいんだろう……。

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