第22話 別れ
涙が止まらなかった。僕の蛇口は壊れて手帳をびしょびしょにしてしまった。
全部思い出した。僕がどんな人間か。どんな人生を送ってきたか。なぜこの森にいるのか。そして鈴がどんな人間だったか。鈴は僕のために死ぬ...
気づいたら小屋から出ていた。死なせるもんか。どうすればいいかなんて分からない。ただこの足がちぎれるまで僕は走る。鈴を救う。まだその可能性が1%でもあるならなんだってやる。半年の寿命なんていらない。
今僕が欲しいのは鈴。君だ。
僕は森の中を走り回った。心当たりがある場所は全て行った。お風呂、畑、湖、他にもたくさん。そこを見るたびに涙が溢れてくる。だが僕は止まらない。転んでも立ち上がってやる。鈴を救えるのなら。ある場所が脳裏に浮かんだ。全てはあそこから始まったんだ。
僕が自殺をしようとした場所。
着いた。そこは土、石、きのこ、木しかない場所。僕がここに来る前に買ったナイフとコーラが転がっていた。僕がここで自殺をすれば鈴は生き返る。それか僕も鈴の所に行ける。そう考えた。
僕はナイフとコーラを拾い、近くにあった木にもたれかかった。思えばいろんなことがあった人生だった。全てを思い出した僕は思い出を振り返りながら腐っているかもしれないコーラを飲み余韻に浸る。後悔はない。僕は自殺をしようとしていたが鈴に助けられ死ぬ前に鈴とともに暮らせた。一つだけ後悔があるとすれば鈴にごめんねとありがとうを伝えるくらいだ。
『鈴ごめんね、』
誰もいない森で僕は言った。
『また泣いてる、ダメだよ』
するはずのない返事が聞こえてきた。幻聴に違いない。最後の最後に鈴が力を振り絞って言ってくれた、そう僕は捉えた。
コーラを飲み干し僕は覚悟を決めた。立ち上がりナイフを自分の方に向けた。
『鈴、ありがとう』
泣きながら笑い、笑いながら泣いた。ナイフは僕の腹に刺さっているのが確認できるのに痛みはない。ただすーっと意識が遠のいて僕は眠りについた。
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