第17話 微笑み
僕はこの森に操られている道化師と言ってください。操られている僕は何もしてあげれなかった。唯一できたことは抱きしめることだった。意識が少し遠のきながらも僕は湯船から出た。きっと長風呂でのぼせたせい。そう信じた。帰り道はさすがの鈴も無言だった。
『なんで鈴は僕のことが好きなの?』
また操られた。道化師になった僕が聞いた。
しばらく沈黙が続いたが鈴は口を開いた。
『なんでだろ?わかんない』
久しぶりに素の鈴は笑顔を見せた。鈴は続けた。
『わかんないけど、嫌いなとこが好き、なんでもできてどんな時も優しくて自分の事なんか考えずに行動しちゃうところ?あ、もちろん顔も好きだよ?でもここに来てから泣きすぎだなー、そこは減点!』
鈴の目は一つも変わってない。すごく綺麗で汚れ一つない。覗けば鏡のように僕の顔が映る。
『あれ、今度は泣かないんだ?』
鏡で確認したがそこに涙を流す道化師はいなかった。ずっと前から知っている僕がいた。
『鈴』
『んー?どしたの?』
『思い出した。遅くなってごめんなさい。僕は君の事が大好きだ。』
やっと伝えられた。もう僕は道化師じゃない。
『私もだよ、大好き』
小屋に戻り僕達は誓った。記憶をなくしているなんて関係ない。忘れたら思い出せばいい。新しい思い出を作ればいいと。
『いつかこの森から出たら二人で暮らそう。』
僕はそう伝えたが鈴は
『ここから出たらまた私のこと忘れるんじゃない?』
なんて冗談を言ってきた。
『鈴が僕のことを忘れることはあっても僕は鈴を忘れない。鈴が好きだから。だから完全に思い出すまでもう少し待ってね。』
鈴に言われた言葉を少し変えて伝えた。その後、僕達の体は一つになった。今日は向かい合って手を繋いで寝た。先に鈴は綺麗な目を閉じた。眠ったのを確認し僕は小さな声で
『ありがとう』
と伝えた。起きている時に言うのは少し恥ずかしい。鈴は微笑んだ。聞こえているのだろうか。まぁいいか。その後、風のせいか森も優しく微笑んだ。
そんな森と少女の微笑みを感じながら僕は眠りについた。
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