第18話つまらない幸せ
目が覚めた。いつもより長く寝てしまった。ゆっくり目を開けるとそこには眠っているはずの鈴の姿はない。眠気が一気に覚め、布団から飛び出した。どこに行ったんだ、急いでドアを開け外に向おうとしたがそこにはあるはずのない朝食が置かれている。
する遠くの方から可愛らしい高い声が聞こえる。どうやら鈴が僕の代わりに朝食を作ってくれたらしい。その喜びと驚きと同時に僕は鈴が朝に弱いということを思い出した。
『おっはよー!相当気持ちよく寝れたんだね』
嫌な笑い方をしながら鈴があいさつしてきた。
『恥ずかしいから夜のことは思い出させないでくれよ、おはよ』
ここに来て初めてあった時と変わらない。鈴は騒がしくて下品な女だ。なんで僕はこんな子と恋人なんだろう。まぁいいか。無意識に笑顔がこぼれた。
『あれ、なんで今笑ったの?朝ごはん美味しそうだから?ねぇ?なんで?』
今度から笑う時と泣く時は気をつけなきゃな。そんなことを考えながら鈴の頭に軽く手を置いて撫でてやった。鈴はまるで飼い主に褒められた犬のような目で見てくる。悔しいが可愛らしい。
『さぁ、食べよー!頑張ったんだよー?野菜だけだけど』
『頑張ったって切っただけだろー?こんなの赤ん坊でもできるよ』
『じゃあ君は赤ちゃんが料理してるところを見たの?見てないでしょ?素直に褒めてよー!』
『はいはい、よく出来ましたねー』
『なにそれ!それじゃほんとに私が赤ちゃんみたいじゃん!』
そんなつまらない会話をしながら僕達は座り朝食を取った。こんな当たり前でつまらない楽しい生活が毎日続けばいいのにな。僕はそんなことを考えているとまた無意識のうちに笑っていた。
『また笑った!今度は何ー?美味しかったの?』
鈴がニヤニヤしながら聞いてくる。
『鈴』
ちゃんと1回くらい伝えなきゃな。そう思った僕は口を開いた。
『なーに?』
『僕を覚えていてくれてありがとう』
今度は操られてなんかいない。これは僕の意思で伝えた言葉だ。
『どういたしまして』
鈴は素直に喜んだ。少し恥ずかしくなった僕は鈴に
『これじゃまるでバカップルじゃないか、朝からきついって』
と言ったが鈴に
『そっちから言ってきたんでしょー?まぁたまにはいいんじゃない?こーゆーのも』
とその通りの答えを返された。まぁいいか。僕の気持ちに迷いはなかった。鈴が好き。その気持ちを確認し初めて僕からキスをした。
『さぁ、今日はどこ行こうか!』
そう言うと鈴はでかける準備を始めた。後ろ姿からでもご機嫌なのが伝わってきた。
『そんなこと言ったって野菜取りに行くくらいしかないだろ?』
『じゃ、案内してね!私忘れちゃったから!』
そうだった。鈴はこれから記憶をなくしていくのか。
『任せてよ、鈴が忘れた事は全部僕が覚えてるよ』
あれ、珍しくかっこいいこと言えたかな?
『どしたの?珍しくかっこいいじゃん』
おちょくるように鈴が言った。
『よし、行こうか』
僕は鈴の方に手を差し出した。少し間が空いたが鈴はそれにこたえ手を繋いだ。僕は離れないように鈴の指と指の間に僕の指と指をはめた。なんとなく空を見上げた。空は笑っていて森も笑っている。横を見ると鈴も笑っていた。その鈴を見て僕も笑った。僕は幸せだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます