第14話 下手くそ
小屋に戻ってから僕達は昼食を食べた。といってもここには大した食べ物はないし、ほとんど味付けができてない野菜炒めだが。あまり美味しくないなと二人で笑い会話を楽しんだ。食べ終わり片付けを初め、疲れたし昼寝でもしようかと思っていたところなのに鈴は大声で
『ねぇお絵描きしよーよ』
思わずため息が出た。小学生かよ。疲れてるし寝るよと言おうと思ったが、鈴はあまりにも綺麗な瞳で見つめてきた。その瞳は何色にも染まってなくそこに写っているのは僕の姿だけでまるで鏡のようだった。そんな目をされたら断れるはずもない。仕方なくしてやることにした。飛んで喜ぶ鈴の姿は小学生どころか幼稚園児のようで僕は呆れた。
『何書く?動物?似顔絵?何がいい?』
早く終わらせたかった僕はなんでもいいと答えた。鈴は少し不満げな顔をしたが手帳からちぎった紙とペンを渡してきた。よくそんなものもっているもんだ。と思ったが深くは考えないことにした。
『じゃあ書きたいものを書くことにしよう!勝負ね!負けたら言う事一つ聞く!いいね!』
と勝手にルールを決め鈴は絵を書き始めた。ほんとに鈴は僕の恋人なのか。不安になりながらも気にせず絵を書くことにした。気づいた頃にはペンは勝手に紙の上を走って足跡を残していた。僕の手はついていくのに必死だった。
どれだけ時間が経ったかはわからないが僕の絵がほとんど仕上げという時に
『できた!見て!トマト!』
とどうだと言わんばかりの顔で絵を見せてきた。そんなに時間をかけてトマトだけかと呆れて見てみたがなかなかの出来だった。絵からもみずみずしさが伝わってくる。初心者が書いたとは思えないできだ。
『さぁ、君も見せて!』
嬉しそうに鈴は言った。これを見たあとに出すのは少し恥ずかしいが見せた。
『凄いね!綺麗な湖!』
まだ仕上がってはないが鈴はとても褒めてくれた。
『すごいじゃん!写真みたい!これってどこの湖なの?』
褒めてくれたのに素直に喜べなかった。
どこの湖?鈴が知らないわけがない。だってこの湖には鈴が連れて行ってくれたじゃないか。忘れてなんかいないよね。
僕の絵が下手くそなだけだよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます