第233話 3−3−2 合同授業
今週の木曜日に懇親会が開かれる。その懇親会は講堂で開かれて男女のペアを組むことが推奨されている。あわよくばそのまま仲を継続して結婚まで持っていきたいという考えが呪術省にあるらしい。で、呪術省の配下たる学校側も推奨するような動きをしている。
だからか、今週は特に口説いている人が多い。元の学校に恋人がいたり、他に婚約者がいるような人を除いて積極的に動いている人が多いみたいだ。一年生は受け身のようだが、二・三年生はご飯休憩の際によく声をかけている様子が見受けられる。
俺に声をかけてくる人もそれなりにいた。難波って名前に惹かれただけの人が多くて俺のことを碌に知らないまま懇親会に誘われても、こっちも困る。ミクも声をかけられているけど、ミクに声をかけている人も髪と瞳が変色しているからと誘う人ばかりだ。
いい加減俺たちには意味がないってわかってくれないかな。
「二年生は必死だなー。明、良いって思った子いなかったわけ?」
「いない。祐介こそ声をかけられなかったのか?合同授業で良い成績残していたんだから声をかけられたんだろ?」
「いやー、好みの女性はいなかったな。だから断った」
「ふうん。そう」
祐介は断ったのか。家系が大事にされるのか、実力が重視されるのか。それは相手の立場にもよるんだろうな。祐介は始まる前にお姉さんとお近づきになりたいとか言ってたけど、本気じゃない言葉を願望として垂れ流していたのはこの企画に興味がないからだろう。
さっさとこの行事が終わってくれないだろうか。心に決めた人がいる人からすればひたすら迷惑なイベントだ。告白されることがない人からすれば何も変わらないイベントか。
俺もミクも婚約者がいるという話はせず、ただ家の関係で付き合えないと断っている。婚約者がいると言ったら面倒になりそうだから隠している。その婚約者は誰だと詮索されると今後の学校生活が騒がしくなりそうで隠している。
「三年生が一年生に告るのも多くなったよな。やっぱりイベント毎って告白率増えるぜ」
「中学の時もそうだったか?」
「中学の時はサボりすぎててイベントに参加してなかったじゃん」
それはそう。
学校の行事って真剣に参加する理由がなくてサボりまくってた。まともに参加した行事はお泊まり系だけだな。陰陽術が関わらない行事は参加する意義がないとして参加しなかった。中学時代は陰陽術の行事なんてなかったので参加する意義もなく。
陰陽術が関わるイベントも結局楽しんでないな。いや、これは俺の精神性の問題だ。
「明は懇親会に参加するわけ?」
「全員参加だろ。そりゃ参加するさ。学校行事だし」
「そうじゃなくてペアとしてさ。珠希ちゃんと参加するんじゃないんか?」
「タマと?……まあ、それが虫除けにはなるな」
「ん?じゃあ申請したのか?」
「してないぞ。あー、女子生徒が持ってた紙ってその申請書か」
女子生徒が持っていた紙はそれか。そんな説明もあった気がするけど、そんな申請書を一々出す意味もないだろう。
「それ出して何の意味があるんだ?」
「なんか赤色の花のコサージュを胸に付けるんだってよ。それでカップルだって周囲に示してそのカップルには手を出すなって知らしめるらしいぞ」
「コサージュ?」
「おう。今週からその花を付けて良いんだって。コサージュを付けている人に告白する奴はいないだろ?」
「学校が生徒の恋愛に口を出すなよ……」
「そういう行事なんだから諦めろって」
そんな小道具との交換券があの申請書なのか。大人が子供の恋愛に本気で手助けするなんて、見ていて見苦しい。
教室の中を見るとコサージュを付けている人はいない。賀茂も付けていないのは意外だな。婚約者がいないのか、二学年なのか。どうでも良いか。
婚約者がいる身で何を言っているのかって話でもあるんだけど、そんな早い歳で相手を確定させるのはどうなんだ。婚約者まで話を持っていくのは家同士の話になるからこんなイベントで決めるのは難しいんじゃないだろうか。
「明。これで疲れてたらこれからが大変になるぞ?」
「呪術対抗戦に文化祭か?」
「二年になれば修学旅行もな。こういうイベントは全部告白イベントだ。呪術対抗戦で活躍すればモテて、文化祭で何か率先してやればモテて。修学旅行では今までの積み重ねでモテて。そんなんばっかだぞ」
「行事って最悪じゃねえか……」
それだけ俺もミクも告白されるってことだろ。自由時間が減る。
もういっそミクのことを公表するか?やることが多いのに、告白なんて面倒なことに拘っている暇がない。あと、ミクのことを好きになったとして、兆が一ミクと付き合ったとしても俺と婚約者じゃなければ問題は少ないだろうが、俺と付き合うとなると問題が多い。
俺は絶対に呪術省を破壊する。そうなると絶対に俺は悪名を残す。
悪名を残すような人物に付いてこられそうな女性じゃないと俺とは付き合えない。そんな人って世界に二人くらいしかいないじゃないか。
ミク以外を選ぶつもりはない。これってAが姫さんを選んだのと同じ理由じゃないだろうか。
こうやってAとの共通点が見付かる度に何をやってるんだって思って色々と心苦しくなる。
「……ああもう、嫌になる。頭が痛くなってきた」
「告白されて頭が痛くなるって、だいぶ失礼だな?」
「そのことじゃなくて。どれだけ危ない世の中かわかってるのかって話だろ。呪術犯罪者の襲撃に神の襲来。そんな中で恋愛をやってる余裕があるのかよ?」
「逆じゃねえか?危ないから子供を残したいって考えもあるだろ。そういう状況だからこそ信頼できる人を作りたい。その人との繋がりたい。証が欲しい。戦争とか終わった後にベビーブームが来るようなもんだろ?」
そういう話もある。世の中が不安だからこそ恋人や家族が欲しいと思うのかもな。
襲ってきた張本人のAが姫さんとイチャついてるのも関係あるのかもな。
「つまり祐介は彼女が欲しいと?」
「……欲しくない男子高校生がいるか?」
「ああ、悪い。どうでも良い女子とじゃなくて、特定の女子と付き合いたいんだろ?告白する気はないのか?」
「おい、ちょっと待て?もしかして千里眼を使ったのか?」
「……流石に付き合いが長ければ、そんなものを使わなくてもわかるぞ」
祐介には好きな人がいる。そしてその好きな人が祐介をどう思っているのかも何となくわかっている。
そんな俺が告白を促すのは鬼か。
「悪い。お前と相手の事情もある。そんなに急かすこともなかったな」
「……俺が弄る事はあっても、お前が恋愛ごとに口を出すのは珍しいな?」
「最近は視野が広くなってな。祐介に後悔して欲しくないと思って。こんなイベントじゃないと口にしなかっただろうな」
「……相手のこともあるからな。まだ伝えないつもりだ」
それも一つの選択だろ。祐介がどうなるか、俺は星見をあまり信用していないから祐介がどういう未来を選択するのか確認するつもりはない。
星見は数多くある未来を見せてくる。星全てが同じ未来を見せてくるなんてほぼあり得ないこと。そのあり得ない事は祐介の未来では起こっていない。
だから俺は、口を閉ざす。
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