第214話 1−1−2

 昼のSHRが近付いて担任の八神先生が入ってくる。そして入ってきた時にチャイムが鳴る。鳴り終わったのと同時に教壇の正位置に立つ。


「よし、欠席者はいないな。未曾有の事態が起こったものの全員元気で良かった。まあ若干一名、首を突っ込んで入院したバカがいるようだが」


 八神先生の言葉に俺へ注目が集まる。さっき結構大きな声で話していたために教室中で知られ渡っている。賀茂なんかが向けてくる視線は無闇に突っ込んで怪我したバカ、だろうか。彼女は出撃しなかったらしい。


 人間を誅伐すると宣言されたんだから賀茂も出撃していてもおかしくないんだが。流石に力の差を思い知って行かなかったんだろうか。


 その辺りは全く興味がない。気にする猶予がなかったから調べようとも思わない。過去視をするまでもない。


「難波には後で話がある。中休みに職員室へ来るように。個人への連絡はそれだけだが、全体への連絡がある。交流会と学校対抗呪術戦についてだ。交流会については一斉メールで教えた通り東京校の生徒が六月の頭──水曜日にやって来るので失礼のないように」


 全体メール、なんて来てたのか。見てなかった。そんな急に来るんだな。前からそんな話があっただろうか。それともこの休んでいた一週間で説明する予定だったんだろうか。これだけ異常事態があったら予定が狂うのも仕方がない。


 二学年が丸々入れ替えなんてそんなことあるんだな。当主になれればいいからまともにイベントを調べることもしなかった。


「失礼がなければ何をしてもいい。恋仲になろうが、口説こうが、呪術の模擬戦をしてもいい。婚約者がいる方だけは気を付けろよ。誰がどうなのかこちらも全く把握していないので自分で調べるように。学校側は何も手助けしないぞ。これも社会勉強の内だ」


 放任なんだか推奨しているんだかわからない学校側の対応だな。


 俺からすれば婚約者も東京校の二年生も全く興味がない。婚約者はミクがいるし、東京の姉妹校の人が来るからって、だからどうした状態だ。学校対抗呪術戦とやらも興味がないからその前哨戦もどうでもいい。


 というか。Aさんやら神様やらの危険性があるのに学校行事は普通に行うんだな。対応は呪術省に任せて学生は普段通りに過ごせということだろう。


 ミクの狐憑きを調べたり、Aさんに対抗するために実力を上げることが優先だから行事は後回しだな。


「それと、学校対抗呪術戦についてだ。選手選考は職員で考えている。基本は学年ごとに選抜するから決まったら個別に呼び出す。決まったら演習場などを借りて練習するように。実技の成績に加算されるからな」


 学校対抗呪術戦については後で父さんに聞いてみよう。参加してもいいのか、どこまで本気でやっていいのか。星斗辺りにも聞いてみよう。


 祐介にもどんなことをするのかちゃんと聞いておこう。学校に選ばれたら断りづらいし何人選ばれるのかわからないけど俺もミクも入試で好成績だったから学年でもトップクラスのはず。その俺たちが選ばれないというのは希望的観測だろう。


 学校行事に集中してAさんたちの動きを確認しないのもマズイ気がするんだよな。呪術省を潰す協力者のはずだけど、新入生歓迎レクリエーションで勝手をしたことを忘れていない。味方であっても油断できるはずがない。


 ちょっとお気楽な祐介やクラスメイトが羨ましいくらいだ。


 SHRの内容はそれだけで、二年生に用事があるのなら今日明日で話しておくようにと言われて終わり。


 一限目が始まるまで五分移動時間がある。その間に祐介がやって来た。こいつ、いつでも俺のところに来るな。


「呼び出し喰らってやんの〜」


「不可抗力だ。なあ、祐介。交流会は何もしないで大人しくしてればいいんだろ?」


「お前がそれで良いなら良いんじゃね?何もしなければただ二年生が入れ替わるだけの行事だし。ちょっと注目されるだけじゃね?難波家は有名だし、こっちよりは東京の方が本家に近いし知名度あるんじゃね?」


「分家で東京行ってる人はそこそこいるけど、知名度はどっちもないぞ。今や忘れられた旧家だ」


「そんなもんか?こっちだと知ってる人多いじゃん」


「一応は安倍家の末裔だからな。京都の方がまだ名前は知れ渡ってるんだろ」


 難波の実家が東京に近いだけで、やはり本場は京都だ。名が知れているのはこっちだろう。五十歩百歩だけど。


 難波はあまり表に出ず、京都で矢面に立ってるのは土御門と賀茂。他にも名家はあるので難波の地に引き篭もったウチのことを知ってる人なんてあまり居ないんじゃないだろうか。


「交流会は流すとして。学校対抗呪術戦っていつやんの?」


「七月中旬の三連休だな。静岡でやるぞ」


「静岡?東京でも京都でもなく?」


「その二つだと魑魅魍魎が多すぎだからな。ちょうど中間で魑魅魍魎も少なくて競技場が多いから静岡が選ばれたんだよ」


「へー」


 全く興味がないから理由を聞いても納得はしなかった。魑魅魍魎が多いって言ってもお昼とかにやれば東京でも京都でも問題ないと思うけど、その辺りは何か理由があるんだろう。警備とか広い場所の確保とかそういう理由で。


 三日もやるんだから、一つのイベントになってるんだろうな。学生の頑張りを興行にするのはどうなんだと思うけど。


「一学年で何人くらい選ばれるんだ?」


「三十人くらいだな。お前と珠希ちゃんは絶対選ばれるだろ。二人の霊気ヤバすぎだからな」


「それくらいなら選ばれるか……」


 俺たちの実力を考えたら選ばれるのは当たり前というか。多分同年代で一番強いと言われてる土御門と賀茂を考えると俺とミクが学年でツートップになるだろう。


 大峰さんはノーカン。年齢詐称ガールは同学年扱いしなくて良いだろう。それに現麒麟をそういう場所に出さないと思う。


 こらから来るイベントになんとなく予想ができて、それから授業を受けることとなった。後で祐介から公式サイトを教えてもらってどんな競技があるのか知ることとなる。


 簡単に言ってしまえば攻撃術式を使った物体破壊タイムアタック。山などの広い場所を駆け抜ける障害物走。式神を使った障害物走と式神のみによる模擬戦。そして陰陽師による何でもありの一対一と複数人戦。複数人戦は全学年で構成しても良いらしい。


 それを見て、休み時間にミクと話す。


「出るとしたら式神のやつだな。これで圧倒して終わりでいいだろ」


「ですねえ。わたしたちの得意分野で出れば文句はないと思います」


「え?二人とも複数種目出ないの?」


「出られるのか?」


 天海に言われて初めて知る。こういうのって一人一種目じゃないのか。それって優秀な人を何回も使い回せるってことになりかねない。


「一人二種目までだぜ。ただし使い回せるのは一学年三人まで。その辺の配分も選出で苦労するってよく聞くな」


「二つね……。それでも式神二つで終わりだろ」


 ゴンを使う気はないけど、それでも銀郎と瑠姫を使えばそれだけで勝てる気がする。神に片足突っ込んでる式神に対抗できる式神なんて、五神かAさんの鬼たちだけだろう。それ以上の式神が学生と契約しているとは思えない。


 瑠姫は戦闘が苦手だから、式神勝負になったら銀郎を貸してもいいんだよな。俺は色々契約している式神がいるから銀郎もゴンも使えなくたって勝てると思う。


 いや、ミクだって瑠姫以外にも雑多な式神と契約はしてるからそれで学生としては十二分なんだけど。


「ええー。総合戦出ないのか?」


「一対一で陰陽師と戦うのは好きじゃない。あくまで妖とか魑魅魍魎と戦うのがメインで、陰陽師と戦うなんて考えてないんだよ。それにそんなぶっつけ本番で誰かに合わせるのは無理だから複数戦も無理。タマとか桑名先輩と組むならまだしも、知らない三年生とかと組むのは無理だ」


「わたしもできたら式神だけが良いですね。わたしの場合手加減が……」


「ああ〜。珠希ちゃんは霊気が多いけど、暴走の危険性があるのかぁ。勿体無い」


 ミクが遠慮がちに言ったけど、この前授業で簡易式神を暴走させたばっかりだ。だから対人戦で本気でやったら手加減ができずに相手を大怪我させる可能性がある。俺やゴンが脇で控えていれば良いけど、そんなことできないだろう。


 祐介が残念がるけど、もっとミクが尻尾の増加によって増えた霊気を制御しなければ日常生活も学校生活も危うい。この一週間でそこそこ制御ができるようになったけど、それだってゴンがずっと付きっきりだったことが大きい。


 今も授業中とか、結構頑張ってる。たまに漏れ出そうな霊気はゴンと俺で抑えてる。


「他にも凄い人がいるなら俺たちは一つの競技で良いよ。天海とか祐介だって出れば良いじゃん」


「出ればで出られるようなもんじゃねーんだよ。そもそも俺の得意分野じゃどの競技でも向かないっつーの」


「ああ……。いや、総合力でも結構上澄みだろ?ゴンから教わってるし、一応ウチの門下生だろうが」


「総合力じゃそこそこだろうけどな。適性がちょっと」


 祐介の得意術式は降霊術。降霊術なんてそもそも使える人がいなすぎて一般向けの学校対抗呪術戦みたいな、評価方式が画一だとあんまり優秀に見られない。特化型とかは俺たちのような地方の名家だったら囲みたい人材なんだけど、学校評価となるとそうでもない。


 俺たちの式神だってそこまで評価されないし、天海の風水もあまり評価されない。この辺りは戦闘に役立つか、プロの評価規準がどうかって話になる。


 天海は風水を有効活用すれば呪術戦も悪巧みできそうだけど、祐介の降霊術は何ができるんだって感じだからな。


 そんな話を休み時間にしながら、中休みの呼び出しまで授業を受けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る