第146話 3ー2

 私はどうやら、神と獣との間に産まれたようだ。とはいえ私の種族は希少というわけではなくてな?同族はかなりいたのだ。ケイローンを知っているか?星座になった男だ。数々の英雄を育てた賢者。彼の者も平たく言えば同族だ。だが彼は神としての資質を、私たちの多くは獣としての習性が本能にも身体にも色濃く出たようでな。

 私たちは賢者ではなかった。獣のそれだった。

 気に喰わなければ敵と認識して薙ぎ払う。他の種族であろうとそこへ赴き占領する。人を襲うことは少なかったが、怪物と呼ばれる者とはだいぶ戦った。サイクロプスにグリフォン、ドラゴンやマンティコアと呼ばれる怪物たちとも戦って勝った。


 自慢?ああ、自慢かもしれんな。私は勝ち続けた。負けたことは数回あったが、死にはしなかった。人間の英雄と呼ばれる者とも、いくつか矛を交えたとも。怪物たちよりもよっぽど人間の方が恐ろしかった。人間は諦めない。私という強者に遭遇しても、生き残ることを諦めない。こちらを殺そうと知恵を働かせる。極め付けは神による加護だ。

 神に愛された英雄は本当に倒せない。どこまで痛めつけても身体の傷が治る。一度倒す前よりも強くなる。戦っている最中に成長する。そうして私を上回る。だからこその英雄。物語の華となるべき存在なのだろう。私は倒される側の怪物だ。悲劇的な何かがあるわけでもなく、ただ強者を求めただけの怪物だ。怪物同士で争っているだけで人間にとっては害悪になる。覚えがあるのではないかな?


 怪物たちの中でも強者になってしまえば、英雄による抹殺対象だ。いつ人里に被害を及ぼすかわからない不確定要素は倒しておくべきだろう?怪物の中でも中々に強い存在だ。強い存在を倒すというのは箔になる。英雄としての第一歩だろう。だから私に挑む者は多かった。英雄譚に残る者もいれば、歴史に消えた者も数多いただろう。

 私はただ強者を求めていただけだ。それでどうなったと思う?いつの間にか神々に呼び出され、終末戦争ラグナロクへの参加を言い渡されてな。ラグナロクを知らないのか?日本人は本当にこちら側の話を知らないな。あいつも知らなかったが。まあ、神話の最後の戦争だと思ってくれればいい。それがどうなったかは知らぬ。私は気付いたらラグナロクの外側に放り出されていてな。


 今でもラグナロクは続いているのだろう。神々が終焉戦争と名付けたのだ。神話の時代が終わる程度でそんな名前を付けないだろう。テクスチャが変わったわけでもなし。いや、正確には変わっているが、神話と領土で切り離されたと言うべきだな。

 まあ、私には関係のない話だ。そんなラグナロクを生き残った私は、また強者を探したわけだ。それこそが獣に残された本能故にな。それで時には山奥へ、時には人里に。時には海を超えたわけだが。まともな強者がいなかった。


 それはそうだ。神話の時代が終わっていたのだから。英雄と呼ぶべき猛者も減り、強い怪物も減った。怪物が残っていても、やれ宝を守るためだ。やれ人間としか戦いたくないなどと散々でな?私の渇きを満たす相手などいなかったわけだ。

 それで期待薄でこの日本へ来たわけだが。驚いた。この日本では、神代が続いていたのだ。どこもかしこも神はもう離れたものだと思っていたが、ここでは平然と神が存在していた。

 そして出会ったのだ。我が生涯の親友と。


 その親友は汚いドラゴンでな?鱗自体は真紅で見事だったのに、土や雨で荒んでいた。光沢など残っていなく、酷いものだった。目も死んでいて、たとえ木が自分へ折れて伸し掛かっていようが、葉が舞っていようが気にせず寝っ転がっていてな。つまらないと思っていそうだったから、もしやと思って勝負を吹っかけたのだ。強者との戦いに飢えているのではないかと。

 だが違った。奴は戦いを求めていなかった。では何を求めていたと思う?

 誰か、ではないな。人間も神も怪異も求めていなかった。そこで寝て待っていたわけではないのだ。そういう意味では誰も待たず、ただじっとしていたかったのだろう。強すぎる生命力から、何もせずとも生きてしまうのだが。


 ふむ。わからないか。ドラゴンという常識を知っていると、確かにわからないだろうな。なにせ地竜のように翼がなかったわけでもない。ヒントが少なすぎたということか。

 正解は、飛ぶことだ。自分は空の王者なのだから、飛んでしかるべきなのに。奴は最初飛べなかった。何をやっても飛べなかったようだ。日本も支配したようだが、それでも飛べなかったらしい。不思議だろう?翼があるドラゴンが、飛べないだなんて。

 それを奴は話してくれなくてな。私は久しぶりに見た強者だったから強引に勝負を持ちかけた。もう我慢できなかったのだ。戦いというやつを。そして奴は強いとわかっていた。だから何がなんでも戦おうと、何度も誘ってようやく動いてくれてな。


 そこからは何日かに渡って戦っていた。私も奴も食事や休憩など不要な存在だ。存分に殴り合えた。久しぶりの勝負で加減など効かなくてな。いくつかの山と集落を破壊していたそうだ。言われるまで気付かないほど、奴との戦いに熱中していたのだが。どこまで破壊し、どれだけ被害を出したかは今でもわからん。気にも留めなかったからな。

 それほど、良い戦いだった。ラグナロクの戦いはいつの間にか離脱していたからまるで覚えていないが、私の生涯で最高の戦いだっただろう。どれだけ殴っても倒れない相手。相手の一撃一撃はどれも必殺。あれほど血を流したのは初めてだったな。奴の移動速度も速い。飛べないことなど何の不利にも働かず、どんな距離であっても詰めてきた。


 火も吐く。爪や牙は容易にこちらを切り裂く。こちらの打撃も蹴りもまるで通らない鋼の肉体。こちらから目を切らない集中力。何を取っても最高峰だった。これ以上の敵はいないだろうと確信していた。ラグナロクの相手は覚えていないから、それを除くと、なんだがな。

 それでも私は諦めなかった。私は怪物だが、その時だけ勇者になった気分だった。遥か高みにいる相手に、空の王者に戦いを挑む自分のなんと小さなことか。時間が経つにつれて私が不利になっていった。私はもう思考を忘れて、ただがむしゃらに取っ組み合いにもつれ込むしかなかったのだ。それ以外で奴に勝つ方法はなかった。


 奴に主導権を渡さず、勝つには身体ごと押さえ込むしかなかったのだ。神混じりの獣が、そうするしかない世界の頂点。それが奴だった。

 私はそのまま抑え込んで、どうにか打開策を産み出そうとしたのかどうだったか。無我夢中でその辺りの思考は覚えていないな。奴も必死に抵抗して、急に身体が軽くなった。今まで感じなかった風を一身に浴びた。それを知覚した瞬間、私は地上へ落ちていたよ。そこが私の限界だった。今までは地上だったから戦えたが、空を飛ばれてはどうあっても敵わん。


 奴はその時、天空の覇者となったのだ。

 それから私は奴に勝つことをやめた。奴と殴り合いの喧嘩は続けたが、勝とうとは思わなかった。奴は竜から、真なる龍へと進化したのだ。神にも勝るとされる真なる王に、神との交ざり物ごときでは敵う道理がない。身体を構成するそれそのものが違うのだ。存在の強度が異なる。君にもそれはわかるだろうか。

 そう、神気だ。これは世界共通の見解のようだな。身体に神気が含まれていることと、身体全てが神気でできていることは0と1ほど差がある。神気が身体に含まれていようと、その他の部分は獣や人間といった不純物で賄われているに過ぎない。その不純物が身体そのものを脆弱にさせる。身体そのものが神気でできているということは、神となんら変わらん。


 神は何が違うか、わかるか?そう、存在が強固だ。神ともなると信仰が必要だが、神と同格であれば信仰はいらぬ。そしてその神気を最大限用いて権能たる異能の極地たることができる。異能と呼ばれる魔術やら貴様らの陰陽術やらは神の権能を人間が簡略化させたものだ。その発生はとある楽園の女主人が関わっているわけだが。それは蛇足か。

 そう、存在が強固ということは。我が友は生きている。幽閉されてしまったが、存在しているのだ。それを、貴様には救ってほしい。そうすれば他には何もしないとも。


 私は奴と友になった後、好き勝手した。日本中を巡り、日本にもだいぶ迷惑をかけただろう。それがいけなかった。日本の天秤を崩す行為だった。奴はどれだけ強大な存在であっても、寝ていれば被害はなかった。それを覚醒させたのは私だ。これ以上神の手に負えないような進化をさせないためにと、槍を用いて友を封印した。

 それが天の逆鉾だ。

 友を失った私も、槍を抜く存在を探す程度でそこまで暴れなかったからな。数百年に一度、人里を襲った程度だ。それならほぼ無害だと思われたのだろう。友がいた時と比べればだいぶ温厚になった方だろう。


 それに私は外様だ。日本の神にどうこうできるはずもない。だから見逃されたという形だな。事実友が封印されてから、土蜘蛛の活動などあまりなかっただろう?私とて長生きするために休眠を取る必要があった。晴明が世界を停滞させてからは私も力を失ったからな。やることもなくしばらくは眠っていたよ。

 百五十年ほど前、ちょっとした奇跡があったが。龍の名を持つ男だったが、彼は天の逆鉾のガワを抜いてみせた。そのことで友が目覚めるかと思ったが、そんなことはなかった。誰にも引き抜けなかった槍を抜いたからもしやとも思ったが、やはり人間。槍は抜けても封印は解けなかった。奴は陰陽師ではなかったからな。そういう解除もできなかったのだろう。


 一番可能性のある男だったが。……奴も生き急いで死んだな。なぜ有能な者ほど早く死ぬのか。人間は虚しい生き物だ。

 うん?貴様にはできるのかと?できるだろう。その身体にある尋常なる神気。そして陰陽術の知識。その身体に憑いた存在。何も問題はないだろう。むしろ貴様以外で出来る者が思い付かぬ。昔は金蘭にやらせようとしたが、あ奴でも無理だった。今なら出来るかもしれんが、応じないことはわかっている。それは晴明との約束だ。もうあ奴には干渉しないというな。

 だから貴様に抜かせる。これは約定違反ではない。晴明との約束に、遥か未来の子孫とのことなど、何もなかったからな。


 槍を抜いた後、我々は日本を去る。これ以上日本の神に目を付けられたらまた封印されてしまうのでな。友と共に、暴れられる僻地へ行くか適当に世界を巡るか。そういう選択をする。だから貴様は安心して日本で暮らすが良い。

 世界に迷惑をかける?我々はそういうものだ。人間は我々を受け入れないだろう。そして我々も、人間を受け入れない。で、あれば。どこかで区切りをつけて折衷案といくしかない。日本には戻ってこず、世界のどこかでひっそりと暮らすか暴れるか。友の力は世界でも有数かもしれぬが、倒される可能性もある。いくら神に近かろうと無敵ではない。


 神殺しなど、どこでもありえるだろう?

 なに。それでも不安だというのならば、我々は宇宙ソラへ旅立っても良い。我々はこの地球に依存する必要もない、そういった生き物だ。この星がダメならば、他の星に行くまでだ。


────


「どうしてそんなお話を?」


『道中暇だろう?こちらの目的など、知っておいた方が良いと思ってな。何をやるのか、その後どうするのか。それがわかっていれば、不安もなく事を為せるだろう?こちらも到着してすぐ説明して、などやっていては二度手間だ。だからこうして移動中に説明している』


 山を猛スピードで爆走しながら、土蜘蛛の今までを穏やかな口調で語られて珠希は困惑していた。これからやる事を聞かされるのは良いのだが、それを風切り音の轟音と共に聞かされるのはどうなのだという思いがあった。

 後ろを全力で追いかけてくる銀郎と、ヴェルの姿が視界に入るというのも要因の一つだろう。


「まあ、日本に迷惑をかけてくれなければ、問題はないですかね……」


『珠希お嬢さん、それで納得して良いんですか?』


「だって言うこと聞かなかったら痛めつけられるでしょう?こうやって言質も取りましたし、いざという時は騙されたということで責任逃れしようかと」


『アハハ!随分と神経が図太いのじゃ!そういう女の子は好きじゃよ?』


「あなたに褒められましても……」


 珠希は顔を顰める。やっぱり面倒ごとに関わっていたので、ヴェルの評価はイマイチだ。ホテルの頃から珠希を狙っていたことになる。そうなると彼女と知己であった八神がどういう関係なのか気になってしまったが、考えても答えは出ない。推測はできても、そんな確認はできないからだ。今後接し方を気を付けようと思う程度。


『ヴェル。追ってきていた学生はどうした?』


『だいぶ後ろじゃのう。簡易式神程度の速度で、こちらの全速力には敵わんじゃろ』


『……こうして時代が逆行しても、その程度なのか?』


『この子と難波の次期当主が凄いだけじゃ?』

『そんなものか。……では、難波の家系なら関わりのある話をするか。一千年前。槍が抜けると期待して、最も可能性があった時の話だ。抜けなかったがな』


────


 私は拠点を天の逆鉾の近くに定めていてな。ちょうど晴明が都で台頭し始めた頃、不思議な存在を感知した。それが史上初の悪霊憑きである金蘭だ。それまで悪霊憑きなどといった存在は確認できなかった。だから、そんな摩訶不思議な存在なら槍を抜けるのではないかと思って村へ行ったわけだがこの見た目だ。反抗されてな。

 目的が目の前にいるのに邪魔されることにムカついた私は、村を蹂躙していた。短気だろう?だが、その時点で三千年近く待ったのだ。忍耐の限界だったのだろう。何が何でも金蘭を連れ去るつもりだった。だがあ奴の奇怪な術で姿を消されてな。感じ取れなくなった私はすごすごと帰ったわけだ。落胆は酷かったな。今度こそと思ったのに、空回りだったのだから。


 そうして金蘭は晴明に拾われて、その才を伸ばすことになった。それを見計らって、最悪晴明にでも抜かせようと思って都を訪ねたこともある。結界のせいで中には入れなかったが、晴明たちとは恙なく面会できてな。晴明では無理だと悟った。あ奴はあくまで半妖。神に最も近く、最も遠い存在だった。それでは神の槍は抜けぬ。

 金蘭も期待外れだったな。その在り方はトンチキなものだったが、言ってしまえば半妖とさして変わらぬ。特殊な存在だったとしても、不可能だ。神の力など欠片もなかったからな。


 貴様ならなぜできるかと言うと、その類い稀なる神気だ。悪霊としての魔、人間、そして神が混在している。そして今や神の割合が多い。神気に慣れず、生活を送るにも苦しい時はなかったか?それは身体が神へ近付いている証拠だ。元々が竜のように頑丈ではなく、脆弱な人間の身体だ。神への変遷は辛いものがあるだろう。

 貴様は人間の中では最も神に近しい存在だ。神そのものには頼めぬ。奴らが自分の都合で友を封印したのだ。何をしても、奴らが抜くわけにはいかぬだろう。で、あれば。力に変わりなく御しやすい人間の貴様を使うのは道理だろう。私が貴様を利用するのはこれっきりだ。それ以降は干渉せぬよ。


 悪霊憑きが産まれた要因など、人間が魔を産み出しすぎたせいだ。そして馴染む霊気を持つ者に取り憑く。悪意が産み出した被害者だろうよ。そこまで魔が蔓延ったために神々も晴明を必要とした。魔はどのような存在にとっても毒でしかない。調停者としてあ奴は完璧だったが、時代が悪かった。もう百年ほど早く産まれておれば、完璧なる統治ができたであろうに。

 うん?霊気をあまり持たぬ悪霊憑き?それは憑かれた存在に喰われているだけだろう。憑く側も存在の維持に霊気が必要だ。存在の維持に全てを割かれたら、霊気を持たぬ悪霊憑きもいくらかはいよう。矮小な存在であれば、維持するだけで大変だからな。


 今の金蘭であれば、神気を身体に宿している。しかし晴明と玉藻の前にダメだと言われてしまってな。ならば玉藻の前に抜いてもらおうとした。太陽の現し身だ。他の神が縫い止めた槍程度抜けるはずだった。だがな。


「わたしなら確かに抜けるでしょう。でも、もう少し待って欲しいのです。今人間は岐路に立たされています。それを超えるまでは、あなたのお友達を解放できません。今日ノ本の天秤を崩すわけにはいかないのです。魔の駆除が終われば、必ず槍を抜きましょう」


 結局、鳥羽洛陽のせいで魔は収束せず、その約束も流れた。最大のチャンスを逃したわけだ。友が目覚めれば、神へ復讐をする。まだ下界へ容易に下ってくるあの時代では、確かに目覚めさせるわけにはいかなかったのだろう。今ならまだマシだ。ほとんどが神の御座に籠っているからな。

 貴様という存在。そして今という時代。ここまで合致した時は他にないだろう。だから今が最後の機会だ。これを逃すつもりはない。

 それまで?ああ、寝ていたよ。一千年、まともに時代は移ろわないと晴明に教えてもらっていてな。目覚めたのは槍を形なりにも抜かれた時だ。それまでずっと、槍の側で寝ていた。


 その辺りだったか。ヴェルがそこに住み着いたのは。

 この女の素性などどうでも良い。私と友の喧嘩が見たいからと居座った変人だ。種族からして変わり者だったか?とにかくこいつは邪魔することなく、ただその時を待つと言うからな。私としても無害だったので放っておいただけだ。

 食事のためにフラリと消える時もあったが、それは些細なことだ。それで人間が死のうが、私が踏み潰そうが大差はない。死は死でしかないのだ。どのように死のうが、罪を重ねようが、死という現象に変わりはない。所詮肉体が死を迎えるだけだ。魂がどこに行こうが、精神が枯れ果てようが、特殊な状況下を除いて死者は蘇らぬ。


 それにいつかは訪れるものだ。人間でも私でも、神でも。それを一々数えてどうする?嘆いてどうする?大切な者だったらうんと嘆くが良い。それが友誼というものだ。愛というものだ。だが、親しくもなく、顔も名前も知らない。そんな存在を憂いてどうする?遥か遠い地で野良猫が死ぬことを毎日嘆くか?

 それが自然現象だ。自然淘汰だ。……それに抗う手段があるのだったな。陰陽術には。


 私は友が封印されただけだ。死んだわけではない。それに友のことを思うのは人間と何が違う?そういうことだ。貴様があの少年を傷付けられて私に怒りを覚えているのもわかる。だからことが済めば全力の仕返しを、我が身で受けよう。それが誠意だ。

 話がズレたが、ヴェルが殺した人間のことはそう気に病むな。たとえあの少年が日本を背負って立つとしても。その隣に貴様が居るとしても。生は喜ぶべきだが死は悲しむべきではない。親しい者のみにその感情を捧げよ。全てを背負えば一千年前と同じだ。


 切り捨てよ・・・・・。人間は増えすぎた。上に立つ者として最低限の秩序も必要だが、感情の揺り籠も定めておくべきだ。神だとしても、全ての人類を救う理由もなし。少年と添い遂げるならばを強く持つべきだ。恋も愛も、自己中心的なものだろう。全てを愛するなど、それは博愛であって愛とは別のものだ。その博愛も、持つ必要はないだろう。

 何故これからを憂うようなことを言うか?これでも等価交換のつもりなのだが。貴様たちの楽しみを邪魔した。少年も傷付けた。そして友を解放してもらう。それの対価として情報を渡し、助言をしているつもりだったがいらぬお節介だったかな?


 まあ、貴様にとってはあの少年を傷付けてほしくなかったのだろうが。既に過ぎたことだ。それに貴様を捕らえるつもりで伸ばした腕に飛び込んできたのはあの少年だ。ビルに叩きつけたのは悪かったがな。あの少年は不要だったからどかしただけで、傷付ける意図は、少ししかなかった。あの少年が傷付けば、素直に言うことを聞くだろうという打算はあった。

 そう拗ねるな。あの程度であの少年が死ぬはずはなかろう。……話のネタが尽きてしまったな。ヴェル、貴様が話せ。行きがけの駄賃だ。

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