第144話 2ー3

 そこはなんてことのない街並み。すでに何回か通った街並み。日は昇っていて中央に位置していた。つまり昼下がり。そんな時間帯に学校の制服を着て出歩いていた。制服というのは学校の服であるという以上に、学生にとっての正装だ。まさしく、今の状況でしかありえない、未来視の通り。

 隣にはミクと祐介、天海がいる。いつもの面々ではあったが、何処と無く楽しそうだ。いや、無理矢理楽しんでいるというのが正しい。面倒ごとが起きているが、せっかく旅行でここに来ているのだから楽しもう。そんな、空元気の様相があった。ゴンたち式神も姿を隠しているが、ついてきている。周りを警戒して、でも姿は見せず。


 辺りを見渡す。周りの霊気や神気に異常があるわけでもない。どこかに妖が隠れているとも思えない。ただ感知できないだけ。

 京都ではないから、魑魅魍魎はいない。つまりおかしな霊気を感じたら確実にそれが今回探している妖だとわかる。警戒を続けて、それでもあまり霊気を感じない。むしろ学校側から伝えられている廃ビルの方向から霊気を感じた。結構離れているはずなのに、そこで誰かが争っているかのような、霊気のぶつかり合い。でも妖の霊気を感じない。


 どうなってるんだ?あっちは。

 地名は、まっすぐ行くと博多駅。つまり未来視で視た状況と同じということ。もうすぐ、例の場面に遭遇するということ。俺の身体が強張ったのがわかったのか、ミクたちも警戒を始める。祐介と天海には何も伝えてないから、廃ビルの霊気も感じ取っていないようで平然としている。

 いや、何かしら起こっていることは感じ取っているのか、ちゃんとした笑みじゃないな。今から伝えても無駄だから、このまま何も伝えないつもりだ。そしてできるだけ、未来を変えたい。俺が傷付くのも嫌だし、ミクが狙われたまま気絶するわけにもいかない。


 前から来ることはわかってるんだ。未来が変わっていなければ、前から巨大化した腕が来る。俺の未来視の正確性なんてわからないから、ゴンたちには辺りも警戒してもらってるけど。

 そのまま俺の視線は周りを警戒していると、前方の人間──流しのような和服を着ていた男が目に入った。薄い青色の流しを着た男。あいつだ。それがわかったから俺が霊気も神気も全開にすると、ミクたちも一気に警戒して霊気を全開にする。だが、警戒したはずなのに誇大化した男の手が一直線に、ミクに向かってきていることを止められなかった。

 俺とゴン、瑠姫が無詠唱で防壁を張ったが、そんな弱い防壁では男の腕を止められなかった。結局こうなるのか!


「タマ!」


 俺が叫びながら、咄嗟にミクの前に身体を滑り込ませる。聞こえる舌打ち。全身を大きな黒い腕に包まれる俺。俺はそのまま腕を振り回されて、近くのビルに叩きつけられた。その痛みは全身に響き渡り、脳を激しく揺らされる。特に頭を打ち付けたのか、側頭部からどろりとした赤黒い血が垂れていた。だが、この痛みで気を失ったらダメだ。

 抗え。このままミクを連れ去られるわけにはいかない……!


「きゃああああああああああ⁉︎」

「明くん‼︎」


 天海の絶叫が響き、俺の元に駆け寄るミク。式神たちも実体化する。だが、腕は俺を離そうとしなかった。その腕の持ち主がこちらに近づいて来る。


『手間をかけさせる。用があるのは貴様ではない』


 腕に入る力が強くなる。呼吸が拒まれる。血が止まらない。それでも、霊気を全開にして逃れようとするが、この大きな腕はピクリとも動かない。ふざけるな。わかってて、目の前で好きな人を連れ去られるほど間抜けなのか、俺は!


『あーあ。だからやめとけば良かったのに』


 腕の持ち主の低い声と、朝知ったヴェルさんの声。その声を聞いたのと同時に、意識を失ったのか視界が急に真っ暗になった。

 腕によって気絶させられたと知ったのは、目が覚めてからだった。


────


「明くん!」

「珠希ちゃん、ダメだ!下手に揺らしたらマズイ!」


 大きな腕はハルくんを離してくれましたが、それでも気を失っています。身体への傷はともかく、マズイのは頭の傷。バッグから救急箱を出して止血と同時に陰陽術で治癒を始めます。

 ゴン様が大きくなり、銀郎様も刀を抜いて腕を向けてきた相手へ警戒を続けています。瑠姫様はわたしと一緒に治癒をしてくれます。


 未来視の通りに、なってしまいました。しかもすぐそこの路地から覗いてるのは賀茂とヴェルさん?なぜここに。ヴェルさんはやっぱり関わりのある妖だったということでしょうか。

 止血はどうにか終わりますが、ハルくんは目を覚ましません。ビルに思いっきり叩きつけられたんです。無事なはずがありませんが。


 ハルくんの頭を膝に乗せつつ、相手の姿を確認します。流しを着た、右腕だけ誇大化した男の人。妖のような霊気をしていますが、どこか変です。わたしが会ったことのないような、そんな妖。でも土地神でもありません。確実に、魔に分類される存在なのに。

 妖じゃない?


『土蜘蛛……。何で明に手を出す?』


 土蜘蛛?あれが?最強の妖怪として名高い妖。呪術省ですら存在を認識している魔。九州にいたという文献も残っていましたが、本当にいたなんて。

 その名前を聞いて、祐介さんも薫さんも、腰を抜かします。竜に匹敵する、最強の魔。がしゃどくろよりも脅威だとされている存在。そんなものがこちらに敵意を向けているんですから、それも当然かと。

 わたしとしては、霊気があまり感じられなくてがしゃどくろより強いと言われても疑問ですけど。変な感じはしますが。


『知れたこと。神の槍を、抜いてもらうため』


 神の槍?そんなものをハルくんに抜いてもらう?神の槍って……まさか、天の逆鉾ですか?

 神が縫い留めた、破魔の槍。日本に残る神の遺物。神話の証拠。そう言われる天の逆鉾を、抜く?どんな手段でも抜けなかった槍を、ハルくんに抜かせるつもりだった?

 それで何になるのかわかりません。けど、そんなお願いをしたければ、話し合いに来てくれれば良かったのに。そうすればハルくんは怪我をしなかった。内容によれば、大人しく抜いたかもしれないのに。


『安倍家の小狐。つまり安倍の血族か?……なるほど。ほとほと縁のある。そして予言の通りということか』

『金蘭にも抜かせようとして襲撃したよな?手段を選べねえのか』

『神の理不尽に抗っているだけだ。さっさとそこの小娘を寄越せ。そうすればすぐにここから出ていく』

『坊ちゃん傷付けられて、その上珠希お嬢さんまで、なんて式神として看過できないでしょうが』


 臨戦態勢を保ってくれたおかげで、応急処置は終わりました。なんとか血も止まってくれてます。

 ハルくんじゃなくて、狙いはわたしだった?しかも金蘭様のことも狙っていた?

 つまり、天の逆鉾は悪霊憑きじゃないと抜けない?でも、ただの悪霊憑きじゃどうにもできない……。霊気の量か、神気の問題でしょうか。霊気の量がずば抜けているか、神気を身に宿した悪霊憑きなんて、とんでもないレアケースです。

 それなら何度も土蜘蛛による襲撃が確認できていないのも納得はできますが。


『ふむ。彼女が最後の希望なのだ。彼女を渡してくれないとなると、実力行使しかないが?』

『むざむざ渡すような立場じゃねえって言ってんだよ!』

『主人傷付けられて、抵抗しなかったらこいつに申し訳立たないだろうが』

『では、殺り合おう。誰が死のうが関係ない。そこの小娘さえ手に入れば他は全て些事だ』


 土蜘蛛は人間形態から、本来の姿に戻っていきます。その姿はビルの四階に匹敵するような大きさで、下半身は馬そのものの四脚。上半身はまるで人間のような、屈強な男の人そのものでした。髪もウェーブがかかっていて長く、腕も顔も、人間そのもの。

 あの、わたしの常識がおかしくなかったら、ですけど。


「ゴン様?本当にあの方、土蜘蛛ですか?わたしが知っている知識だと、ケンタウロスっていう種族では……?」

『ああっ⁉︎晴明が土蜘蛛って呼んでたんだから、土蜘蛛だろ!』

『いやいや。あの男は私の種族がケンタウロスだと知っていたぞ?横文字が日ノ本の文化になかったためだろう』

『今更種族なんてどうでもいいだろ!やるのか、やらねえのか!』

「待ってください!わたしが付いていけば、暴れないんですよね?」


 それだけが目的の土蜘蛛。皆が殺されて連れていかれるか、誰も殺されずに連れていかれるなら。わたしは後者を選びます。ハルくんを傷付けたのは許せませんが、それ以上の被害を出すつもりなら、わたしだって譲歩します。

 ヴェルさんだっているのに、これ以上ここで被害が出たらハルくんの治療が遅れて後遺症が残るかもしれません。それは嫌です。


『ああ。君の身分の保証はしよう。私は君を傷付けない』

「他の皆さんも、傷付けないでください」

『私に突っかかってこなければ、いいだろう。君が来てくれるなら暴れる理由もなし』

「あと、護衛として銀郎様を許可してください。絶対手出しはさせませんから」

『そこの狼か?それぐらいは良いだろう』


 何でこうも話が通じるなら、最初から話をしに来てくれなかったんですか。天の逆鉾に何があるのか知りませんけど、博多を壊滅に導くか、回避できるかだったら言うことくらい聞きます。


「というわけで、薫さん。明くんを病院へ連れていってください。ゴン様と瑠姫様、任せました」

『……ホント、お前ら似た者同士だな。明に怒られたって知らねーぞ?』

「はい。ちょっと行ってきます」


 ハルくんの頭を瑠姫様に預けて、土蜘蛛の元に向かいます。銀郎様も刀をしまって付いてきてくれます。土蜘蛛が手を広げてきますが、乗れということでしょうか。そのまま土足で失礼すると、そのまま一気にジャンプして、博多を駆け抜けます。


『付いて来いってことかよ!クソ!』


 銀郎様も必死になって付いてきてくれます。握られているんですけど、痛くはありません。天の逆鉾ってどこにあるんでしたっけ?確か山の上だったような。そこまでずっとこの調子なんですかね……。


────


 目を開くと、見事なまでの青空。先ほどまで廃ビルの中で戦っておりましたのに、どうして青空を仰ぎ見ているんですの?

 硬い地面の上に布を置いたような、そんな不思議な感触が背中にありました。確認をしてみると、担架が地面に置かれているためでした。そして隣には同じような状態のコウ君が。

 何があったんですの……?確かあのヴェルとか呼ばれる女性について行って廃ビルにいるという妖を退治しようとして、戦闘になってそれで──。

 そこまで思い浮かべると、頭が痛みました。頭を強く打った、気もします。


「気が付いたか、賀茂」

「八神先生……?」


 狐を信奉している、正直教師として認めていない担任。授業の質は良いのかもしれないですけど、この人の人間としての在り方は気に入りません。この人が何故ここに、とも思いましたが、この人があのヴェルとかいう人と言い争っていたのが発端でした。

 なら後を追いかけてきても不思議ではありません。


「間に合って良かった。だが、金輪際こういうことはやめろ。学生である内は教師の言うことを聞け。だからこんな失敗をする」

「失敗?お言葉ですが──」

「お前たちが無闇に突っ込んだせいで死者が出た、その自覚があるか?」


 その言葉を聞いて、隣のコウ君を見ました。コウ君は息をしています。目立った外傷もありません。

 ですが、身体を起こして周りを見てみると。わたくしたちに付いてきた四人の姿が見当たりませんでした。


「正義感を持つことは結構だ。だが、プロでも勝てない相手に挑むのはただの無謀だ。取り返しのつかなくなる前に、行動を改めろ」

「あ、ああっ……!まさか!」

「生きていたのはお前と土御門だけだ。ヴェルに感謝しろよ。お前たちが死なないように回収してくれた。他の四人は、間に合わなかったらしい」


 ああ、そうですわ。わたくしたちの攻撃が何も効かず、あの触手に嬲られて壁に叩きつけられて、気を失ったんでした。わたくしたちが気絶する前に八神先生が入って来られて、四人はその前に触手で身体に穴を開けられて……。

 思わず胃から何かが這い上がってきそうで、えづいてしまいました。ですが何かが出ることもなく。口元を抑えただけで済みました。


「……幸いお前たちは怪我が少ない。このままホテルに引き返すぞ。その後どうするかは学校側に判断してもらう」

「あの、ヴェルとかいう女は⁉︎」

「お前、仮にも助けてもらった人だぞ?あいつの見当違いもあるが、恩人に向かって何を言うつもりだ?」

「だからどこだと言うのです!あの女がもっと情報をくれれば……!」


 あそこまで攻撃が効かないなんて聞いていませんわ。いくらプロが返り討ちになったとはいえ、こんな田舎にいるようなプロ。どうせ実践経験も少なく、実力もなんてことない者たちばかりだったはず。

 そのプロがどうだったとか、移動中何も聞いていませんでしたわ!あの女も全く話さなかった!ああまで理不尽であれば、もっと準備をして来ましたのに!


「情報があれば、あの妖を倒せたとでも?調子に乗るなよ、賀茂静香。鬼も陰陽術も通用しなかった相手だ。プロの陰陽師は死ななかった。お前たちは死人も出て、まるで歯が立たなかった。その事実を受け入れなくて、また同じ過ちを繰り返すつもりか?そうやって、お前の周りを屍で埋めるつもりか?」

「ならそうならないように指導なさい!あなたがこの半年間やってきたことは何ですか⁉︎まともな対処法も教えず……!」


 これは京都の守護者としての当たり前の在り方。それをこんな教師落第の男に指図される謂れはありません!

 陰陽師学校の教師なら、強力な魑魅魍魎と遭遇した時の対処法くらい授業で教えなさい!そんなこともせずに、ただ知識だけを与えて実践的なことを一切やってこなかった男が、何を偉そうに!


「……そうか。お前にとって学校はそう映るのか。陰陽師学校であって、呪術学校になった覚えはない。プロの陰陽師は戦うだけの存在だというのなら、それを貫き通せ。教え導くことが不要だと言うなら、何も言葉が届かないんだろう」

「ええ、そうさせていただきます!あの女の場所は⁉︎」

「ここを真っ直ぐ行った場所、駅への大通りに出る場所だ。そのルートが一番市役所に近い」

「どうも!」


 わたくしは痛む身体へ鞭を打って走り出す。簡易式神を出して、あの何もしなかった女に追いつこうとする。

 大通りに出る直前で立ち止まっていた女を見付けたわたくしは簡易式神を戻して彼女に掴みかかろうとした。けれどそれよりも前に、莫大な霊気を受けて身体が竦んでしまい、硬直した。

 その霊気の波動を受けたと思ったら、その複数の内の一つの霊気が、黒い巨大な腕に掴まれて消えたことで金縛りが解けましたが、わたくしの何十倍もある霊気が一瞬で消えたこと。それを為した存在が近くにいることで、わたくしの身体は、動かなくなっていた。


『あーあ。だからやめとけば良かったのに』


 それは誰に向けての言葉だったのか。かろうじて顔をヴェルの方へ向けましたが、その表情は前を向いているだけ。

 わたくしなど、眼中にないようでした。

 更に増えた莫大な霊気の持ち主。その正体があの大きな腕を持った怪異だとはわかっても、それ以上何もできなかった。


 姿を見せれば殺される。先ほどの妖とは、レベルが違いすぎると本能が悟っていたから。

 その強大な畏怖する霊気と、二つの大きな霊気が急速にどこかへ行く。方向はわかっても、追いかけようという気はなかった。それをしてしまったら、全てが終わってしまうとわかっていたから。

 路地の先で、難波が倒れていることはわかりましたわ。あの妖にやられたのでしょう。あの男も、結局強大な敵には手も足も出ない。プロの資格も得ていないただの学生でしかないのだとわかって、安堵しましたわ。


 やはり、日本を守るのは土御門だと。難波などという引きこもりに任せてはおけないのだという証明のようで。桑名が特殊なだけで、難波はそうでもないとわかって。この前の宣言も、ただの身内の贔屓だとわかって。

 口角が、不自然に、不器用に。上がってしまいましたの。自己肯定。わたくしたちは間違っていないという再認識ができて、心が黒くなっていくのを自覚しながらも軽くなったことが嬉しくて。


『いやー、災難じゃな。ヤガミンが倒せる妖に完膚無きまでやられて、もっと上の妖を感じてしまった。世界は広いのう。井の中の蛙じゃったのう。それで、負け犬のお嬢さんはどうするんじゃ?』


 いつの間にそこに立っていたのか。ヴェルが上から、わたくしの瞳を覗き込む。その瞳は混濁していた。絶望、憤怒、困惑、諦観、歓喜。そんな様々な感情が入り乱れた、混沌そのもの。

 何を経験すればこうなるのか。どうして人が死んだばかりだというのに笑っていられるのか。

 その瞳も精神性も、おぞましいとしか思えなかった。


『まあ、元から目的はお前さんじゃなかったのじゃ。ヤガミンは意外じゃったが、これでようやく悠久の止まった刻が動き出す。楽しみじゃのう……。お前さんはそのまま負け犬として、塞ぎ込んでると良い。取り返しのつかない災厄が目覚めても、そうやって下を向いておれば良い。そうすれば、自分の身だけは守れるかもしれんもんなあ?』

「なっ⁉︎」


 この女、何と言った?まさか、さっきの怪異が暴れるということを知っていた?取り返しのつかない災厄?

 そんなことを逡巡していると、ヴェルはいつの間にかビルの最上部へ上がっていました。どうやって?今、陰陽術の起こりは全く見えなかったのに……。

 まさか、ただの身体能力?それだけで、数十メートルを一気に飛び上がった?


『これ以上遅れたら折角の晴れ舞台を見逃してしまうのじゃ。お前さんはもう少し他者の言葉を疑った方が良いぞ?この世は性善説よりも、性悪説で成り立ってるんじゃからのう』


 それだけ言うと、彼女の姿は消えた。いや、霊気を追う感じ、高速移動をしているのでしょう。

 あれは悪人だ。そして向かった先も市役所ではありませんわ。つまり、この全てはあの女に仕組まれたこと。

 あの女のせいで、四人は死んだということ。それを、その犯人が逃げ出したことを、わたくしに見逃せと?


「できるわけありませんわ!急々如律令!」


 鷲の式神を出して、感知できるヴェルの霊気を追って突き進みます。あの諸悪の根源を見逃したら、またコウ君が傷付く。国民が傷付く。

 日本の守護者たる賀茂の、ひいては土御門になるわたくしがそんなことを許せるわけないのに。


「あれ、賀茂か!……薫ちゃん、明を任せた!」


 後ろからも誰かがついて来ますが、わたくしは無視をする。あの女を殺し、あの馬鹿げた霊気を放つ妖も倒す。倒さなくてはならない。

 土御門こそ、陰陽師の頂点に立つべきだと。コウ君が今できないのなら、わたくしが証明するしかないのだから。

 ここで武勲を立てて、難波にできなかったことを為す。そうすることで世論を変える。今ならまだ変えられますから。変えなくては、わたくしたちの未来はないのだから。













 この騒動により宿泊学習は中断。全生徒が先日泊まったホテルで待機。難波明が近くの大病院に入院し、土御門光陰は教師複数による監視の元隔離された。

 土蜘蛛が現れたことは九州中のプロの陰陽師支部に伝えられ、ゴンの証言から天の逆鉾へ向かうことが通達される。攫われた那須珠希奪還のために。


 連絡がつかない生徒は賀茂静香と、その賀茂を追いかけたとされる住吉祐介のみ。死亡した生徒以外は、全員ホテルに戻ってこられた。

 九州全土に緊急事態宣言が発令され、全ての社会活動が止まる。この一連の事件は「土蜘蛛動乱」と呼ばれ、魔の三日間の始まりだった。


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