第141話 1ー6

 消灯十分前に戻って来たはずなのに部屋はだいぶ明るかった。布団は敷いてあるが、その中央に男子たちが集まっている。祐介が帰って来た俺に気付いたようだ。


「お、明おかえり。もういいのか?」

「ああ。祐介、入浴セットありがとうな」

「いいってことよ。バッグの隣に置いてある。タオルはそこに干してあるから」


 使ったタオルは窓の近くにあったタオル掛けに干してあった。明日回収すればある程度乾いているだろう。

 集まって何をしているのかと思えば、ボードゲームである人生ゲームを用意していた。まだ始めていないらしい。


「今からやるのか?」

「そう。陰陽師としての生活スタイルに合わせてたら、こんな時間でも眠くならなくてさ」

「朝早かったけど、全然だしよ。住吉がこれ持って来てて良かったぜ。トランプとかはある程度やったし」

「テレビはこの前の事件のやつ延々と話してるだけだし」


 祐介はどれだけ遊び道具を持って来てるんだか。こいつこそ学習目的の修学旅行じゃないよな。別にこういう遊び道具を持って来てはいけないなんて書かれてなかったけど、持って来すぎ。


「女子の部屋に遊びに行ったりしなかったのか?祐介ならやりそうだけど」

「オメーのせいで下手に女子部屋近付けなかったんだよ。ホテルで騒ぐの禁止されて、女子は皆オメーみたいな彼氏が欲しいって話ばっかで他の男子が近寄る隙なし。全く羨ましいぜ、貴公子様は」

「なんだその歯が浮くような渾名は」


 誰が貴公子だ、誰が。そんなホストみたいな称号はいらない。

 誰にでもあんなことするわけないだろ。ミクにだからこそやったんだし、告白が面倒だから周囲に見せつけ的な意味も込みでやったのに、何で話が広がってるんだ。明日からも楽をできそうにない。


「その不名誉な渾名は捨て置くとして。消灯時間になるけどどうするつもりなんだ?」

「防音の術式と、あとは照明は火の玉かなんか出してくれ」

「俺任せか?」

『ならオレがやってやる。電気消せ』

「さっすが先生!」


 俺が明日万全でいるために、ゴンがやってくれることになった。電気を消した後防音の結界と、火の玉を六個ほど出してくれた。これのおかげでお互いの顔も見えるし、マス目とかもちゃんと見える。

 ジャンケンで順番を決めて、始める。俺は青い車だ。


「で?恋人の時間って何やってきたんだ?」

「特には。ゴンとかのご飯買いに行く口実だったし」

「またまた〜。あんだけ長くどっかに行ってたのに?」

「星斗から電話かかってきたけど、お互いのこと話してそんくらい。どうせ見つかったらそうやって聞かれるだろうからって消灯時間まで外で時間潰してたんだよ」

「今や一番有名な二人になっちゃったからなー」


 人生ゲームをやりつつも、雑談しながら話題を逸らしていく。何回キスしただの、恋人繋ぎしてただの、お姫様抱っこやっただの聞きたいわけじゃあるまいし。

 しっかし、人生ゲームも初めてやったな。こういうゲーム家族でやらないし、中学の友達って言ったら祐介しかいなかった。もしくはミク。二人しかいないのに人生ゲームとか寂しいからなあ。

 いやいや、陰陽大家なんだからそれが普通か。どこだって陰陽師を育成しようとする家なら、遊びよりも陰陽術を教えるのを優先するって。俺だけが特別変なわけない、と思う。後で星斗に聞こうかな。ミクは一般の家だからやったことありそう。


「土御門と賀茂は?ウチの学年で有名って言ったらあの二人だろ」

「土御門はエリートって雰囲気あったけど、賀茂さんはお前に術比べで負けたじゃん。それでそこまで有名にはならなかったぞ。態度もキツかったし」

「そこは俺が有名になるってだけじゃないのか?」

「ほら、茨木童子。そんな鬼を使役してるのに難波に負けたから、賀茂が有名にはならなかったなー。それに本物は法師が使役してるんだろ?偽者でイキちゃった人ってことで、今相当評価悪いぜ?」

「見た目だけなら悪くないんだけどなー」


 ふうん。賀茂ってそんな感じなのか。家の代名詞、星見も使えないしそういう評価になってもおかしくないか。

 そんで今回の一件で評価を落としたってところかね。明日あいつらの一派に闇討ちされないか?大丈夫か、これ。めっちゃ恨まれてる要素あるんだけど。

 土御門と賀茂は家のせいで旅行だってのにイチャつけないのに、逆に俺たちはめっちゃイチャついてる。調子に乗るなって言われそう。あいつらって案外短気だからなあ。何をされるかわからん。


「あ、陰陽師になった。職業カードくれ」

「はいよ」

「……なあ。陰陽師にしては給料良すぎないか?公務員だよな?」

「そんなところまで現実に寄せなくていいってことだろ。ゲームだし。子どもの夢壊さないようにってことだろ。命張ってる公務員なんて他に自衛隊くらいだし」

「そんなもんか」


 人生ゲームなのにそれでいいんだろうか。こういうのって子どもに将来をイメージさせるために作ってるんじゃなかろうか。

 現実とゲームは違ったってショックを受ける子どもはいないだろうか。ゲームはゲームとして面白くなるように色々調整してるんだろうけどさ。


「あ、結婚。……え、恋人の影もなかったんだけど。いきなり結婚すんの?怖っ」

「まあ、ゲームだから。はい、妻のピン」

「……俺、幼馴染としか結婚する気ないんだけど」

「そんな設定ないけど、幼馴染ってことでいいよ!難波ってめんどくせーな!」

「お前そんなに那須さんのこと好きか!」

「好きじゃなかったら恋人になってないだろ」

「くそう!惚気聞く気なかったのに!リア充め!お前以外この部屋に彼女いる奴いないんだぞ!」

「頑張れ?」

「下手な慰めなんて余計虚しくなるだろうが!」


 そんな感じでバカみたいに騒ぎながら、楽しくゲームを楽しんだ。一時を過ぎた辺りで朝の起床時間もあったので寝ることに。大勢でゲームするっていうのも楽しいもんだな。

 明日、もう今日か。どうなるか不安は残るけど、出たとこ勝負だなあ。















 わたしが部屋に戻ると、いきなり黄色い歓声が上がりました。


「お姫様のお帰りよ!」

「濃厚な恋人の時間を過ごしたんでしょうね……。だって二時間半よ?」

「はぁー。私もあんなカッコイイ恋人現れないかしら……」


 うーん。予想通り。ハ、ハルくんがあんなにも堂々と見せつけるからですよ!もう!

 お姫様抱っこだけで大丈夫だったんじゃ……。皆さんの前でキスは、恥ずかしかったです。はい。


「消灯ですよね?電気消しますよ」

「はーい。でも、寝かさないよ?」


 完全に目を付けられています。獲物を狙う猛禽類のよう。何で女の方って他の人の恋バナにここまで意義を求めるんでしょうか。わたし、誰かの恋バナなんて聞きたいと思わないのに。好きに恋愛しててください。わたしもハルくんとイチャイチャしてますから。

 電気を消して余っていた布団に入ります。……真ん中なんですね。


「さーて、那須さん?二時間何やってたの?」

「話してただけですよ?」

「キスは何回したの?」

「……三回、です」

「嘘つきー!」


 ドワっと笑いが溢れます。これだけ騒いでると見回りの先生が入って来かねないので、苦手ですけど防音の術式を張ります。ハルくんも昔から隙あればわたしとくっついてた気がしますけど、皆に見せつけてしまったからかなり積極的になってました。コンビニに行くまでずっと手を繋いでましたし、別れる前にキスしましたし。

 お、おやすみのキスなんて初めてしました。う、嬉しかったですけどね⁉︎


「でもでもー。普段って男子寮と女子寮じゃない?学校だってあるし、休日くらいしか二人で会えないよね?せっかくクラス一緒なのに」

「あ。この二人、よく寮抜け出して魑魅魍魎倒しに出歩いてるよ?夜のデート毎日してる」

「何それー!」


 薫さーん⁉︎やっぱりあなたも敵なんですね!それともただ面白がってます⁉︎どっちにしろ、わたしたちの秘密が!祐介さんと薫さんなら知ってるでしょうけども!

 わたしをいぢめて楽しいですか!ああ、とても愉しそう!見たことないような満面の笑みです!


『ニャハハ。それだって坊ちゃんが勘を鈍らせないためのものニャ。デート的な意味合いは少ないのニャ』

「そうなんですか?」


 瑠姫様が実体化してフォローを入れてくれます。ええ、ええ。あれは日課ですから。魑魅魍魎を倒したり、霊脈の様子を見たり、妖が暴れていないかを確認しているだけで、デートではありませんから。

 日課の時はそういう雰囲気になりません。手も基本繋ぎませんし。ハルくん真剣ですからね。陰陽師の鑑です。


「でも、休日はずっと出かけてますよね?」

「最近はかまいたち事件の調査ですよ。デートじゃありません。他の分家の方もいましたし」


 毎回ではありませんが。桑名先輩にも星斗さんにも遭遇しています。あと姫さんにも。だからずっとデートしていたわけではありません。文化祭の直前はそれこそ文化祭準備を手伝っていましたし。

 そうそう。かまいたちさん退院したそうです。蜂谷先生が教えてくれました。これであの兄妹は穏やかに過ごせればいいんですけど。


「そんな危ないことしてたの?」

「明くんはそういう正義感強いですから。プロの陰陽師が狙われるということは、わたしたちも狙われるかもしれません。杞憂でしたが」

「あー。悪い陰陽師だったんだって?殺された人たち」


 それも姫さんが公表していましたね。大峰さんも元朱雀とその一派は許せないとのことだったので姫さんの証言を資料付きで認めて、でもかまいたちさんは殺したことにしていました。生きているんですけどね。

 この一ヶ月だけで随分日本は変化してしまいました。良いことだとは思いますけど、このままだと本当にハルくんは陰陽寮のトップに立たないといけなくなりそうです。しかも早急に。政府も呪術省も酷かったですからねー。後始末に制度の見直しに不穏分子の排除に。やることいっぱいです。


「じゃあさ、那須さん。難波君の弱点とかないの?正義感あるとか実力あるとかだと、完璧すぎてつまらないじゃない?」

「うーん、弱点……。ああ、寝相はいいんですけど、寝起きは頭が全然働いてないですね。覚醒するまでに時間がかかります」

『確かに。坊ちゃん起きるまでが面倒ニャ』

「……瑠姫さんは式神だからわかるけど、何で那須さんも知ってるの?」

「難波の実家にいる時は、わたしが起こす係でしたから」

「結局惚気じゃない!」


 ……まあ、そうですね。でもわたしだけの秘密ってわけでもないですし。わたしだけの秘密は別にありますから。式神の皆様は知っていますけど、人間で知っているのはわたしだけです。素晴らしい優越感。


「あと、料理は全然ダメですね。味覚は良いんですけど、作るのは調理実習くらいしかやったことないとか」

『まあ、家だとあちしか奥様が作ってたからニャー。陰陽大家の御曹司に料理をやらせることが間違ってるのニャ』

「そうよ。それじゃあ弱点とは言わないわ」

「他に……?霊気はわたしより少ないですね」

「珠希ちゃんが多すぎるだけだと思うよ?」


 全員に頷かれます。いえ、それはそうですけど。改めて言われるとわたしがおかしいみたいじゃないですか。

 わたし、これでも抑えるの大変なんですよ?神気も多いので、制御が大変で。実技の授業とかまた五月みたいに失敗しそうで怖いです。ハルくんに迷惑かけたくないですからね。


「あ、普通の遊び全然知らないです。トランプのルールとかもわたしが教えたくらいなので」

「うわー。陰陽エリートあるある……」

「他は、えっと……。瑠姫様、何かあります?」

『動物に目がニャイ』

「見ればわかります」


 あれだけゴン様を可愛がっていたら、そうですよね。狐が大好きは同じだし、他に弱点……?陰陽師としてはどの性質の術式も満遍なく使えますし、プロの九段に匹敵する実力。

 法師や姫さんなどにも有望視されていて将来有望。他にありますかね?


『ああ。女たらしニャ。坊ちゃん昔からモテるのに、すっごく鈍感で女の子を落としてる自覚なしなのニャ』

「それです!わたしもすっごく苦労しました!」

「わかるー。っていうか、あれでモテないわけがない」

「でも中学の時はサボり癖があったから、そこまでじゃなかった……ああいや、ごめんなさい。同じクラスの子でも何人か好きって言ってた。孤高なところが良いとかなんとか。住吉君も居たんだけどね」

「孤高なんてマイナスポイントにならないでしょ」


 コミニュケーション能力が低いとなったらマイナスポイントかもしれません。でもハルくん、交流が狭いだけで空気読むことも会話も問題ないですからね。やっぱりマイナスじゃありません。


「苦手な術式とかないの?」

「ありませんよ?呪術が苦手って言ってましたけど、比較対象がおかしかっただけですから」

「比較対象?」

「昔法師と術比べをして惨敗したらしくて。それで苦手意識があるだけですね」

「あの法師と⁉︎難波君って何者なの!」

「難波君、なんだよねえ」

「……うん、しっくりきた。天海さんもだいぶ染められてきたね?」

「だって、プロが解決すべき事件とか解決しちゃってるんだよ?ただの同級生じゃないって中学の時から知ってたよ」


 ウンウン。彼氏が褒められるというのは鼻が高いです。ハルくんはどうしても表立って活躍して有名になるとかって気概はないですけど、ちゃんと評価してくれる人はたくさんいるんです。

 これで大天狗様も撃退しかけたって知ったら皆さんどれくらい驚くでしょうか。腰抜かすでしょうか。……言いませんし、言えませんけど。


「うーん、弱点らしい弱点じゃなかったな……。じゃあ那須さんだ」

「そうそう。一度聞いてみたかったんだよね」

「なんです?」

「そのおっぱい、どうやって手に入れたの!」


 そこですか?って、何で皆さん手をワキワキさせてるんです?わたしの胸ばかり見て……。あ、瑠姫様、離れないでください。


「確保ー!」

「とりゃああ!」

「ひゃああああああっ⁉︎」


 揉みしだかれてます!皆さん女性でしょう!手つきがいやらしいです!四対一は卑怯ですって!


「お、大きい……」

「ズシンってくる。ここまで来ると感動だね……」

「珠希ちゃんの、お風呂で浮いてたもんねえ……」

「何カップ?」

「Dです!身長が低いからそう見えるだけで!」

「ええー?測り間違えてない?」

「いやいや、絶対もう一つサイズ大きいでしょ」


 い、いやーーーっ⁉︎

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