第136話 1ー1

「未来視ですか……。ハルくんも随分と色々な力を身に着けてますね?」

「まあ、初めてのことだったし意図的にはまだできないんだけどな」


 「神無月の終焉」と呼ばれる姫さんによるクーデターから四日。俺たちは昼過ぎに校舎の中を歩いていた。制服を着て、休校中なのに。今は日本も京都も陰陽師も大混乱だから全国の学校は臨時休校状態。会社などはやってる場所もあるけど、念のために休業している店も多数。

 妖や魑魅魍魎の数が増えたわけじゃないから、人類の脅威が増えたわけじゃない。むしろ魑魅魍魎の数は明らかに減っている。問題は呪術省が機能しなくなってプロの陰陽師の統制が取れていないこと。まあこれもすぐに姫さんが指揮を取って表面上は問題なく動いている。姫さんの指揮能力が高いのか、特に不満も出ていないらしい。混乱はしてるけど。


 まあ、トップがいきなり武力で挿げ変わったんだから混乱もするか。今まで信じていたものが根底から壊された人もいるんだろうし。世の中は姫さんが発表した内容の真偽を確認して大慌て。五神の遺体を利用していたことと、難波家が普通の人と異なるDNAをしているってことがわかったことくらいか。俺も見たことなかったけど、神と狐が混ざっていると染色体って螺旋の形はしてるけど、構造がかなり細かく、染色体もかなり太くて丈夫らしい。それであちこちに五芒星が見られるんだとか。


 今ではニュースを見ると俺たちの遺伝子が載っている。人間じゃないみたいだ。

 現状はそんなところで。今日俺たちが休校なのに学校に向かっているのには理由がある。校長先生に呼び出されているからだ。呼び出される要件はわかってる。どうやって誤魔化すべきか。ミクとも口裏を合わせているけど、誤魔化すべきか。


「んー。どうしよう」

「本当のことを話すかどうか、ですか?」

「正直話していいと思うんだよ。世間的には正義の難波、悪の土御門だし」

「わたしたちにとっても悪ですよ?難波に攻めてきた悪党じゃないですか」

「そりゃそうだ。それと、あの人たちには話しても問題ないと思うから、隠すよりはいいかなと」

「わたしは反対しませんよ。風向きが変わったのは良いことです」


 日陰者の難波が台頭する。静かに暮らしたかった俺としては微妙な気分だけど、土御門が大きな顔をするよりは良い。それで土御門も賀茂もダメとなると、立ち上がるには難波か天海を御旗としなければならない。で、先日の放送で天海家は元を辿ると難波家だとわかったわけで。そうなると俺か星斗が立ち上がるのが筋となってしまった。

 他にも陰陽大家はいくつかあるけど、安倍晴明正統後継者という看板は大きい。それだけで土御門が大きな顔をしてこられたんだから。陰陽師の始祖としての認知度を改めて思い知った。


「……ここまでAさん、いや道摩法師は視ていたんだろうな。じゃなきゃ四月の頃から俺たちに目をかけているはずがない」

「難波の真実を知っていたからでしょうね。わたしに優しかったのは、ハルくんの婚約者だから。難波の血筋で初めての狐憑きですし、納得です」

「でもなあ。何で過去視で法師の顔だけぼやけてたんだろ。ミクにはちゃんと見えてたんだろ?」

「はい。とても端正なお顔でしたよ?晴明様に比べるととても目つきが鋭い方でした。今度仮面を外してもらいたいですね」

「俺も気になる。何か意味があるんだろうか」


 映像で見てもぼやけてるんだよなあ。星斗たちはこの前素顔を見たらしいけど。難波に伝わる道摩法師そのものだったらしい。

 この前電話ですっごい怒られた。何やらかしたって星斗に問い詰められたけど、呪術省に侵入して麒麟の間から書物を盗んだだけで何もしてないんだよなあ。あとは道摩法師とも姫さんとも仲良くさせてもらってるけど。

 俺たちを指名したのは難波家の当主筆頭だったからだろうし。


 そうやって話していると校長室の前に着いた。ここに来るのは入学する前だから、随分と前のことだ。一般生徒はここに用事ないよな。何かあったら呼び出して来るの、生徒会だったし。

 三回ノックして、「どうぞ」と伏見校長に言われたので中に入る。ソファに座っていたのは伏見校長と俺たちの担任の八神先生。それと立ったまま大峰さんがいた。まあ、予想通りのメンバーだ。


「失礼します」

「休校中なのにすまないね、二人とも。かけてくれ」


 伏見校長に言われて、対面のソファに座る。ゴンたちは呼ばれたら実体化すれば良いだろ。

 まずは担任ということで見知っているからか、八神先生が問いかけてくる。


「難波。先日の天海瑞穂の発表。どこまでが事実なんだ?」

「それはもう、全部です。あの過去視を視たのなら、あれが幻術ではないとわかったと思います。TV局や新聞社に送った資料については俺たちも全部を確認していませんが、三家で交わした誓約書と、家系図については事実です」

「土御門は、安倍晴明の血筋ではないと」

「はい。彼らのDNA検査どうなりましたか?おそらく通常の人間と同じような染色体だったと思いますけど」


 二枚の写真が出される。一枚は父さんが出した染色体。もう一つは生物の授業で見る人間の染色体だ。

 もう調べてあったのか。ニュースでは言ってなかった気がするけど。まだ彼らの権力は残っているのか?


「こっちが土御門晴道の染色体だ。神の血は一千年くらいでは薄まらないようで、難波の血筋は末端まで人間の染色体とはかけ離れているようだ。今日中に、難波家の分家と元分家のDNAがニュースでも発表されるだろう」

「ものの見事に別ですね。多分俺たちも調べたらこれに酷似していると思います。そういや血液型知らないや。タマは?」

「わたしも知らないです。輸血が必要なほど大怪我をしたことありませんし」


 父さんたちのも知らない。既存の血液型に当てはめるなんてできないんじゃないかな。すごく希少な血液型のように認知すらされていないんだから。俺たちって大きな怪我をしても、陰陽術による治療でどうにかしてきたらしい。陰陽術の発展って素晴らしいな。逆に発展しすぎて俺たちの性質の発覚が遅れたんだから、どっちもどっちか?

 そんなことを考えていると、大峰さんがもう二枚の写真を取り出す。どちらもやはり普通の人間とは異なる染色体を写しているけど、そういうことだろうか。


「これ、ボクと狐憑きのDNA。すごく似てるけど、これも玉藻の前の影響かな?」

「でも父とは異なりますね。何というか、大峰さんのものは細い」

「そうだね。難波とは違う。君たちと六百年は離れてるらしいけど、ボクたち天海と君たち難波が本当に傍流なのかは疑問が残るね」

「そもそも一千年経ってるのに、神の血と思われる証拠が残っているこっちがおかしいんだと思いますけど」

「それもそうだけど。……呪術省の嘘を暴露したんだから、さらに嘘を重ねるような愚行をあの人がするとは思えないんだよね。だから、血に関することは全部本当でしょう」


 そう納得して大峰さんは写真をしまう。革命する側が嘘を言っても信用されないからな。そこら辺は気にかけてると思う。

 それにあの過去視は紛れもない本物だ。あとは状況証拠を出せばいい。それが俺たちの血だったりするわけだけど。


「こんな確認は序の口でね。本題は君が呪術省の後釜、仮称陰陽寮の実質的なトップに任命されたことだ。一応我々も呪術省の管轄でね。君をトップとすると組織編成を考えなければならない。それとも名代の香炉星斗にすべきか。そこら辺で今混乱が生じていてね。君たちからその返答がない」


 伏見校長が確認を取ってくる。まあ、元呪術大臣殿には頼れないよなあ。呪術省を陥落させて、詐称してきた相手だ。まだ呪術大臣の座にはいるけど、彼をトップとしておけないだろう。今諸々をやっているのは姫さんだし。

 俺たちも記者会見とか行っていない。やり方も知らないし、父さんにやれとも言われていない。こっちはまだ学生の立場なんだから。


「今は香炉星斗でいいと思いますよ。彼を瑞穂さんが補助してくれると思いますし。俺はまだ学生です。これ以上の緊急事態が起きない限り、学校を辞めて陰陽寮を率いるとかそういうことはしないと思いますが」

「そうかい?今が緊急事態じゃないと?」

「いえ。代わりがいますので。星斗ではどうしようもないと判断したら立ち上がるとは思います。けどまだ俺は学生ですから。瑞穂さんのように五神だったとか、そういう実績もありませんし」

「うむ。わかった。ではそういう意向だと伝えておこう。君がもし学校を辞めるのであれば、那須君の手綱を握る者がいなくなってしまう。予定としてはこのまま大学まで進んで、その後に陰陽寮のトップに立つつもりかな?」

「何事もなければ、そうなると思います」


 難波の当主になりたいんだけどなあ。もう無理だよな。ミクを一緒に呼んだのは俺とセット扱いされてるからか。狐憑きということを伏せてもらってるし、俺が抑える前提で色々優遇してもらってるし。俺が辞めるとなると、ミクもどうするか聞きたかったんだろうな。

 俺が辞めたらミクも辞めそう。その辺りは後でミクからちゃんと聞いておこう。


「そういえば大峰さんこそ学校どうするんです?依頼主が失脚しましたけど」

「そうだねえ。護衛の仕事なんて辞めて本業に集中したいかな。瑞穂さんに聞きたいことがいっぱいあるし、星斗さんの補佐を五神としてやらなくちゃいけないんだゼ?呪術省の負債も出てくる出てくる。学生なんてやってられないっていうのが本音かな」

「ですよねえ」


 この人、土御門と賀茂の護衛のためだけに卒業した学校で学生をやらされているのだ。今更あの二人を守ってどうする。彼らに誹謗中傷が集まっても、それから守る義務は大峰さんにはない。護衛というのは妖とか呪術犯罪者が主な相手だったのだろうが、一般市民から何か言われることまで守ることはしなくていいだろう。そんなものは家の問題で、彼らの負債。それに付き合わされる大峰さんが可哀想だ。

 契約内容を知らないからそう思っているだけで、そういう言葉の暴力からも大峰さんはあの二人を守らないといけないのだろうか。


「あれ?大峰さん、えーっと、あの人を瑞穂として認めているんですか?」

「認めるも何も。たとえ十七年前に亡くなっていて肉体がなくても。記憶と魂がああやって存在しているならあの人こそ瑞穂さん。裏・天海家で最高の傑物は彼女だゼ?ボクは所詮代用品。麒麟の主権も握られたままで、どうしてボクが正統後継者だー!って言える?」


 ミクの疑問に答える大峰さん。まあ、あの人を超える人物なんてそうそういないだろう。現状最高峰の陰陽師。姫さんに匹敵する陰陽師ってマユさんしかいないんじゃないか。

 他の五神も本体を呼び出せるようになったみたいだけど、マユさんは長年玄武を呼んでいたことと、身体に蓄積している神気が桁違いだ。というか。この前の一件以降マユさんの神気が霊気を上回った。今までは霊気と神気が7:3位だったのに、今では逆転して3:7だ。霊気と神気の合計量ではミクと対して変わらない。まだミクの方が多いけど。

 最近身体の変化が激しくて寝込んでるって星斗から聞いた。お見舞いに行きたいけど、家知らないしなあ。


「ボクの進退は後でいいの。辞める時になったらちゃんと君たちには言うから。そ・れ・で。見過ごせないことが一つ残ってるんだな〜、これが」


 大峰さんが出したもう二枚の写真。あら、呪術省に侵入している時の俺とミクの黒ずくめの格好じゃん。防犯カメラとかに残ってたのか。

 犯罪だからなあ。やったことは。


「これ、君たちだろ?狐の仮面を被る男女二人組。瑞穂さんに指名されるほどの深い繋がり。それにクラスの打ち上げ拒否したんだって?そんなわけで状況証拠が集まってるんだけど?」

「理由としては弱くありません?ゴンがいるから狐のことは好きですけど、それだけで俺たちって特定するのは。瑞穂さんに指名されたのは父の影響でしょう。父は瑞穂さんと旧知の仲のようですから。文化祭の打ち上げは疲れ切ってたんですよ。神楽ってすごく疲れるんです。朝から晩までお客さんの対応してたら疲れるのも当然でしょう」


 理由がそれだけならこれでシラを切ろう。他にも理由があるならゲロっちゃってもいい。

 そう思っていると、茶色い封筒から一枚の紙が。姫さんのサインが書かれていて……。うわ、嵌められた。


「最初から瑞穂さんの証明付きなの。ごめんね?」

「俺たちのこと滑稽だと思って見るなんて、酷いですね」

「うんにゃ?珠希ちゃんを庇おうとする誰かさんを見たかっただけだゼ?」


 余計タチが悪い。姫さんも人が悪いなあ。もうバラしてるって言ってくれればこんな茶番に付き合わなかったのに。

 この茶番、伏見校長も八神先生も見逃したのかよ。二人も俺たちを嵌めようとしたっていうのは悲しい。頼れる大人だと思ってたのに。


「二人がかりとはいえ晴道を倒すなんてねえ。で?なんのために呪術省に忍び込んだの?」

「どうせ瑞穂さんから聞いているでしょう?麒麟の書ですよ」

「ウンウン。やっと素直に話すようになったか。じゃあ瑞穂さんや道摩法師とはいつからの付き合い?」

「付き合い……。道摩法師と初めて会ったのは九歳の時です。難波に襲撃をかけてきたので迎撃しました。次に会ったのは入学式の時ですね。その前にお二人とも一月にあった難波の事件を見学していたそうですが」

「……そんな最近なの?」


 意外だっただろうか。向こうはだいぶ前から俺たちのことを知っていたようだけど、俺たちがちゃんと知ったのは一月。初めて正式に顔を合わせたのは入学式。嘘じゃない。瑞穂さんは俺が産まれてすぐ顔を見に来たらしいけど。

 仲良くさせてもらっているけど、直接顔を合わせたことなんてどれだけあるんだか。四月には殺されかかってるし、単純に仲間や味方という言葉では言い表せない。そんな間柄だ。


「新入生歓迎オリエンテーションの時だって、どういう意図か知りませんけど殺されかかったのは事実です。それからは敵対するのはやめようと思って少しずつ交流していただけですね。ああ、文化祭にも来てましたよ?」

「え?」

「平然と来てました。俺たちの神楽も見ていましたし。色々なところに顔を出しているらしいですよ?先日の『かまいたち事件』にも関わっているらしいですし」

「先代だけじゃなかったのね……。いえ、先代が関わってたんだから、瑞穂さんが裏にいてもおかしくないのか」

「随分と仕込みが多いんだな。さすが道摩法師。呪術犯罪者として活動してきたのはそういう仕込みも含まれていたんだろう」

「それにしても人間の式神に、一千年生き続ける法師ですか。君たちには言っておきますが、法師は様々な人間に狙われています。人間の寿命を伸ばそうとする医療従事者。誰よりも知識のある陰陽師として陰陽師の高みを目指す存在。そして政府による法で縛ろうとする者。それに屈するとは思いませんが、彼の知識と技量を求める者は多い」


 大峰さんと八神先生が感心していたが、伏見校長は逆に不安を見せる。人間の寿命に歯向かうその在り方。そして死者と思われる存在を式神として利用。鬼などの妖や動物であれば式神として契約できていたが、人間という例はことごとく少ない。降霊であればいくらか実証があっても、その呼んだ存在を式神にするなんてさらに例が少ない。

 前提条件が厳しいということもあるが、人間を式神にしてどれだけの利益になるかという意見もある。戦闘能力でいえば式神を呼ぶくらいなら他の妖と契約した方がよっぽど役に立つ。それに式神という技術すら下火な現状、死者蘇生というわけでもない式神にする理由があまりないだけだろう。降霊の前提として相手が認めるか、力量が下の者しか降ろせない。そんな存在を呼んでどうするって話。


 降霊される側にも拒否権があるから、相手によっては全く呼びかけに応えないだろう。そんな非効率な術式を極めようとする人間は少ない。研究職とか、一部の際者だけだ。

 そういう意味では法師は今存在する陰陽師の中でも別格の力と知識を持った存在。下手したら世界の異能者を見渡しても最高峰の存在かもしれない。日本だけじゃなくて海外からも狙われるかもしれない。キャロルさんの組織も動きそうだ。

 一千年生き続けている存在なんて、歴史家や知識を求める存在から狙われるに決まってる。生き字引なんてレベルじゃない。今まで解明されなかった謎が解けるかもしれないんだから。


「それは大丈夫だと思いますよ?あの人は強いですし、医療の発展にはこれ以上貢献できませんから」

「タマ?どういうこと?」

「そのままの意味です。呪術大全以上に貢献できることは、あの人にはないですよ」


 ミクの断言にその場にいた式神以外の全員が首を傾げる。呪術大全が現代医療に大きな影響を与えたのは事実だけど。それ以上を法師が与えられないってどういうことだろう。

 いや、でも?寿命についてはそういうことか?彼の身体には神気が宿っている。それを上手く使えば寿命を伸ばせるかもしれない。神々なんていつから生きているかわからないんだから。ミクのように莫大な神気を持っていたら人間としての身体が持たないけど、調整できる程度の神気で調整方も知っていたら。


 それに神気なんて誰でも持ってるものじゃない。後天的には増大こそすれ、無から有になるにはかまいたち兄妹のような神への敬愛を抱いてなければ不可能だろう。つまり、誰にでもは転用できない。

 そういう意味ではミクの言葉は的を射ている。


「実力的にもあの人を捕らえられるのはマユさんと瑞穂さん、あと一人くらいでしょうか?最後の方もあの人の味方なので、そんなことしないでしょうし」


 金蘭様か。人間という括りだと確かにそれくらいしか法師に拮抗できる人はいないな。


「ボクじゃ、無理だろうね」

「おそらく。まずは瑞穂さんに並ばないと」

「逆に言えば、玄武は拮抗できるんだ?」

「はい。現代の人で一番実力があるのはあの人だと思います」


 それには同意見。神気の量がまず桁違いで、しかも強力な式神を連れてる。知識量はわからないけど、五神なんだから相応のものは得ているはず。

 金蘭様も姫さんも厳密には現代の人とは言い難いから、マユさんを筆頭に置いてもいいと思う。ただ姫さんの今の状態ってどうなんだろう。ただの式神には思えない、違和感を覚える。ただそれが何なのか具体的には言えないんだけど。引っかかっているのがもどかしい。


「君たちの意見はなかなか興味深かった。……学校が再開されれば学生からの目線が変わるとは思うが、耐えてほしい。我々教員でもできるだけのことをするつもりだ」

「まあ、お前らは土御門や賀茂に比べれば目線が好転するから問題ないだろう。ただ、何か問題があればすぐに俺に言え。賀茂の対処に困っていなければ助ける」

「そこは教師として、頼ってくれって言ってくれた方がありがたかったです」

「確実にできる保障がなければ断言しない主義だ。絶対に賀茂の方では揉めるからな。宿泊学習なんて特殊状況下だと特に」

「呪術省からの最後のワガママですからねー。京都こっちが落ち着くまで疎開させろって意地でも通してきたんだゼ?ヤになるよ。あ、ボクは行かないから旅行楽しんできてね?」

「大峰さん、こっちでやることが山積みですか?」

「呪術省が潰れたんだから、それはもう。この間の映像でボクが当代麒麟ってバレちゃったし」


 法師たちが暴れていた映像が出回ってるからな。朱雀を除く五神に先代麒麟の顔など、今や動画サイトに載って検証とやらがされている。大峰さんが今この学校の一年生として通っていることも、すでに一度卒業していることも知れ渡っている。

 いくら個人情報を抹消していたとしても、学校の卒業アルバムや入学式の写真とかまでは全部どうにかできないからな。


「難波、那須。宿泊学習の班員は住吉と天海にしておいた。それなら心置きなく旅行を楽しめるだろう?」

「……お気遣いありがとうございます。あの二人は今更難波が安倍晴明正統後継者の家と知っても態度は変えないでしょうから」

「はい。その二人で良かったです」

「こんな時だからこそ、旅行を楽しんでおけよ。せっかく呪術省がいらない気を回してくれたんだ。利用してやれ」

「それはもう、存分に」

「二人とも。ボクへのお土産よろしく〜」

「……星斗とマユさんの分も合わせて一緒で良いですか?」

「それで良し!というかそれが良い!できたらボクと星斗さんの分だけ一緒にとかは──」

「しません」


 星斗には婚約者がいるのに、何で男女で一緒のお土産にしないといけないんだか。星斗もマユさんも大変だろうから買ってくるお土産に、おまけで大峰さんの分が加わるだけ。セット物とかは買ってこないからな。

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