第67話 3ー2

 瑠姫に確認を取ってミクが眠ったのを確認してから学校の外に出た。ゴンと一緒だというのは昔からだが、ミクと一緒に京都の夜の街を歩いていないというのは初めてだ。日課が崩れると途端に心の中がぽっかり空いたように寂しくなる。

 祐介もいないとなると本当の意味で一人というのは久しぶりだ。脇にはゴンがいるが、なんというかゴンは兄弟に近い部分があるので、いない方がおかしいというか。


 京都の街はいつもと変わらない賑やかさを保っている。結局人間は順応するものだ。プロの陰陽師という戦闘のプロが百人近く殺されたというのに、恐怖の夜を平然と一般人が歩いている。

 酒でも入っているのか、顔を赤くした黒スーツの男性二人が肩を組んで歩いている。着物で着飾った舞子さんが男性と仲睦まじく寄り添っている。年若いカップルが、飲み物を飲みながら観光をしている。


 その最中にプロの陰陽師が警邏をしているし、あまり害がないとして矮小な魑魅魍魎は放置されてその辺りをフヨフヨしている。

 日常と非日常が溶け合った光景がそこに広がっていった。人間と物の怪がお互いを認知し、その上で干渉したり無視しながら生きている。この風景が長い時を経て当たり前になってしまっていた。

 それが悪いとは言わない。むしろ目指している世界とも言える。だがそれは、本当の力を持たない底辺の存在たちがそうしているだけで、強大な力を持つ者同士はいまだに言葉も交わさずに争ってばかりだ。


 魑魅魍魎や妖側が無言で襲ってくると言われればそうだし、人間が索敵を行って根絶やしにしようとしているのも事実。この対立の溝は異形を見逃さずに排斥してきた結果だが、この行いはたまたま下界に遊びに来ていた神も見境なく排除することと同義だった。だからこそ、神は人間と袂を別れた。

 特に玉藻の前の件を神は許すことがないだろう。分け御霊の瑠姫たちですら許していない。本物の兄弟だった神がその愚行を許すはずがない。


「前途多難だな……」


 そう呟きながら歩く。

 この時間になったら京都の公共交通機関は一切動いていない。正確には全国どこでも公共交通機関は動いていないし、タクシーも一台もいない。

 お客さんを運んでいる最中に魑魅魍魎に襲われて怪我をされたら責任を取れないからだ。まさか車両ごとに陰陽師を乗せるわけにもいかないし。慢性的な実力者の不足なのに、全てに配置することは不可能だ。


 そういうわけで伏見まで歩いているのだが、これがなかなか遠い。簡易式神を出して空を飛んでいくのも一つの手だが、上空はプロが警戒している。飛んでいるというのはそれだけで脅威になり得る。基本地に足つけて戦う陰陽師とは、使える足場が違いすぎるし、足場の概念が異なる。

 いくら陰陽師学校、しかも京都校の生徒とはいえバイトや保護者同伴などの理由がない状態での夜間外出は認められていない。いざとなれば全速力で逃げるが、大前提は見付からないことが一番だ。そのためにゴンに隠蔽術式を使ってもらってるし。


 だが、空は使えないことは変わらない。姿を隠している魑魅魍魎も多く、出現ポイントも空が多いために一番警戒されている。そんなところをいくらゴンの術式とはいえどんな要素でバレるかわからない。なら、一般人が多く歩いている下から普通に向かうのが安全だ。

 その向かう途中で。試したいことがあったためにゴンに聞いてみる。


「ゴン。千里眼使ってみてもいいか?」

『ちゃんと使えるようになったのか?』

「たぶん。ある程度見えるよ」


 周りの警戒はゴンに任せて、ちょくちょく練習していた千里眼を試す。Aさんと姫さん、それにあの二匹の鬼は中々個性的な霊気をしている。霊気の溢れた京都とはいえ、あれだけ個性的な霊気なら方向さえ合っていれば見付けられるだろう。

 というわけで立ち止まって遠くを見てみる。さすがに歩きながらは無理だ。そういうわけで前方を空から俯瞰するように眺めてみると、一か所に纏まっている大きな霊気の集まりを四つ見付けた。まさかの一発ツモだ。


 その霊気に向かって視線を近付けてみると、向こうも気付いたのか全員に視線を向けられた。

 二人と二匹がいたのは古風な民家のような場所。鬼二匹は酒盛りをしていて、姫さんは窓柵に腰を掛けて外を見ていたようだ。Aさんは何か本を読んでいたらしい。


「おや、明君。千里眼の取得おめでとう。音は届いてるだろうが、こちらに送る手段がないのだろう?こちらの座標へ、式神へ送るような念話を送ればいい。君の瞳とこの場所が千里眼という霊気の流れで繋がっている。それはもはや式神との契約とさして変わらない。できるだろう?」


 そう言われてアドバイス通りに念話を送ると、たしかに場所を通して念話が通じた。これで離れた場所に居ても表情を見ながら会話ができる。まあ、科学の進歩的にテレビ通話というものがあるので霊気を使ってまですることではないと言えばそうなのだが。

 でもAさんたちは定住先がないだろうし、携帯電話も持ってなさそうだ。契約とかできなさそうだし。その場合、姿を見つけて遠くからでも話せるというのは良い。

 相手は呪術犯罪者。そんな人たちと表立って懇意にするのはまずいだろうしなあ。


「聞こえていますか?」

「ああ、聞こえているよ。今日は珠希君は一緒じゃないようだな」

「少し体調を崩しまして。……尻尾が増えたんです」

「ほう?それは興味深い。昨日今日ということは私の襲撃が要因ではないと。昨日は何かしたのか?」

「伏見稲荷大社に行ってきました。そこで宇迦様にお目通りしました」


 嘘をつくまでのことでもないと思って正直に答えた。Aさんたちは呪術犯罪者で、プロの陰陽師を殺したりもしているが難波家やミクのことについては味方で信用できる。

 ミクの尻尾が増えたと聞いて鬼たちは祝い酒だとか抜かして追加で盃に酒を足す。口実が欲しいだけだろう。姫さんは知識を引っ張り出しているのか思案しているようだった。それはAさんも同じ。


「宇迦様に会ったのか。なら答えはそれだ。神と同調したと言うと大それているが、珠希君の尻尾が増えるということは霊気と神気が増えるということ。感化された、が言い得て妙か。同じ狐として影響を受けた。それだけの力が宇迦様にはある。だがそれも最初だけだろう。今後会いに行っても尻尾は増えないだろうな」

「確証はあるのでしょうか?」

「おそらくだが、宇迦様の祝福が形になっただけだろう。体調を崩すような霊気の増加は神からの施しくらいしか思いつかない。それに何度も祝福をくれる程神も優しい存在じゃない。初めて会った同族への手向けだ。今の霊気と神気に身体が慣れれば、宇迦様の社でそれ以上感化されることはない」


 確証はなかったが、推論としては筋が通っていそうだ。あの場所は他の存在へ与える影響が大きい。俺だって押しつぶされるかと思ったし、一種の修業になったのか俺の霊気も増えていた。

 慣れた後はあの場所も苦痛はなかった。あれだけの神気の暴流だったというのに。むしろ居心地の良い場所へと変化していった。それを考えると感化されるというのも身体で理解できていた。


「理由はわかりました。Aさんにあと聞きたいことは、タマの増えすぎた霊気を身体に支障が出ない程度に抑える方法なのですが、心当たりはありますか?」

「応急処置としてはやはり霊気を使い、辛くなくなるまで調整することだろう。天狐殿による外部からのものでも、式神に送る霊気の量を増やすのも手だな。霊気を送りすぎたからって破裂するようなやわな式神ではないだろう?」

「はい。そういう意味ではかなり信用できます」


 式神としての格なら日本の中でも最高峰だろう。何せ全員神か分け御霊。霊気を与えれば与える程強くなるんだから、許容量もある三体なら問題ないだろう。ひとまずは瑠姫に霊気を与えまくって様子を見よう。

 一番良いのはずっと実体化させておいて、何かしらの術を使わせること。瑠姫なら日常的に使っても平気な術式をいくつか覚えているだろうから、それを使ってもらおう。


「そういった処置以外では慣れるしかないな。霊気も神気も、濃度が濃すぎれば人体に影響を及ぼすが、基本的には良いものだ。馴染むまでは時間がかかるだろうが、そこまで深刻にならなくていい。九本目までいかなければな」

「……やっぱり、九本目まで行くと、タマは九尾に存在を乗っ取られるんですか?」

「今までの悪霊憑きの例からしたらな。悪霊に堕ちるということは、その存在による身体と心の支配が完了したことと同義だ。悪霊だって意味もなく人間に憑いているわけではない。その存在がいわゆる良い存在だったら共存も可能だろうが、珠希君に憑いている狐がどういうものかはわからない。意思疎通も何もできないからな」


 どうしてこうも不安を煽る言い方をしてくるのだろうか。一々もっともだから反論もできないんだけど。

 それと、周期を考えると九本になるまであまり猶予がない気がする。十四歳までに四本だったのが、十五歳の段階で六本。しかもこの内二本はここ数か月の話だ。京都に来たからか、最近事件に巻き込まれているからか一気に段階を踏んでいる気がする。


 かと言ってその全てからミクを遠ざけるのも不可能だ。Aさんがそういう世界にしてしまった。あまり嬉しくないことに、争いに巻き込まれるような世界になってしまっている。非常に不本意なのだが、また戦うことになるだろう。そして俺が戦っていたら、ミクも多分戦ってしまう。

 俺がミクを戦わせたくないように、ミクも俺を戦わせたくない。死ぬ可能性があるのにそんな危ない場所へは一人で向かわせられない。一人で行かせるなら二人一緒に、という考えが大前提である。


 この先も二人で様々な事件に巻き込まれたら。それだけミクの覚醒が早まりそうだ。これを狙ってAさんがこの前の事件を引き起こしたなら、まさしく袋小路。頼れそうだから頼ってみたが、これでは逆効果だ。

 だけど直感からして、この人たちが俺たちを裏切ろうとはしていない気がする。聞いてみれば蟲毒の時もウチの土地を気にしていたらしいし、俺たちに期待しているというのも事実。

 この人が隠している本名について、なんとなく予想はついている。そしてウチにある様々な物から、ある仮設も立っている。それを問い質しても、誰もが口を閉ざすだけだろうから聞かないけど。


「明君。もし彼女が九尾になってしまったとしても、君が珠希君を正気に戻せるような陰陽師になればいい。安倍晴明や芦屋道満の遺した書には中々興味深いものがある。誰も知らない泰山府君祭などな。あとは歴代の麒麟が残した研究成果も役に立たなそうな物から意外な物まである。おや?それは呪術省の奥深くにしかない代物だな?取りに行くには部外者の我々では攻め込まねば」

「……元麒麟の姫さんがいるんですから、何か抜け道のようなものを知っているんじゃないんですか?」

「あら?気付いたん?明君」


 姫さんも念話に加わってくる。ちょっとネットで調べたし、父さんからも色々聞いたからな。納得したっちゃしたけど。


「でもなあ。あたしが呪術省に通ってた頃は結構前やから、色々変わってると思うんよ。それに麒麟の書がある倉庫は基本的に防備が厳重。明君くらいの実力者が二人くらい仲間になってくれたらなぁ。あ、式神込みの実力だからね?」

「式神込みとなると、あとは五神の方々くらいですね……」


 神の分け御霊を式神にしている人物なんてほぼいないはず。その条件に合致するのは俺とミク、それと五神くらいしか思いつかない。今では父さんたちもその対象から外れてしまっている。

 本当にそんな書が必要だというのなら、呪術省にも攻め込まないといけないなとは思う。犯罪者の烙印を受けてでも、優先するのはミクの安否だ。


『マユの奴誘ってるんだけどよ、全然靡かねえんだよな。A、今度マジで攫って来ていい?』

「好きにしろ。候補は何人かいたから、殺さなきゃ問題ない」


 マユさん、外道丸に目をつけられたばっかりに。どうにか怪我しないで済むと良いけど。でもこの面子にマユさんが加わったら、呪術省の勢力はがらりと変わるだろうな。五神の中でも一番の実力者だろうし。


「明君。誘うのはまた今度にするが、今夜のこの後の予定は?」

「宇迦様にもう一度会いに行こうと思います。何か、狐憑きについて、または九尾について知っている可能性があるので」

「悪いことは言わない。念話も切って帰り給え。特に珠希君の体調が良くないのならなおさらだ」

「えっ?」

「嵐が来る」


 そう言われて、向こう側から強制的に念話を切られて視界も元通りになっていた。ぶつんという途切れた感覚があったのでちょっと頭が痛かったが、その痛みもすぐ治まる。


「ゴン、聞こえてただろ?どうするべきだと思う?」

『……帰るぞ。珠希のことは瑠姫と一緒に守らねえと。早すぎるだろ……!』

「何が……?」


 ゴンが上空を睨んでいたので、俺もつられて上を向く。最初はいつも通りの星空かとも思ったが、その星々が落ちてくるような、朱色の流星が近付いてくるのを肉眼で確認するのと同時にありえない波動をその身に受けていた。

 あの流星一つ一つが、ゴンに匹敵する神気を帯びている。その数はとっくに百を超えていた。

 百鬼夜行なんて目ではない。正真正銘、百の神が舞い降りた瞬間だった。


「──告げる。今の世に、人間に誅罰を下そう」


────


 神の御座。そこは大天狗や宇迦のように個々が過ごしやすいように建てる社もあれば、大勢の神が集まるような大広間もあれば、娯楽のための施設もある。

 この世全ての贅を集めた楽園。そう言っても過言ではない、地上とは隔絶した最後の、人を超えた次元に棲む安住の地。

 その大広間には大天狗とその眷属たる天狗たちの姿が。他にも長身で顎からは長い白い髭を生やした老人や、真っ白な毛並みを揃えた馬、天女のような格好をした女など様々な存在が集まっていた。

 この場にいるのは全員神かその眷属である。


「大天狗。一番槍は貴様に任せるが、もし苦戦するようであればすぐに増援を送るぞ?」

「心配はいらん。見定めるのにそう何柱もいらぬだろう。それに、晴明が少しはあの時代に世界の在り方テクスチャを変えている。日ノ本建国時と比べれば大分心もとないが、今の人間どもなら余裕で屠れるだろう」

「神としての威光を見せよ。今の人間は神の奇跡も存在も信じない愚か者ばかりだ。ついでに選民を施しても構わん」

「暇があればな」


 神と軽口を叩いてから、大天狗の集団が下へ続く道を下っていく。その総数百二十以上。大小様々な天狗がいて、小さい者は人間の掌に乗るサイズから、大きい者は大天狗と変わらないサイズ。

 服装は統一されていて全員山伏のような格好をしていたが、武器はそれぞれ違っていた。その体躯を超える三叉鉾に、刀や太刀、弓を背に矢が入った鏑を腰に下げた者もいれば、明らかに日本が産み出した物ではないクロスボウや両刃剣、ヌンチャクや三節棍を手に持つ者もいる。


 日本の鬼が持っているとされるような大きな金棒や大鎌、忍者が使ったとされる手裏剣や苦無を持つ者もいる。木刀やメリケンサックを嵌めているヤンキーかぶれの天狗までいた。

 まだ中国大陸伝統の物であれば理解できるが、刺突剣レイピアやギロチンの刃、ハンマーやトマホークにモーニングスターなど、どこから日本の神の御座に持ってきたのかと首を傾げかねないような武器を携えた者までいた。


 もちろんこれは神の御座で産み出したものだ。神の御座とは日本の神が住む場所ではあるが、海外にも精通している。信仰などは日本の中で完結しているが、日本以外のことを知ることはできる。

 そこで知った知識を交換したり、鍛冶の神が試し打ちと言って製造したり、美食の神が実際に海外に赴いてその国の御馳走を食べてきたりと、国外でもかなり自由奔放に活動している。


 その結果が、この統一感のない天狗の軍団だ。失敗作と鍛冶の神が言うような武器をもらい受けて天狗たちは得物としていたが、地上の人間が見ればまさしく神が創りたもうた物として価値がわかる人間は卒倒するような代物ばかり。

 真作と呼ばれるような代物は、眷属の天狗如きに渡される物ではないからだ。

 そんな不出来とされた武器とはいえ、曲がりなりにも鍛冶の神が用意した逸品を装備した天狗の軍団が浮かべるのは人間に対する怒りだったり、ようやく動けるといった喜びの表情だったり、暴れられることを純粋に楽しもうとしている戦闘狂としての恐怖を誘う笑みだったり。


 一つ言えることは、どの天狗も今回の襲撃を心待ちにしていたということ。千年前は人間に価値なしとして、手も出さず神の御座へ引きこもった。

 人間は神が手を出さずとも、自滅したからだ。

 その後神の気まぐれや妖という恐怖がなくなれば、人間は人間たちで争った。日本の中でもそうだが、海を渡って他国へ侵攻した。他国からも攻められた。そうやって勝手に傷付いていき、日本が汚れていく様を見て完全に見限った。


 大きな争いを経て、人間は景観を変えながらもおとなしく暮らしていると思えば、地上に残った数少ない、慈悲深い土地神を殺した。そこからは本意ではなくてもAと協力しつつ人間を再び管理することにした。

 管理しなければ、愚かすぎて見ていられなかった。あれがかなり薄まったとはいえ、同じ血を流していることに耐えられなかった。だからこそ、増えすぎた人類を間引く。


 今回はその第一陣に過ぎない。この結果を踏まえて今後どうするのか本格決定するのだ。

 天狗の軍団は白い道を下っていき、大きな鳥居に着いた。そこをくぐるともう下界、地上だ。そこをくぐる前に例の扇を紐で括り付けた大天狗が号令を発する。


「では征くぞ。進軍だ!」

『『『おおおおおおおおおおおおっ!』』』


 一斉に鳥居を抜けると、そこはすでに京都の上空だった。本来神の御座はその神を信仰する神社のどこかと繋がっているのが通例だ。宇迦の社がそうだった。

 だが、最近の神々はその神社から寄せられる信仰すら受け取らずに外界と関わりを絶つ神も多くなっている。そのためか、どんな神でも利用する大広間から下界へ繋がっている鳥居は下界の神社とは繋がらず、京都の上空へと繋がっている。


 そこへ全員移動が終わると、誰も勝手な行動はせずに主たる大天狗の推参を待った。その間に三百六十度何か警戒すべき存在がいないのか哨戒を始める。結果として雑魚の魑魅魍魎は浮かんでいたが、警戒するような存在は近くにいなかった。

 大天狗が一番最後に移動してきて、京都の街を眺める。ビル群もそうだが、人工的な光が増えたかつての都を見て、眉間の皺が深くなっていく。


「これが都だと……?本当に汚らわしくなったな。霊気も神気も少なく、空気が汚い。雑多なものも多く、人間の雑念ばかりではないか。神など信じず、自分たちの生活に手一杯。封鎖的なその日暮らししか映っておらん」

『大天狗様。晴明から聞いていた呪術省なる建物を発見しました。それと、晴明一味も』

「ふん。どうせあ奴も儂らが移動してきたことに気付いているだろう。神気に鋭い者ならこれくらい離れていても察することができる。……反応を確かめるか。皆の者、雑に行くのはやめよう。風を巻き起こして更地にするなどいつでもできるが故に、現れた儂らをどう思うか、まずは何もしない。向こうから攻めてきても、危険がない限り儂らは手加減をしようではないか。それが超越者としての役目であろう」

『仰せのままに』

「では降りるぞ」


 今度は来る時とは異なり、大天狗を先頭として降りていく。こうして近寄っても気付く者は少数。神気がある程度広がったというのに、それを感じ取れる人間はまだまだ少ないということだ。

 まだ上空に留まっていたが、その姿は人間の肉眼ではっきりと見える位置まで降下した。そして辺りを見回して大天狗はこう宣言した。


「──告げる。今の世に、人間に誅罰を下そう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る